第14話 生配信

 由美の合図とともに、私の生配信は始まった。


「皆さん、見てますか?パパ活系ユーチューバーのはるのんで~す。初の生配信、緊張します」


 序盤の滑り出しは、好調のつもりだけど、視聴者数は1人。今由美が私のスマホで見てるから、実質的には誰も見ていないことになる。とりあえず、当たり障りのない自己紹介をしておくと、すぐに10人を超えた。やっぱりバズるとそれなりに人は見てくれるらしい。


「ということで、そこそこ人が集まってきたところで、パパ活の闇を……、と思ったのですが、さすがにニュースにもなってしまった内容なので、安易には話すとダメかなと思いました。そこで、発表です。今日配信中にチャンネル登録者数1000名を超えたらパパ活の闇、というか事件の真相についてお話していきたいと思います。ということで、皆さん拡散よろしくね」


 チャット欄には、「ビッチ」「炎上商法」「1000とか絶対無理でしょ」みたいなコメントで溢れている。


 今回生配信で、基本ずっと映っていなきゃいけないから、SNSとかの監視は全て由美がやる。一応私の見えるところにパソコンが置いてある。

 パソコンの画面上は、2分割されていて、片方は実際の配信で流れている映像、そしてもう片方はメッセージアプリが開かれていて、由美が持っている私のスマホからメッセージを送る形で私でコミュニケ―ションを取ることになっている。早速由美からのメッセージでSNSで急速に拡散されていることがわかった。視聴者数は100を超えた。



 視聴者数が続々と増えたことで、チャット欄は盛り上がってきた。明らかな下ネタの質問も多くなってきたけど、答えられる範囲で答えていく。ちなみに、由美からはパパ活女子ってキャラだから、清楚系ビッチを目指してほしいという謎の指令を受けて、ギリギリまで清楚系ビッチの登場するマンガをスマホで読み続けていた。

 そこで読んだキャラを目標にそれっぽく、ちなみにほとんど嘘だけど、答えていくと、かなり盛り上がってきた。


「色々コメントありがとうございます。まずは見てくれるっていうだけでうれしいです。もっと見て、話題にしてもらえると嬉しいです」


 一応真面目な部分も出していく。これは本心でもある。これまでどれだけ頑張っても、再生数が伸びなかったのに、今はこれだけの人に見てもらっているというだけでもうれしくなる。

 チャット欄では「メンタル強すぎ」「一周回って好きになってきた」というコメントが目立つようになり、ちょっとずつ受け入れられているのかもしれないと思った。視聴者数はいつの間にか800を超えていた。

 そして、由美からメッセージが入り、チャンネル登録者数は1000を超えた。チラッと由美を見ると、グーのサインをしている。


「なんと登録者数1000突破しました~。まさかまさかの収益化です。意外にちょろいね。はるのんのことこれからも応援してくれるとうれしいです。じゃあ早速パパ活のことを話していきたいと思います。事件は先月起きました……」


 このタイミングで、パソコン上での配信が固まった。せっかくいいところなのに。ちょっと回線が悪いのかなと思い、そのまま話し続ける。ただ、由美が少し焦っていた。ここで、「一旦配信止めて」というメッセージが届く。私は無視して続けようとするけど、メッセージが何度も届いたので、「ちょっと電波が悪くなったみたいなので一旦中断します」と言って、配信を止めた。


「春乃、遅いよ」


「配信止めてってどういうこと?」


「とりあえず返す」


 由美からスマホを返してもらう。スマホを開くとはるのんチャンネルと思われるページに、「このチャンネルは不適切と判断したため、アカウントを凍結しています」という表示が出ている。


「これどういうこと?」


「アカウントBANされた」


 ちょっと待って。なんで。ただただトークしてただけなのに。


「えっ、このタイミングで」


「そうみたい」


「信じられない」


「特にHな要素なかったけどね」


「エロって落ちるの?」


「らしいよ。他には犯罪系とか」


 気づいた。パパ活だ。パパ活系ユーチューバーはまずかったか。


「パパ活がダメかな」


「かもね。まあ犯罪を助長する行為と言われれば、そうかも」


 せっかく収益化できるところまで来たのに。

 こうして、私たちのユーチューバー計画はアカウント凍結にて幕を閉じた。



 翌日学校に行くと、クラスの人たちがこっちを見て少し笑ってる気がした。あの後、私の配信はネット上で伝説と化したらしく、SNSで短く編集された、いわゆる切り抜き動画が大量に拡散された。トレンド入りして、びっくりするほどバズった。

 何より最後アカウントが凍結されたところもオチとして面白かったらしい。背水の陣で高校名も出して配信したことのも災いして、高校名もトレンド入りしてしまった。当然その影響で学校の人たちはみんな知っている。

 意外にもあれだけ人気のなかったメントスコーラの動画の切り抜きも一緒に拡散され、底辺ユーチューバーの末路という形でまとめサイトにも多く取り上げられた。


 今回はテレビのニュースにはならなかったものの、最終的にはネットニュースになり、コメント数はその日のニュースの中で最も多かった。当然非難する内容だった。

 学校の人たちには、私のあまりにも逆に背水の陣の覚悟が伝わって、怖さもあるらしく、誰も関わってこない。

 また、今回に関しては由美も無傷では済まなかったらしく、動画に協力しているという噂は瞬く間に広がり、由美と二人でのけ者コンビになった。元々二人とものけ者にされてるところがあったので、これまで通りと言えばそこれまで通りだった。ただ、これまでは結果的にそうなってただけだったのが、今回のことをもって不名誉ながら正式にのけ者コンビになった。

 次アカウント作るんだったら、のけものフレンズって名前にするくらい、クラスから存在をなかったことにされた。


 ちなみに、家ではお母さんは知ってたけど、どれだけ儲かったかだけ聞かれた。一円も儲かってないことを話すと、がっかりしてそれ以上聞いてこなかった。


 1時間目が始まる前に、私だけ今度は校長室に呼び出されて、教頭先生や担任の先生とともに、校長先生からこっぴどく怒られた。基本的には学校の名誉の話をひたすらされ、停学を匂わされ続けた。パパ活は悪かったけども、配信についてはそんな謝るようなことはなかったと思った。ただ、最終的に学校にも迷惑がかかったのは確かで学校名を出したことが原因だとは思ったから、何度も謝って、何とか停学は免れた。

 由美のことは最後まで伏せていてあくまで一人でやったことにしたことで、由美は呼びだされることはなかった。



 いつも通り、屋上で由美と二人で昼ご飯を食べるけども、今日は私たちと見回りの先生以外は誰もいない。私たちと関わりたくないために、みんな屋上を避けたらしい。

 そもそも、こんな屋上にまでわざわざ来る人たちは、どちらかと言うとクラスのリーダー的な存在とかではなく、日陰的な存在で、どちらかと言うと内気な人たちが多かった。そういう人たちはこっちに絡んでくるんじゃなくて、避けようとするのは当然だとも思った。

 休み時間にミーハーな男子に少々話しかけられたものの、そもそもクラスの人たちと話したことすらほとんどなかったために、別にからかわれたりすることはなく、ただただ陰口をたたかれるだけだった。由美は結構知り合いがいて、話してたけど、面倒くさくなったらシャットアウトするタイプの人間なので、途中で見事にシャットアウトしてた。他のクラスからも色々見に来てはいたけど、話しかけるほどの勇気があった人はいなかったらしく、結果的に表面的には特に学校生活に影響はなかった。

 いじめられなくて良かったと思うものの、ちょっと複雑な気分だった。


「結局アカウント戻んなかったね」


 こんな感じで由美も普通だった。


「まあ仕方ないんじゃない。トレンド入りまでするとは思わなかったけどね」


「せっかく1000人いったのに、何も闇暴かれないって許せないよね」


「いや、真面目か」


 二人で笑う。完全に日常が戻ってきたって感じがする。


「正直事件のことって言っても何も話すこと決めてなかったし、そこは救われた部分あるよね」


「決めてなかったんだ」


「ただただ流れで話そうと思ってたから。でもよく考えたらあの話って面白いよね?」


「何が?」


「いや、普通に金稼ぐためにパパ活しようとして一発目で偽物に引っかかるとかさ」


「まあ勧善懲悪でありがちだね」


「そもそも家は貧しいし、お母さんシングルマザーだから、家計支えるために自分もほぼ毎日バイトしてるとかさ」


「今バイトしてないじゃん」


「そうだけどさ」


「まあよくある物語の設定盛り込みすぎだね。私が編集者だったら即却下かも。ある意味フィクションよりフィクションかもね」


 何気ない会話だったけど、由美のフィクションよりフィクションという言葉に引っかかった。

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