第13話 仲直り

 元の高校生活に戻ると決めてから初めての学校。緊張しながらも、教室に入ると、既に由美がいた。由美とこれまで通り仲良くしようと、普通に挨拶しようとしたけど、その前にチャイムが鳴った。肝心な日に限って、遅刻寸前だったらしい。


 で、その後偶然にも今日に限って午前中は移動教室のオンパレードで、由美と話す機会がなかった。そして昼休み、弁当を忘れたのでいつも通りに購買にダッシュしようとするが、横で由美が止める。由美が弁当を半分分けてくれると言ったので、そのまま二人で屋上に行く。


「あのさ、由美、私さ……」


 由美に仲直りしようと声を掛けようとしたとき、由美はスマホで私たちが最初に撮ったメントスコーラの動画を見せる。


「ちょっと見て」


 私はもうやめた気で、由美が一番やめてほしいということを言っていたから、意外だった。編集までして何度も見た動画は、たった1か月前なのにもう懐かしいとすら思えてくる。


「懐かしいね。でも、私さやっと決めたから、元の……」


「そうじゃなくて、ここ見て」


 由美は、そう言って再生数の部分を見せてくる。既に再生数が1万を超えている。


「嘘でしょ」


 あんなに伸びなかったのに、突然こんなに再生数が伸びている。


「焦るよね。バズった理由はさ、このコメントらしい」


メントスコーラの動画のコメントに、「パパ活女子の正体 詳細はこちら」というコメントがついていて、そこにはURLがついている。そして、そのURLの先には「パパ活女子の正体は横田春乃」というまとめサイトにつながっていた。


「なるほど……」


 とうとうバレたらしい。こうなることを想像してなかったわけじゃないけど、実際になってしまった。本当は人気が出たときに足かせになるんじゃないかくらいに少し想像していたけど、実際は逆だった。


「まあいずれこうなることはわかってたし」


 もう強がることしかできない。でも、これからどうすればいいんだろう。本名もバレたし、いずれ学校の人たちもみんな知るんだろうか。やっぱりいじめられたりとかするんだろうか。

 やばいな。

 せっかく普通の生活に戻ろうとしたのにな。これ多分バイトもできないよね。本名検索してこのページ出てきたら採用されないよね。まずいな。


「意外に平気だね」


「覚悟はできてたから」


 もうこうしてダメージ受けてないように見せることしかできない。よく考えたら、人生終了なんじゃないかとすら思えてくる。貧乏から抜け出すも何も、未来も何もないんじゃないかという気すらしてくる。


「そっか」


「この際、パパ活の裏を暴くみたいな配信しよっかな」


 もう冗談を飛ばすくらいしかできない。黙っていたら、勝手に泣けてきそうだった。


「……それいいかもね。いいよ、それ」


「いや、冗談なんだけど……、え?」


「これがとがるってことだよ」


 意外に由美が乗り気になった。

 よく考えれば、確かに普通の高校生が普通の配信をしたって、そら普通で何の面白みもない。でも、女子高生で実際にパパ活してたってニュースになってた人が、その裏話をするってどうだろう。確かに、私はちょっと見たいかもしれないと思った。そもそもこんなニュースになった人が動画に出ることも珍しいだろうし、それがパパ活って。


「確かに面白いかも」


「でも、ダメだ」


「何がダメ?」


「春乃、パパ活の裏知らないじゃん?」


 確かに。私はただパパ活のサイトに登録して、そのまま最初に会った人が危ない人たちだったってだけで、実際はちゃんとしたパパ活したことない。

 そもそもしてたらしてたで問題なんだろうけど、してなかったらそれはそれで見たいと思わないかも。いや、でも、よく考えたら、あの時の婦警さんですら1回もパパ活してないって信じてもらえなかったくらいだし、行けるんじゃないかという気もしてきた。


「大丈夫、知ってるって思われてるから」


「そうかな?」


 由美は疑いの目で見るけど、これには自信があった。何よりこれまでの一生懸命考えたどの企画よりもはるかに面白いという自信はあった。だからこそ、由美には信じてもらうしかない。


「まあ任せて」


「結局復帰するの?」


「もうそれしかないでしょ」


 私はもう普通の生活には戻れないことを確信し、ユーチューバーとして生きていくことを決めた。



 放課後由美の家に直行した。

 何とか由美を説得して、今日ライブ配信を行うことにした。パパ活の闇について語るというタイトルで準備した。

 パソコンでライブ配信をしようとライブ配信用のフリーソフトを入れたけど、なぜかビデオカメラをパソコンに繋いでも映像が反応しなくて、最終的には由美のスマホで配信することにした。

 由美のスマホは最新機種で、十分配信に耐えられるものだった。


 いつもなら特定を避けて服装は制服なんて着てこないんだけど、どのみちもう学校もバレてるし、本名もバレてるんだから、逆手にとって堂々と制服を着て出ることにした。配信時間は21時に決めた。


 配信時間まで時間があったので、結局この日も晩御飯をごちそうになった。喧嘩していたことを知っていたらしく、仲直りしたことを由美のお母さんはとても喜んでいた。

 晩御飯を食べて、それでも配信の1時間前にはスタンバイができた。由美は相変わらず乗り気じゃないらしく、横でずっとスマホをいじっている。


「由美さ、そろそろやる気出してよ」


「やる気出してるけど」


「どこが?」


 由美、突然他の配信者の生配信を見せてくる。


「今色々研究してたんだけど」


「研究してたの?」


 由美は、やる気ないんじゃなくて、ずっと生配信をどうやったらいいかを考えてくれていたらしい。なんだかんだ由美が一番やる気を持って動画のこと考えてくれている気がする。


「で、こういう暴露系って言うのかな。こういうときって、何か登録者何人に到達したら暴露しますみたいなこと言った方が良いらしいよ」


「そうなんだ。じゃあ私たちもそうする?」


「だね。とりあえずせっかくやるなら、収益化の目安になる1000人を目標にするのでどう?」


 1000人は盛ったね。ちょっと前までは4人とかだったし、今でも100人くらいしかいないのに。


「さすがに多くない?」


「むしろこれくらい持った方が良いよ。達成できなさそうな方が盛り上がるよ。それに闇なんか持ってないんだから、達成しない目標の方が良いよ」


「なるほど、そうしよっか」



 間もなく配信時間の21時になる。

 ここまでの時間、ひたすら由美と生配信の内容を考えた。まず事前準備としてプロフィールを少し変更し、パパ活系ユーチューバーという文言を加えた。パパ活系ってどういう系かわからないけど、とりあえずパパ活ってワードに乗っかっておけば良いんじゃないかという話になった。

 それで、トークについては、登録者数が1000人になるまではひたすら視聴者を煽りながら、適当にパパ活以外の質問に答えていくことにした。それで万一登録者数に到達したら、事件のことを洗いざらい話すことにした。由美いわく、ただただ話してるだけで少しでもファンになってくれる人が増えたらそれだけでやっていけるようになるからということだった。

 私としてももうここで成功するしかないから、ここは由美を全面的に信頼する。


「9時になるよ、じゃあ始めるよ」


 由美はカウントを出す。そして、配信は始まった。

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