第11話 初投稿

「はい、始まりました。はるのんチャンネル。はるのんで~す。今日はおなじみのあれを検証していきたいと思います」


 私は今全世界に向けた動画を撮影している。

 そうは言っても、本当に全世界の人に届くかなんてわからない。

 そもそも、別に全世界の人に届けたいと思ってやってるわけじゃない。ただただ、お金を稼ぐ手段として動画を作っている。

 とりあえず、何とかバズッてお金さえもらえれば何でもいいんだけど。そんなことを考えながら、近くに置いてあるメントスとコーラをカメラにアピールする。


「おなじみ、メントスとコーラです。これまで様々な人たちが挑戦してきましたが、あれ実は全部フェイク動画なんじゃないかと最近思い始めました。よく考えれば、実際にそんなことやってる人もいないから陰謀論の可能性があるわけです。そこで、今回私が陰謀論をしっかり否定しようと思います」


 メントスコーラごときで陰謀論とか言い出すのはさすがにバカかなと思ったけど、由美いわく割とそういうめちゃくちゃな導入の方が再生回数伸びるらしい。これまた胡散臭いけど、指示に従うことにした。

 一応派手さを狙って、コーラは大きいペットボトルで挑戦する。ちなみに、これも由美情報で、ゼロカロリーの方がもっと吹き出すということだったので、撮影前にスーパーにカロリーゼロの方を買いに走った。


「それでは、今回はこちらのコーラゼロを使ってやります。では、入れてみます」


 立ち上がってメントスをかなり上からテーブルの上のコーラに落とす。外す可能性も考えたけど、1発で入った。入れた瞬間に、噴水のように一気にコーラが噴き出す。思わずのけぞると、そのままコーラは天井まで届く。


「嘘でしょ、うわー」


 ここまでとは知らなかったので、とりあえず騒げるだけ騒いで、動画ウケを狙った。ただ、気になったのは天井で、天井にはビニール袋を掛けてなかった。私は怖くて天井を見ることはできないけども、由美の顔を見て色々と察した。とりあえず、撮影を終わらせる。


「検証結果、ちゃんとコーラは吹き出します。すっごいな。絶対マネしないでね~。それじゃ、バイバイ」


 少々強引ながら、終わらせる。


「ちょっと強引じゃない?終わり方」


 由美はそう言うけど、むしろ由美に配慮して終わらせたけどね。


「ごめん、天井まで行っちゃった」


「ああ、うん。まあ仕方ないよね。多分普通のコーラだったらここまではなってなかっただろうし、私が買いに行かせたからさ」


 そんな違いがあるのかとも思ったけど、そこまで怒ってないならいいか。


「とりあえず、片づけよっか」


 そんなときに、由美のお母さんが入ってきた。


「ちょっと、何やってんの?」


 この後、由美のお母さんに由美とともにこっぴどく怒られた。ただ、その後片づけを一緒に手伝ってくれて、何とか夕方までに由美の部屋の原状復帰に成功した。また夜ごはんに残ったコーラを使った鶏のコーラ煮をごちそうになった。



 晩御飯の後、由美の部屋に戻って、やっと撮影した動画を見た。

 動画には、メントスコーラの模様がちゃんと撮影されていた。何も言ってなかったけど、気を利かせて由美が画角調整やコーラの行方などを全部カメラで追ってくれたおかげで、映像的に撮れていない部分もなかった。音声も意外にちゃんと拾ってくれていたらしく問題なかった。ちなみに、マイクもビニール袋で覆ったために、被害はなかった。

 これなら行けそうだなって私は確信した。


「これじゃ無理でしょ」


 だから、由美のこの言葉には驚いた。


「何が?」


「視聴回数伸びるわけないじゃん。」


 ここまで一緒に良い感じに撮影してきたのに、なんでこんなこと言うんだろう。


「なんで?」


「ただコーラ噴き出しただけじゃん。」


 確かに。でも、天井まで吹き上がったし、なんとなく自分で言うのもあれだけど、私の反応も面白かった気がした。それにJKブランドがある。女子高生が何かしてるだけで人は見ると思う。私は確固たる自信があった。


「いや、わかってないな」


「えっ」


「本物のJKだよ、私たち」


「そうだね」


「JKが何かやるだけで価値があるんだよ」


「甘くない?知らないだけで全然視聴回数稼げてないJKのユーチューバーとかいっぱいいそうだけど」


 そうなのかな。まず配信しようなんて思う女子高生なんてそんなにいないんじゃないかなって私は思う。そもそもあんまり動画見ないからわからないけど。


「そもそもJKで動画出してる人ってそんなにいないんじゃないかな」


「私も売れてないJKがいるかなんて全然知らないけど」


「でしょ、それに編集したら面白くなるって」


「で、誰が編集するの?」


 え?私が出たからには由美が編集するでしょ。そうだよね。そもそも編集のこと知らないし。もちろん、手伝うけど。


「由美だけど」


「そうだよね。春乃全然何もしないじゃん」


「いや、ちゃんと企画考えたよ。それに顔出ししてるし」


「でも機材も全部私のだし」


「感謝してる。ありがと」


「どういたしまして。じゃないのよ」


「まあ一緒に編集しよ、じゃあ」


「当たり前。これもし利益出たら9割私がもらってもいいと思う」


「いやいや、そこは許して」


「まあ利益なんて出ないけどね」


 好きに言えばいいよ。多分バズるから。



 次の日も日曜で学校が休みということもあって、朝から由美の部屋で編集する。編集すると言っても、基本は由美の編集している様子をただ横で見るだけ。あんなに文句言っていた割に、私が昨日帰った後、編集ソフトの使い方を勉強したらしく、基本的な操作はすらすらとやっていた。


「由美、編集うまいね」


「ちょっと勉強しただけだから。春乃はやらないの?」


「私がパソコンできないの知ってるでしょ」


「まあ知らないけど。やってみたら」


 そう言われてちょっとやってみたけども、やっぱり遅い。遅い自分にイライラして、由美にやってもらう。


 なんだかんだ夜になる頃には、完成していた。由美は完全にやりきった感を出している。


「お疲れ」


 私は由美にジュースを差し出す。


「春乃、ほんと何もしなかったね」


「由美の邪魔しないようにしてたから」


「そうだね。確かにそうだけど」


「ほら、最後ジュース届けたし」


「このジュース持ってきたのお母さんだから」


「ワンチームでさ、それぞれやれることやったよね」


「まあ私は顔出ししてないし、別にいいんだけど」


 そう言いながらも、何か由美は少しうれしそうな顔をしている。なんだかんだ今日の編集の時間は楽しかった。

 特にめちゃくちゃ話すということはなかったけど、一瞬一瞬にテロップを付けたり、効果音を付けたり、ズームにしてみたりとか、言ってみればただ編集してるだけなんだけど、面白かった。

 たった5分の動画だけど、完成度も高い気がする。あくまで人気のある動画をなんとなく真似したらこうなったって言ってたけど、由美は動画編集の才能があるのかもしれない。


「じゃあ、公開しよう」


 これこそ撮って出しな感じだけど、このまま18時に動画を公開した。

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