第10話 撮影準備
「え?どういうこと?」
「まあそういうことだよね」
全然わからない。突然ゲームやめたら、彼氏できるの?
それなら、私もゲーム始めてすぐやめるから、そのパソコン貸してくれないかな。
「説明すると、ちょっと長いんだけど。せっかく買ったのにゲームやめるのもったいないでしょ。でも、クラスの子たちにはやめたことになってるから、学校の人でゲーム一緒にするわけにいかないじゃん。でもああいうゲームってチームプレーがメインだからさ。で、ネットで高校生チームで初心者メンバー募集してるとこ探して入れてもらったって感じ。それでそこの男の子と付き合ったって感じだね」
「ええ!じゃあゲームの人が彼氏?」
「いや、生身の人だよ。そんなキャラクターに恋したとかそんな感じじゃないから」
「そうだけど、え、じゃあ会ったことないってこと?」
「まあね、向こう佐賀の人だからね」
「佐賀!」
「今度修学旅行で東京来るらしいんだけど、会えたりしないかなって今考えてる」
「修学旅行でデートって攻めてるでしょ」
「そうでもしないと会えないからね」
「そうなのかな。なるほど。じゃあいつも彼とゲームしてるんだ」
「まあそうだね」
「いいね」
あれ、これ何の話してたっけ?由美の彼氏との馴れ初めの話聞いてたんだっけ?
「ごめん、私の彼氏の話はどうでもいいよね。で、だからパソコンはあるよってこと」
「ありがとう。これは貸してくれる感じ?」
「まあ仕方ないね、一緒にやるって言っちゃったし」
「良かった、ありがとう」
「あと、マイクもあるよ。ちなみに、そんなに高性能じゃないかもしれないけど、中学の体育祭用に買ってくれたビデオカメラがあるから、それ使えばカメラもあるし、三脚もどっかにあると思う」
「由美の家本当なんでもあるね」
「ちなみに、照明は、お父さんが使ってる歯の中見る用の照明なら余ってるかも。聞いてみよっか?」
「さすがに、それは」
「わかった、照明は買っとくよ。どうせ春乃は買えないだろうし」
「ごめん、儲かったら焼肉おごるから」
「それは叙々苑かな」
「いやいや、その辺の1000円くらいの食べ放題で」
「さすがに私4000円以上するとこじゃないと食べれない」
「金持ち、すごい」
「ちゃんと私が食べれるところの焼肉でよろしく。照明さすがに4000円もしないと思うけどね」
「そうなの?」
「でも、焼肉奢ってはもらうから、覚悟しといて」
余計な一言にものすごい反省した。
あの後照明は一緒にネットで注文した。
ようやく今日届くということで、由美の家に行った。土曜なので、学校もなく朝から行った。
由美のお母さんだけでなく、お父さんもいて少し緊張したけど、普通に挨拶するだけで済んだ。多分お父さんやお母さんにはユーチューバーのこと話していないのかと思っていたら、撮影頑張ってねと言われた。
意外に由美の家は何でも話せる良い家族なのかもしれないと思った。私はさすがに登録者数0の状態では恥ずかしかったので、お母さんには言っていない。ただ、何も言わないだけだとバイト探してるかしつこく聞かれそうなので、バイトはもう見つかりそうということで伝えている。ある程度成功したら、お母さんに伝えようと思う。
ちなみに、前回集まったときには由美の部屋で照明の注文までは終わったけど、その後彼氏の話で予想以上に盛り上がったせいで、動画の企画は考えられなかった。
その後何日かあった昼休みも結局しょうもない話をして、企画のことを話せなかった。でも、私としては今日から撮影したかったので、家で企画を考えてたら意外にすぐに思いついた。
今日は朝結構早起きして、撮影用の小道具を由美の家に来る前に買って、珍しく背負ってきたリュックの中に入れる。由美には後でサプライズということで、隠しておくことにした。
由美の部屋には、照明やカメラ、マイクが置いてある。そして、由美がパソコンをいじっていた。既にチャンネルを開設する直前のところまで来たらしい。
名前は「はるのんチャンネル」になっていた。
由美は由美で、名前のことをずっと考えてたらしい。それで、最終的に芸能人の人気チャンネルの名前を分析して、下の名前にちなんだかわいい愛称に「チャンネル」を付けるのが良いと考えたらしい。正直それも胡散臭い。ただただやっつけなんじゃないかとも思うけど、別に嫌ってわけじゃなかったので、そのまま受け入れた。
ちなみに、はるのんなんて人生で一度も呼ばれたことはなかった。
「よし、チャンネルできたね」
既にトップページ等に使われる画像はしっかりできていた。ポップな明るいピンクの背景にチャンネル名の文字が書かれている、比較的シンプルなものだった。
「じゃあ、チャンネルはできたからさ、あとは企画だね」
そう言う由美に、待ってましたと言わんばかりのドヤ顔で答える。
「実はもう決まってます!」
「そうなの?」
「うん、決めた」
私は背負ってきたリュックから、買ってきた小道具を取り出す。
「わかるよね」
由美は、黙った。
私はメントスとコーラを取り出した。一度やってみたいという好奇心だけで、ありがちだけど買ってきた。
「これってさ、メントス入れたらコーラあふれてくるやつだよね」
「そうそう」
「みんな知ってると思うよ」
「うん」
「もっと考えた方が」
「いや、最初はお試しみたいな意味も込めてこういうのが良いと思うんだよね」
「そうかな」
「という感じでよろしく」
私は撮影のために照明とかをセッティングしようとすると、
「ちょっと待って、ここでやるの?」
「そうだけど」
「無理無理。聞いてないよ」
「言ってなかったっけ?」
こうしてとぼけてみる。これで押し切れるか。
「だって、メントスコーラでしょ。部屋汚れるし」
「そう思ってさ」
リュックから50Lのゴミ袋10枚入りのパックを取り出す。
「これでさ、周りを囲めばいいよ」
「用意周到だね」
「まあそれくらいはしないと」
ここから1時間粘って交渉して、何とかOKをもらえた。部屋の周りをゴミ袋で覆い、飛び散っても大丈夫なようにする。つなぎ合わせる養生テープがなかったので、それはコンビニに買いに走った。
途中、由美のお母さんがジュースを差し入れてくれたときは、めちゃくちゃ驚かれたけど、頑張ってと声を掛けてもらった。
セッティングが終わり、いざ撮影するとなったとき私の前に小さいテーブルがあった方がいいことに気づき、急遽由美のお母さんを説得してこたつ用テーブルを持ってきてもらった。
ついでに、昼ごはんでカレーももらった。腹ごしらえも済んで、これで準備完了した。これから初めての動画を撮影する。
由美はどうしても出演したくないということで、カメラの後ろで助手として頑張ってもらうことにした。そして、今私はカメラの前に座っている。由美がカウント出しをし、カメラが回る。
私のユーチューバー人生が始まった。
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