第9話 楽して稼ぐ方法

 二人で楽して稼ぐ方法を考えることになった。


 由美は私の不服そうな顔にあきらめたのか、この場でスマホで検索してくれるらしい。私も一応スマホで「楽な稼ぎ方 JK」で検索してみるものの、やっぱり上位にはパパ活やそれに類する水商売系のバイトが出てくる。ただ、もう少し健全なもので撮影会っていうのもあった。ただ、撮影会を調べると、おじさんとラブホテルで二人きりになったりすることもあるらしくて、結局危ないらしいということがわかった。

 もう私のスマホの検索履歴が、そういう水商売系のもので埋め尽くされているからなのか、健全な仕事は見つかる気がしなかった。そもそも普通のカフェとかでバイトしろって話かもしれないけど。


「こんなのあるよ」


 由美は動画を見せてくれた。ポイ活のやり方を教えてくれる配信者の動画だった。ポイ活はポイント活動の略で、広告とかを見たりゲームしたりしてポイントを貯めて、それをお金やギフトカードに換えるらしい。


「なるほど、それも楽しそうだね」


「他にもこういうのもあるよ」


 今度は写真販売のやり方を教えてくれる配信者の動画だった。写真販売と言っても、ただ自分の写真とかを売るのではなくて、景色やただの道などを撮った写真を売るらしい。今の時代著作権が問題になるらしくて、勝手に人の写真を使うわけにいかないらしく、適当な風景写真とかが案外売れたりするらしい。

 そんなに高い金額で売れるわけではないけど、相当平凡で誰でも撮れそうな空の写真が何十枚も購入されていたから、意外に稼げるのかもしれないと思った。


「写真か、良いかもね」


 突然由美は私の写真を撮ってきた。


「パパ活女子発見」


「やめて」


「これは確かに稼げそう」


「絶対ダメだよ」


「ごめんごめん。とりあえず、例えばこういうのもあるよって話」


 正直、どれもまあ稼げるのかもしれないし、詳しくないけど多分合法だろうなとは思ったけど、全然ピンとこない。


「どんなのが良いんだろうね」


 こんなときにふと気づいた。今稼ぎ方を全部動画で見てたことに。もしかして、今って動画ってすごい需要あるのかもしれないって思った。まあ既にたくさんの人たちがやってるけど、何かすごい面白そうな気がした。何より夢がある。バイトだとせいぜい最低時給だ。

 で、今言ってもらったポイ活とか写真とかはバイトとかより楽なのかもしれないけど、収入はたかがしれてると思う。少なくとも、突然億とかもらえることはないと思う。

 でも、動画は別だ。登録者数の多い人は億とか稼いでるらしいし、自分の自己紹介だけで流行語にノミネートされるかもしれない。そう考えると、このタイミングで動画の、いわゆるユーチューバーみたいなのになるのっていいのかなって思った。

 とりあえず、由美に聞く。


「ねえ、動画ってどう?」


「ユーチューバー的な」


「そうそう。ただ編集とか地道にやらなきゃだけど、稼げるかもしれないなって。全然楽になってはないかもしれないけど、逆に億万長者とかも夢じゃないって感じだし。なんか収益化とか色々あるんでしょ」


「そうらしいね……。でも本当にやるの?」


 由美は疑ってるらしい。完全に以心伝心できるわけないけど、さっき出した2つの案の方がよっぽどいいじゃんって思ってるぽい。でも、今明らかに楽しそうだなと思えるのはユーチューバーだった。


「やろうよ」


「えっ、私もやるの?」


 当然手伝ってもらえると思ってたから、その反応には困った。けど、ここは押して押して何とか手伝わさせないといけない。そんなに詳しくないけど、編集とかかなり地道な作業なのに一人でやるなんて耐えられない。


「一緒にやるよね?」


「……、仕方ないね」


 一瞬、間はあったけど、意外にあっさりと承諾してくれた。やっぱり考え甘いかなって思いつつも、これからユーチューバーとして稼いでいきたいと思った。


 ユーチューバーになることを決意したタイミングで昼休みは終わってしまった。幸先悪いなと思いつつも、後は放課後一緒に由美の家で話し合うことに決まった。



 放課後もうバイトがなくなって自由になったので、そのまま由美の家に行き、ユーチューバーになるための作戦会議を開く。由美の家は2階建ての一軒家で、そこそこ広い。そもそも私の家は極端に狭いし、他の友達がいないから比べる対象がないから、本当はこれが普通なのかもしれない。

 由美の部屋は2階の奥にある。私より大きいベッドで、なおかつベッドを置いても十分なスペースがある。勉強机に本棚がある。そして、何がすごいって、椅子がゲーミングチェアなことだ。部屋の女の子らしいインテリアには少し似合わないけど、実用性には優れている。これがあればいくらでも勉強できそうだなと思った。

 いつも来ると、私がそのゲーミングチェアに座って、由美がベッドに座ることになっている。


 由美はあの後も授業中こっそりスマホで調べてくれていたらしく、必要なものというのがノートにまとめて書かれていた。カメラ、三脚、照明、マイク、パソコン、編集ソフトがまず必要らしい。ゲーム配信するならケーブルやキャプチャボードっていうう機材とかも必要らしい。

 何も知らなかったので、すごく勉強になったけど、同時にどれもすごく高そうだなと思った。


「このパソコンって、学校から支給のパソコンでいいの?」


「いやいや、まず学校支給のパソコン使って配信しちゃダメでしょ」


「そうだよね」


「またニュースになるよ。パパ活女子高生、今度は学校支給のパソコンで動画配信し厳重注意ってね」


「ごめん、わかったって」


「それにスペックが足りない。最低限もっとメモリがちゃんとあるやつが必要で、あと生配信をパソコンでするならグラフィックボードってのを積んだパソコンにしないといけない」


「なるほどね」


 何もわからなかったけど、とりあえずお金がかかりそうなことはわかった。当然私には出せないから、誰かに払ってもらう必要がある。まあ由美はお金を持ってるはずだから、もう頼るしかない。


「割と高そうだね」


 とりあえず、由美の方をじっと見てみる。


「だね」


 由美は察したのか、目をそらす。


「お金稼ぐためにお金がいるってすごく不条理だと思わない?」


 由美の方を引き続きずっと見続ける。


「そうだね」


 由美は一向にこっちを見ない。


「誰かお金分けてくれる人いないかな」


 少し上目遣いしようと頑張ってみる。


「今度は友活?」


「友活って何?」


「ちょっと二人きりでお話をするだけでお小遣いをもらえるパパ活の友達版」


「ああ……、煽ってんね」


「普通にユーチューバー用のお金稼ぐためにバイトすれば」


「正論だね」


 由美はこのタイミングでやっとこっちを向いた。私の上目遣いに爆笑する。


「何、変顔?」


「違うから、本気の顔」


「何の本気だよ」


 由美があまりに笑うので、少し腹立ってくるけど、こっちはお金をもらう側だから、我慢する。


「あのさ、ちょっと待って」


 そう言って、由美は私の座るゲーミングチェアを少しずらして、勉強机の下にある引き出しを開けた。引き出しからは高そうなリンゴのマークの付いたノートパソコンが出てくる。


「実はさ、持ってるんだよね」


「ええ!」


「さっき言ってたグラフィックボードも入ってるやつ」


「初耳なんだけど」


「去年のクリスマス、おねだりしてもらっちゃった」


 クリスマスにそんな高そうなのもらえるんだ。いいなあ、比べるのももはやおこがましいけど、私は3000円の図書カードとケーキだったな。別にそれだけで十分なんだけど、比べるとなあ。


「ていうのも、みんな結構パソコンのゲームやってるっていうから、私もやろうと思って」


「確かに聞いたことある。FPSって言うんだっけ。意外にみんなやってるよね、銃でバンバン撃つやつ」


「そうそう。で、そのままクラスの子たちと一緒にやることになったんだけど」


 由美って意外にクラスの子たちと仲良くしてるんだ。私そもそも一緒にゲームやろうって声かけるほどの関係性でもないや。意外に由美のことまだまだ知らないな。


「ただやってみたら、みんなめちゃくちゃ強くて。そもそも向こうは下手したら小学校の時からやってきてるわけでしょ。それと初めましての人じゃ、なんていうか世界が違って」


「初心者助けてくれないんだ」


「もちろん助けてくれるし、みんな優しいんだけど、何かそれがすごい申し訳なくなっちゃって」


「なるほどね」


「そもそも銃でバンバン撃つゲームなはずなのに、そこに移動するための車の運転で私が運転したら事故って全員死んだんだよね」


 さすがに笑ってしまった。


「何それ、そもそも運転とかあんの?」


「そう、意外に車とかで移動できるんだけど、それがネックだった。そういうのもあったからやめた」


「せっかく買ったのに?」


「やめたことにした、それで彼氏ができた」


 由美の突然の衝撃発言に耳を疑った。

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