第8話 トップニュース

 混沌としているベッドの下から何とかスマホを見つけ出し、ネットを開くとトップニュースで扱われていた。

 ニュースの中では、テレビのニュースと同じで、カイトと他の男たちの実名、明日香さんの実名が出ていた。コメントは何百件もついていて、明日香さんや男たちを非難するものが多かった。ただ、その中には、パパ活をした少女が悪いというコメントも多くあり、実名で報道されないのはおかしいという意見も多くあった。

 少なくとも、ニュースで私の実名が出ていないことを知って、少し安心したけど、今はSNSでバンバン拡散される時代。今度はSNSで、「横田春乃」で検索する。


 結果的には、似た名前の女優さんのインタビュー記事がいくつか出てくるだけで、私のことは何も出てこなかった。まとめサイトとかにもまとめられていなかった。


 この後学校に行くまでの時間ひたすら検索し続けた結果、高校名はバレていたものの、本名だけはどこにも出ていないことがわかった。一方で、明日香さんは、顔写真や出身高校、個人SNSの特定などが行われ、大炎上していた。ちなみに、除籍は強制的な退学のようなものだとわかった。


 学校に登校すると、担任の先生からこっそり呼び出され、少し怒られたものの、被害者だったこととこれまで一度もお金を受け取っていないことから、特に停学などの処分は受けることがなかった。また、他の生徒に先生から発表することもなかったおかげで、私がニュースになっているパパ活女子ということはバレずに済んだ。当然いじめられることもなかった。



 正直便所飯を覚悟してたのに何も起こらなかったため、いつも通り由美と屋上で昼ご飯を食べる。ただ、昨日のこともあって、言葉数は少なくなる。普段だったら、そのまま昨日あったことを由美に全部話しているんだろうけど、さすがに今日は言えない。私自身傷ついたし、って言うほど傷ついてもないかもしれないけど、少なくとも明日香さんへの罪悪感でいっぱいだった。それにせっかくバレないように先生たちが気を遣ってくれたのに、ここでバラしたら努力が無駄になるので、黙らざるを得なかった。


「今日元気ない?」


 由美は言葉数は多い方ではない。だから、当然私の言葉数が減ると、沈黙が多くなる。そうなると、こう言われるのは当然か。


「そんなことないよ」


「いつももっとしゃべるじゃん」


 お願いだから、察してあまり聞かないでほしい。でも、よく考えたらいつも話したくないときでも無理やり話させているのは私なのかもしれないなとも思った。


「そうでもないよ」


「ほらいつもならもっと言ってくるじゃん」


「そうかな」


「そうだよ」


 そうだよに返す言葉って意外にないなと思いながら、返さないでいると、無言が続く。いつもよりお互い弁当の減りが早い気がする。いつも食べ終わるときに誰もいなくなってるのは、しゃべりすぎてるからだって気づいた。


「そういえば、ニュース見た?」


 これもしかして、由美は知ってる?……、いやいやいや、ないよね。ないない。でもよく考えたら、前パパ活の話しちゃったしな。それに通ってる高校は特定されてるから、たどり着けなくないんだよな。どうなんだろ、とりあえず探りを入れてみるか。


「何の?」


「パパ活の。あれ最低だよね。前あんなこと言ったけど、パパ活やっぱやめといたほうが良いね」


「もう遅いよ」


 とっさに言ってしまった。しまった。小さい声だったから聞こえてないか。聞こえてないって言ってくれ。


「えっ」


「何でもない……」


「もう遅いって言った?」


 聞こえてた……。


「どういうこと?」


 正直私もまだどういうことと思ってる部分はあるけど、とりあえずここまで言って、言わない方がまずそうなので、一通り説明した。一通り説明した後、なぜか由美は抱きしめて、泣いてくれた。


「ごめんね。つらかったね」


「由美がなんか謝ることないと思う」


「いや、私がパパ活してみればって言ったし」


 確かにそうかもしれないとも思うけど、由美に言われたからやったみたいに思われるのもちょっと癪だなとも思った。


「確かに、あれがなければしなかったかもな~」


 こんな冗談を言ったら、由美に笑いながら少し叩かれた。


「本当無事でよかった」


「ありがとう」


 流れに乗って、エビフライをもらおうとしたけど、「調子に乗るな」と断られた。改めて弁当を見比べて、自分がいかに貧乏かということを思い出す。


「あー、でも結局1円も稼げなかった」


「そこなの?」


「うん。いや、明日香さんに本当に申し訳ないことしたなというのと、お母さんには申し訳なかったなと思うけど、そこかな。結局は何もかも大丈夫だったからというのはあるけどね」


「立ち直り早くてびっくりした」


「でも、バイトはクビらしい」


 実は朝学校に行く前に店長から電話がかかってきていた。店長も明日香さんのことでショックを受けていたけど、それよりもカフェの電話番号に誹謗中傷の電話がやまないらしい。それで当分臨時休業にするという連絡だった。

 そのとき、一応店長には報告しないとということで、事の経緯を報告したところ、退職という形を取ろうという話でまとまった。店長にも申し訳ないなと思っていた。


「バイト先大変だね」


「本当店長にも申し訳ないことしたな。何よりも紹介してくれた明日香さんに一番申し訳ないな……」


「でも明日香さんって人も相当荒稼ぎしてたわけでしょ」


「荒稼ぎ?」


「ニュースで言ってたよ。知り合いで興味ありそうな子にどんどん声かけて紹介料だけで相当稼いでたって」


 明日香さん、そんなことまでしてたのか。私だけじゃなかったのか。きっぱり明日香さんも偶然誰かに誘われた側だと思ってたけど、がっつり誘う側だったのか。こんなことで逮捕っておかしいなと思ったけど、そういうことか。


「いずれこうなったと思うよ」


 確かに、誘われたときはそこまで深く考えてなかったけど、普通にパパ活って多分違法だよね。そもそも水商売だって許可がいるってお母さんに聞いたことあるし、無許可でやったらダメだよね。それに未成年はダメだよね。

 確かにそうなんだけど、ただやっぱり私がしっかりしていないせいで迷惑をかけた部分もあるから、そこは本当に申し訳ないと思う。


「そうだね。でも、意外に私は守られてるんだなって思った。今日本当はみんな私だってこと知ってると思って覚悟してきたんだ。そしたら、誰も知らない。由美も知らなかった。てことは、やっぱり未成年ってちゃんと守られてるんだって感じた」


「確かにね」


「でもこれからお金どうしよっかな。バイトもなくなってさ」


「普通にバイト探しなよ」


「そうなんだけど、こんな事件起こして雇われるか心配なんだよね。いつなんどきバレるかわかんないし」


「まあとはいえ、ちゃんと探すしかないんじゃない」


 結局地道にバイトするしかないんだろうけど、いずれやらかしたことがバレたらクビになる気がする。いくら被害者とはいえ、パパ活をしてた女子高生ってだけで印象悪いし。お母さんのところでも働けるけど、最低時給すらもらえないお小遣い程度の扱いだからあまり意味がない。


「なんだろうな、違法じゃなく、ある程度楽に稼げる方法ないかな」


「またそうやって。そんなこと考えてるからろくなことにならないんだよ。地道に行くしかないよ」


 ぐうの音も出ないほど正論だね。


「まあ調べてみるか」


 こうして楽して稼ぐ方法を二人で考えることにした。

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