第6話 待ち合わせ
家の最寄りの駅は、東京の郊外を代表する駅で結構大きめの駅だ。3路線乗り入れていて、カラオケや飲食店もたくさんある。駅は家から歩いて15分くらいかかる。
駅も3路線それぞれ少しずつ離れているけども、その中で水色の電車で有名な路線の方の西口で待ち合わせている。
いかんせん学校もここから近いから、知り合いに見られる可能性が十分にある。そもそも待ち合わせに最寄り駅を使ったことがミスだった気もするけど、そもそもお金を稼ぐために無駄な交通費を使うわけにもいかない。
全て踏まえた上で、一番誰も使っていない水色の電車の駅で、なおかつほとんど使われていない西口を指定した。
5分前に西口に行くと、フードを被った大学生っぽい男を見つけた。こんな時間にこんなところで待っている人は間違いなく、カイトだろう。と思って、近寄っていくと、向こうが顔を上げ、先に気づいた。
「あのもしかして」
私は驚いた。カイトは写真通りの彫りの深いイケメンだった。
「わっ、あのカイトさんですね」
わっ、ってぶりっこしてるな~って客観的な自分がそう言う。
「やっぱりそうだ、なんとなくそんな気がしました。カイトです、よろしくお願いします」
そんな気がしましたって、そらそうだよね。こんなところに来る女子高生なんて私くらいしかいないんだから。
「あの、よこ、いや、春乃です、よろしくお願いします。写真通りで驚きました」
危うく本名の横田春乃って名乗りそうになった。こういうときは、本名って言わない方が良いよね。よく考えたら、春乃っていうのも言わない方が良かったか。
「何、詐欺とかだと思った?さすがに顔写真は本物出すよ」
すごいな、自分の顔写真なんて絶対出せないけど、出せるってことはすごい自信があるんだろうな。やっぱりイケメンってすごいな。
「あのかっこいいですね」
「そういわれるとうれしいな。とりあえず、歩こっか」
もうこの反応が言われ慣れてる。すごいな。
とりあえず、二人で歩いていく。途中色々話していると、カイトは近くの大学生ってことがわかった。経営学部らしい。
経営のことをやってるって、そのままだなって思った。なるべく自分のことは話したくはないから、とりあえず趣味は映画を見ることって言っておいた。
実際よく見るし、邦画は全般なんでも聞くから、話が合うかと思ったら、向こうは洋楽しか聞かないらしく、何も話が合わなかった。
少し気まずい空気が流れている中、突然、
「春乃ちゃん、手つないでいいかな」
さすがに空気読めよって思ったけど、よく考えたら5万なんだよなって思うと断るのもおかしいなと思った。
「えっ、あっ、はい」
カイトが手を握ってきた。
カイトの手はただただ冷たい手で、意外にごつごつした手だった。手をつなぎながらカイトは行き先を告げずにどんどん進んでいく。
記憶が正しければ、この先は確かラブホ街だった気がしたけど。
「これどこ向かってるんですか?」
「えっ、ホテルだけど」
え?ホテル?ただのデートなのに。信じられない。とっさに手を離した。
カイトがもう一度手を繋いでくる。
「ホテルにあるレストランだよ」
いやいや、ラブホにレストランなんてないでしょ。
「いや、この先って」
「春乃ちゃん、この先よく行くの?」
「いや……、でもここって」
「最近新しいホテルができたんだよ。知らない?」
カイトはスマホでホテルのホームページを見せてくる。確か、ここ最近できたって聞いたけど、こんなところにあったんだ。知らなかった。
「すみません、全然知らなくて」
「いいよ。それより早く行こう、そろそろ着くよ」
カイトはそのまま手をつなぎながら、どんどん進んでいく。不安と恥ずかしさで私は少しゆっくり歩いていくけど、それをカイトが引っ張っていく形になった。
少し歩いたら、カイトが止まった。目の前には新しめのホテルがあった。そのままカイトと手をつないだ状態で入っていく。
中はもちろん新しいだけあってきれいだけど、普通のホテルだった。普通にフロントがあって、エレベーターがあって、一応1階にちょっとしたレストランスペースがあって、天井が少し高くて、シャンデリアは置いてある。
まあ別に特段高級ホテルという感じもなく、ただのホテル、行ったことはないけどラブホテルとも違う、と思う。
「ここのレストランですか?」
「上だよ」
そう言って、カイトは手を引いて、そのままエレベーターに乗る。
エレベーターの中には、各階の案内が書いてあるけど、3階~最上階の15階まで全て客室と書いてある。さっき緊張して気づかなかったけど、このホテル15階まであるのか。
カイトは、12階を押す。
「あれ、12階……、客室って書いてないですか?」
「これ?実はお忍びのレストランなんだ」
「そんなのあるんですか?」
「そうそう。意外だよね」
「はい」
さすがにカイトの話は怪しかった。突然こんなホテルに連れてこられて、表に表示のない隠れ家的なレストランはいくらなんでも怪しすぎる。
ラブホテルじゃないから、少し安心したけど、これは間違いなくダメなやつだ。そう思って、別の階を押そうとしたときには、もう12階に着いてしまった。
カイトは未だ手を握ったままで、一緒にエレベーターから降りようとする。手を離そうとするが、離れない。
「どうしたの?行くよ」
カイトは強引に手を引いて、一緒にエレベーターから降りる。
「私、やっぱり帰ります」
「いや、まだ早くない?」
「帰ります」
そう言って出ようとするけど、カイトは離してくれない。そのままどんどん右の道に進もうとする。
私はとっさに大声で叫ぼうとすると、カイトは空いている右手で口を押さえてきた。苦しくて息ができない。
これは間違いなく襲われる。
こういう時ってどうしたらいいんだっけ?由美はなんて言ってたっけな。もうダメだ、こういう時は……。
仕方ないので、その手を思い切って噛む。
「痛たた、お前」
カイトは少し声を上げながら、噛まれたところを確認している。
そして、ずっと話してくれなかった手が緩んだので、このタイミングでエレベーターに乗り直そうとする。
まさに乗ろうとした瞬間、エレベーターの扉が閉まってしまった。
カイトはすぐに態勢を取り戻したらしく、そのまま私の口を強引に押さえ、そのまま抱きかかえるようにして、強引に連れていく。
私も抵抗しようと、何度も暴れるが、カイトの手は緩まない。歩いている最中に誰かとすれ違う可能性に賭けたが、すれ違わない。私はここで部屋に連れ込まれてしまったら最後だと思い、色々考える。そこで居一つ気付いた。ホテルは必ずカードキーを使う。
今はカイトの手は一つは私の口をふさいでいて、もう一つは私が逃げないように押さえている。確実にカードキーを使うときに隙ができる。もうこのタイミングしかないと思った。
そして、突き当りの1201号室に着く。ここでカードキーを使うと確信してそのタイミングを待つ。ただ、残念ながら、そのタイミングは来なかった。そのままカイトは横にある呼び鈴を鳴らした。ドアは開き、私は部屋に連れ込まれた。カイトには仲間がいたのだった。
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