デート当日

 『日曜日に藤森公園で会いませんか?』

 と言って、

『予定開けられる思うでも、無理かもしれない。当日まで分からない』

 と、長田くんに言われた私。それでも、公園の入り口で彼のことを待っているのは、自分でもバカだと思う。

 なんでこんなことしてるんだろう。だって、長田くんが確実に来てくれるとは限らないのに。

 腕時計を見ると、午後2時24分を指していた。もう既に24分も彼は遅れている。私は待ち合わせの15分前に来ているので、40分近くこの場に立っている。

――長田くんは来るだろうか……。

 その命題が私の脳内を駆け巡っては消えて、また駆け巡っては消えての繰り返し。

 腕時計を確認する。さっき確認してから、30秒しか経ってない。

 もし……、他の用事があって来られないのならそれでもいい。今日のところは仕方がないと諦める。次のチャンスも多分……かろうじて繋がってる。

 でも、もしもそれが、その用事が他の子との待ち合わせだったら、どうしよう。私はただバカみたいに、ずっと公園の前で立っている人になってしまう。この際、第三者目線は関係ないにしても、私の恋路はもうおしまいだ。ただ、虚しいだけ。

 いけない。こういうときは、あくまで明るく、楽しいことだけを考えよう。このままでは私の思考は暗闇に落ちてしまう。

――そう、彼が来たら公園のどこに行こうか?彼と一緒にどこに向かおうか?

 まず、公園のキッチンカーで昼ご飯を食べる。ピザやパスタとかイタリアンがいいな。あるかな。

 それから、スワンボートに乗るのは……テンプレート過ぎるかな。でも、ふたりっきりの空間を楽しむのも悪くなさそう。

――そうか。

 相手のことを考えて、考えて、考えた。

 相手とどうしたいのか考えて、考えた。

 この思いこそ――恋なんだ。

――こんな簡単なこと気が付かないなんてね。

 自嘲する。

 こんな調子だった。なので、後ろから、足音が近づいてくるのに注意を向けなかった。

 その足音の主から話しかけられる。

「よぉ。マコト」

「ヨシノ……。なんでいるの?」

 私は少し戸惑いながら聞いた。私はヨシノに藤森公園に来るなんて言っていない。加えて、長田くんにも、他の子には言わないよう配慮するって明言していた。

――だからなんでここにいるんだ?

 そして、ヨシノから彼女が藤森公園に来るという話も聞いていない。

「そんなひっどい顔しないでいいよ。別にわたしもデートってだけ」

「はぁ……」

 『デート』という言葉に、妙に引っかかった。ヨシノにも、デートする相手がいたのだと。そういう相手がいるのだと。

「なんで、ここに?」

「場所はデートスポットって、この辺少ないじゃん?偶然だね。偶然。ついでに、日時もホントに偶然だから。じゃあね」

 そう言って、彼女はそんなに多くない人混みに紛れていった。

 まさか……。

 そんなことないと思いたい。でも、あり得る。

 長田くんの用事って……。ヨシノとのデートなのではないだろうか……。

 そんなこと、考えたくない。










 なぜ家を出るのを早くしなかったんだろう?

 遅れて運行しているバスの中で、真介は思った。

 こんなことになるなら、待ち合わせの時間ギリギリに着くようにしなきゃよかった。

 そもそも、真介はもっと時間に余裕を持って、待ち合わせに行くつもりだった。けれど、

『早めに行かないと、女の子に嫌われちゃうゾ』

 と、真介の母に言われ、あえて家を出る時間を遅くした。

(あんなのに妙な反抗心湧かせるんじゃなかった)

 慌てたおかげでスマートフォンを家に置き忘れてしまった。

 けれど、もし同じ状況が訪れたとしたら、真介は全く同じ行動を取るだろう。たとえ、その結果自分に不利益を被ろうとも――だ。そういう自覚がある。

(全く、自分でもよくないとは分かってるんだけど……)

 ともあれ、焦っても仕方がない。真介が焦っても、バスが早く目的地に着くことはないのだから。今、なにもできないのだ――そう割り切るしかない。

 もどかしい、と思いながら真介はバスが藤森公園の最寄りに着くの待っている。

 バスの車窓から見える景色は、住宅よりも、樹木と空き地が多くなっていく。それは、目的地に近づいている証拠だ。

『次は、藤森公園前。藤森公園前』

 とアナウンスが、バス内に流れる。

 交通系ICを取り出して、バスが停車する前に、バスの前方へ。

そして、停車してすぐに、後乗り後払いのバスを降りる。

 公園まで、歩いて3分。走れば、1分で着く。

 ただただ走る。足が地面に触れた瞬間に蹴る。1秒でも早く、目的地に着くように。

 心臓は悲鳴を上げそうだし、肺はほとんど酸素と取入れない。視界は狭くなり、色彩を失った。

 真介は40秒ほどで公園にたどり着いたが、その40秒は今までの人生で身体的にも、精神的にも最も辛い40秒で間違いがない。

 真介は公園の入り口を何気なく過ぎ去って、中に入り、人混みを分ける。吉野に会うために。

 そして、その子はいた。

 30分遅刻した、が、どうにか会えた。

 真介は彼女に向かって、呼びかける。

 「吉野よしの!」

 真介はちょっとだけ安心する。自分の恋路はまだ終わっていなかった――と。











































 1時間経った。

 まだ彼は来ない。

 私はそれでも待ち続けた。恋は成就させたいから。

 いまだに、《おさだけいすけ》は私の前に現れない。

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