第50話【終幕】カーテンコール
● 十文字ヶ丘香澄
教室に戻ってきた雅紀とクロエちゃんは出て行った時と同じように手をつないで帰ってきた。
険悪な様子でないところを見るとクロエちゃんと上手く話ができたようだ。
よきよきというところだろう。
ただ、クラスでは雅紀とクロエちゃんが手をつないで帰ってきたことで様々な憶測が飛び交っている。
まあ、今まで彼氏どころか男友達もいなかったクロエちゃんがいきなり雅紀と手をつないでいるのだからしょうがない。
「雅紀、言いたいことはちゃんと言えたの?」
少し服装が乱れている雅紀に尋ねると、おうと返事が帰ってきて、
「香澄と鳥嶋はこのあと用事ある? ないなら、七瀬さん達と一緒にスタバでもに行かないか。七瀬さん曰く、今日は俺の奢りだそうだ」
「なになに、二人きりじゃなくて私達も一緒でいいの」
「ああ、今日は友達記念だから」
友達記念とは何のことだろう。
まあ、この後、ゆっくりと聞けばいい。
なにやらまた面白いことになりそうだ。
● 春原那由多
今日は四元からクロエに友達申請があって、これからは学校でも友達として接していくことになった記念ということで、あたしを含めて学校近くのスタバにやって来た。
まさか二日連続で来ることになるとは。
まあ、こうなるんじゃないかと予想はしていたけれど。
「ねえ、クロエ、前に話していたクロエの大切な人って、クロエのことを大切にしてくれるけど、そこじゃないってことが多い人でしょ」
「えっ、あっ、それは……」
クロエは少し間を置いてから息を吸って、
「そうなんです。本当に全くな人なんです」
やっぱり、これはお互いにこれからも苦労しそうだ。
今のところはそれなりに上手くやっているようだけれど、これからはどうなのだろう。
クロエに幸せになって欲しいと思うと同時にもう少しこの微妙な関係を見ていたいとも思ってしまう。
● 七瀬クロエ
今日は何というか情報がいろいろ多すぎる一日だった。
まず、よかったことは四元君と上手く会話できなかったことをちゃんと謝ることができた。
あの日以来、どうしても四元君と面と向かって話すとなると恥ずかしい気持ちでいっぱいになってしまって、上手く話すことができないから四元君から逃げていた。もちろんそれではいけないことはわかっていたけれどもなかなか一歩が踏み出せないでいた。
そんな時に四元君が放課後に連れ出してくれたから、ここでまずは謝らなければと思ったところだ。
しかし、今日、一番に言いたいことは本当に四元君は全くということだ。
あの流れと雰囲気は絶対に告白だと思った。
むしろ、あれだけ盛り上げておいて友達申請だなんて。
心の中で思いっきり「そっちなの!!」と叫んでしまった。
でも、後になってから、四元君から話し掛けられた時にちゃんと話さなかった理由を言わなくて本当によかったと思った。
理由を聞かれた時にもし途中で遮られなかったらきっと「四元君のことが好きで話すことさえ恥ずかしい」と言ってしまっていた。
そんなことを言ってしまったらどうだっただろう。
きっと四元君は私を恋愛対象とは見れないと言ったに違いない。彼の中では私は家族であり、妹だからそういう目で見れないのだろう。
危なくこれからの関係がぎくしゃくしたものになってしまうところだった。
どうやら私はとても厄介で面倒くさい人を好きになってしまったようだ。
こうなれば、四元君に私のことを好きになってもらって、家族とか妹とかという壁を越えていくほかない。そのためにはこれから積極的なアピールあるのみ。
雅紀君、いつかその理性のたがを外させてみせます。
● 四元雅紀
理由はわからないが、七瀬さんの様子が再びおかしい。
こないだまでは俺が話し掛けようとしても避けられている様子だったのに、最近はむしろあっちから積極的に話しかけてくる。
やはり、きちんと話をしてよかったと思うと同時に、今度はやたらと距離が近いというか俺をどぎまぎさせるようなことが多い。
具体的には……、
いやいや、この話は糖分多めで読者諸賢の身体に悪影響を及ぼす恐れがあるかもしれないから自主規制とさせていただきたい。
学校では友達として関わるようになったので香澄たちを含めて一緒にお弁当を食べたりしている。
今まで香澄しかいなかったところに七瀬さんと春原さんが加わったことで鳥嶋はやっぱり生きててよかったと涙を浮かべて喜んでいた。
「雅紀君、準備はいいですか。そろそろ渡しに行きますよ」
今日は世の中では父の日だけど、我が家というか俺と七瀬さんは家族の日として、親父と美咲さんに感謝を伝えることになっている。
プレゼントは親父にはネクタイ、美咲さんにはストールを選んだ。
プレゼントがあることは当日までサプライズということで、これからそれを渡しに行く。
「うん、それじゃあ七瀬さんは親父へのプレゼントを持って、俺は美咲さんへのプレゼントを持つから」
今の時間は親父たちはリビングのソファーに座りながらくつろいでいる時間だ。このタイミングなら二人に同時に渡すことができる。
「あの、今日は家族の日なのでこれを機会にそろそろいいかなと思うんです」
「何がそろそろいいかななんだ」
親父のプレゼントが入っている包みを渡しながら聞き返した。
「雅紀君もお母さんたちの前じゃなくても家の中くらいは私のことを名前で呼んでもいいんじゃないかと思いまして」
ここのところ距離が近くなった七瀬さんは親父たちの前でなくても家の中では俺のことを名前で呼ぶ。一緒に暮らし始めた日に最初は親父たちの前だけでもなんて言っていたけれど、そろそろそうやってお茶を濁すのも限界か……。
「七瀬さんにそんなふうにかしこまって言われると、ちょっと恥ずかしいのだけど」
「恥ずかしいのなんて最初の数日です。すぐにそれが普通になりますから」
いや、そうやってなんでも慣れていくことが怖かったりするんだけどさ。
「えっと、それじゃあ、クロエさん」
にひひと笑顔を浮かべるクロエ。
「やっぱり、名前の方がいいですね。さあ、リビングに行きましょう」
嬉しそうに部屋を出て行く彼女の後を俺もすぐに追った。
(終わり)
― ― ― ― ― ―
皆様、ここまで読んでいただきありがとうございました。初日から毎日追ってくれた方は一月半以上に渡り毎日御贔屓にしていただき誠にありがとうございます。
さて、昨年はパタパタと忙しく連載作品を本作品しか書くことができませんでした。その代わり今までで一番作り込みや構成に腕を振るったしだいです。
昨今、NTR、ざまぁ、ヤンデレ等が流行るなかそれら抜きでどこまで頑張れるかというのも一つ目標でした。
評価がまだという方ぜひお願いします。
また、感想を含めましてレビューコメントもいただけたら幸いです。
最後になりましたが令和6年能登半島地震で犠牲になられた方のご冥福をお祈りするとともに1日でも早く被災された皆様が元の生活に戻ることができることを祈念して結びとさせていただきます。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます