【第9回カクヨムWeb小説コンテスト特別賞受賞作】知らないうちに義妹を口説いていた俺、ついに「末永くお願いします」と言われる

浮葉まゆ@カクヨムコン特別賞受賞

第1話【急募】目立たず美少女を救う方法(前編)

 桜の花はとっくに舞い散り、青々とした葉桜の緑が眩しい季節、爽やかで心地よい風を感じながら、俺こと四元雅紀よつもとまさきは購買部で買ったばかりの焼きそばパンをかじった。


 旧校舎の屋外階段の踊り場なんて場所で昼飯を食べるような稀有な人間は俺を除いていない。


 人のいないグラウンドを特に何を考えるということもなくぼんやりと見つめながらフルーツ牛乳をちびりと飲む。


 全くもって、日々流れてくる情報が多すぎる。


 授業で先生が次々に話す内容、SNSのチェック、クラスメイトの噂話、やり込んでいるゲームの攻略法、今期見たいアニメの一覧、読みたいマンガやラノベの新刊情報等々……。


 これらの情報を睡眠時間を除いた時間内にすべて処理しようなんて到底無理な話で、ロースペックな俺の脳は午前の授業だけですでにオーバーヒート気味だ。


 だからこそ、昼休みくらいこうやって一人のんびりと過ごして外界から入ってくる情報の量を減らしている。これは一種の瞑想やマインドフルネスというべきもので、心と脳を整えて午後からの活動に備えるための昼休憩の過ごし方としては、最も有意義なものの一つと言っていいと思う。


 そう、決してぼっちだからこんなところで一人で昼飯を食べているわけではない。ここ大事。


 しかし、俺の貴重な昼休みの時間は上階の踊り場から聞こえてきた男子生徒の告白の言葉によって終了を迎えることになる。


七瀬ななせさん、あなたのことがずっと好きです。俺と付き合ってください」


 なんと直球な告白の言葉だ。彼女いない歴=年齢の俺にとっては今後の人生においても発することのない言葉だろう。


「ごめんなさい。今は友達といる方が楽しいので、あなたの気持ちには応えられません」


 直球の告白をこちらはフルスイングでバックスクリーンまで打ち返した。


 七瀬という苗字と聞こえてきた声から俺は告白を受けた女の子が同じクラスの七瀬クロエさんだとすぐにわかった。


 七瀬さんはうちの高校ではかなりの有名人だ。艶やかなブロンドの髪を背中まで長く延ばしていて、緑色の目はくりっとしてちょっと猫っぽく、桜色の唇が新雪のように白い肌にアクセントを与えている。これだけでも十分に可愛いのだが、これに加えて小柄なのに胸の双丘は豊かで制服のブラウスが苦しそうにも見える。つまり、七瀬さんは金髪、ロリ、巨乳という三拍子を揃えた美少女といえる。


 もちろん、三拍子そろった美少女がモテないはずがなく、入学当初からひっきりなしに告白されているらしい。


 でも、特定の彼氏がいるという話は聞いたことがない。ここまでチート級に可愛い七瀬さんなら彼氏に求めるスペックが高くてもおかしくないというものだろう。


「でも、きっと俺となら七瀬さんが友達と一緒にいる以上に楽しくいられると思うから」


「私は今以上を望んでいるわけではないですから……」


 男の方はまだあきらめていないようだ。俺なら最初の一撃で完全に大破撃沈している。


 そんなに食い下がっても七瀬さんの返事が変わるとは思えないから傷が浅いうちに退散することを勧めたい。


「まずはお試しでもいいからちょっとの間でも付き合って欲しい。そうすれば、きっと俺の良さがわかると思うし」


「あ、あの、そんなこと言われても困ります」


 清々すがすがしい青春の一ページかと思って聞いていたけど、どうやら雲行きが変わってきた。明らかに七瀬さんの声は嫌がっているし、終わりの方なんかちょっと悲鳴に近いものだ。上階の踊り場で起きていることは、およそ楽しそうなものではなさそうだ。


 平穏無事で波風を立てない学校生活を送ることを信条としている俺としては、上階の踊り場へ七瀬さんを助けに行くなんてことは可能な限り避けたい。


「それならせめて、連絡先だけでも交換してくれないか」


「ほ、本当に困りますから……」


 男の方の語気が強まってきている。そんなんじゃ絶対に嫌われるだろう。


 この男、振られた腹いせにカッターナイフとかを取り出して暴れるような奴じゃないだろうな。


 どうする。このまま何もしないでいて七瀬さんに何かあったら事件現場を傍観しているようでなんとも寝覚めが悪い。


 今、自分にできること。それも可能な限り目立たないようなことはないか……。


「おい! そこでぬゎにをしとるんじゃ」


 何かできることはないかと迷っていた俺がしたのは、うちの学校で一番おっかない生活指導の先生である百田ももた先生のモノマネだ。このモノマネは俺が思っている以上に似ているらしく友人からお墨付きをもらっている。


 ちなみに百田先生は昭和から平成を飛び越えてやって来たような先生で校内では竹刀を持ち歩き、モンスターペアレントみたいな保護者がいると保護者も一緒に説教をするという生徒からはとても恐れられている存在だ。


「やば!? どうしてこんなところに百田が」


 百田先生の真似をした声は校舎の壁に反射することでより本物っぽく聞こえたようだ。


 というか、先生に見られてやばいと思うような告白をするってどうかしていると思う。


「え、えっと、俺の気持ちは伝えたから、ま、また今度」


 早口でそう言うと一人分の足音だけがさらに上の階へと響いていった。


 どうやら上手くいったみたいだ。これで俺の平穏な昼休みが戻ってくる。


 乱れた心を落ち着かせて再び瞑想の世界へ――。


「あっ、やっぱり四元君です」


 瞑想の世界へ足を踏み入れる前に鈴を転がすような七瀬さんの声で意識が再びこちらの世界に引っ張り戻された。


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