3.焦燥

雉内刑事は、三之洲市の雲雀運輸へ確認の連絡を入れた。

鴉目部長は、まだ帰社していない。

鴉目部長の住所を確認した。


雉内刑事は、鴇沢課長に報告した。

朱雀製紙の鴨池さんが、工場の防犯カメラ映像を確認していた。

そして、一年前、「止り木」で見掛けたという男を見付けた。

それが、雲雀運輸の鴉目部長だった。


鴇沢課長の指示は、早急に、鴉目の自宅へ向かえ。

との事だった。


雉内刑事は、石鎚山市へ戻った。

すぐに、鴉目の自宅へ向かった。

自宅は、石鎚山市の西堀町のマンションだ。

予想はしていたが、やはり、帰っていない。

鴉目は、得意先を回っている事になっている。

これで、自宅に居たら何をしていたのか疑われる。


しかし、鴉目が自宅に居ないとすれば、それはそれで、何処に居るのか気になる。


何も無ければ良いのだが。

雉内刑事は、鴇沢課長に報告した。


現時点で、まだ、一年前の鷲尾の転落死は、事故死だ。

鴉目が、鷲尾の転落死に、何等かの関与を示す証拠は無い。


しかし、鴉目が妙な行動をしている。

転落死した鷲尾は、朱雀製紙の三之洲工場で、「部長」と呼ばれる男から声を掛けられている。


その帰りに、鴨池さんが鷲尾と、喫茶「止り木」で「部長」を目撃している。

「部長」と同席していた男が「何とかします」と云っていた。


鴨池さんが、三之洲工場の防犯カメラ映像を確認していた。

そして、その「部長」を見付けた。

それが、鴉目部長だった。


去年、鷲尾は、同じ朱雀製紙に内定している鵜川、鷹山、鳩井と石鎚山へ上る計画を立てた。

その七月、石鎚山へ登る途中、重河の山道で崖から転落して死亡した。


しかも、滑落した現場の崖には、鵜川が一緒に居た。


鵜川は、転落死した鷲尾のすぐ傍に居た。

鵜川の聴取では、鷲尾の叫び声で気付いた。となっている。

確かに、あの崖では、自分の事で精一杯だったのかもしれない。


「時鳥」で、鷹山が鷲尾の転落死の真相を暴露しようとした。

それが、事実かどうかは判らない。

鷹山は、真相を話すと云っただけで、話しわしなかった。


それは、鵜川に止められからだ。

その時は、鵜川が、鷲尾と付き合っていた鴨池さんを慮って遮った。と思われていた。


しかし、転落死が事故ではないとすると、違った見方が出来る。

鷲尾の傍らに鵜川が居た。


鵜川が、鷲尾を崖から、突き落とした。

あるいは、誰かが、鷲尾を突き落とした傍らに鵜川が居た。


殺人事件だとすると、鵜川が関わっていた事も考えられる。

だから、鷹山の話しを遮った。

鵜川に、疑惑が掛けられるからだ。


鷲尾は、重河の崖から転落死した。

鷹山は、「時鳥」脇の路地で殺害された。

鵜川は、重河の河原で殺害された。

もしかすると、鵜川が、鷲尾の転落死に関わっていて、その事実を鷹山が探り当てた。

それで、鷹山は、殺害された。

鵜川は、犯人の保身のために、殺害されたのかもしれない。


鷹山と鵜川は、確実に殺人事件だ。

鷲尾の場合、確実に殺人事件とする証拠が無い。

だから、鴉目の所在を突き止める事が、鷲尾の転落死の真相を掴む事になる。

もし鴉目が、殺人事件に関わっているとすればだが。


雉内刑事は、鴇沢課長に自身の考えを伝えた。


「だから、何も無ければ、鴉目は会社へ戻るだろう」

との鴇沢課長の回答だ。


鴇沢課長は、気になるのは、鳶田だ。と云う。

鳶田の自宅へ向かえ。との指示だ。


もし、鳶田が、事件に関わっていたとすると、逃げたのかもしれない。

あるいは、口封じのため、殺害される可能性がある。

いや、既に殺害された可能性もある。


鷹山や鵜川の場合のように、躊躇なく殺害するだろう。

だから、早く鳶田を探し出して保護するのだ。


鳶田の自宅は、幸町のマンションだ。

雉内刑事は、鳶田の自宅へ急行した。


しかし、こちらも帰って居ない。

鳶田は、まる二日、帰って居ない事になる。


何だか、急激に忙しくなった。

雉内刑事は、自宅にも立ち返っていないと鴇沢課長に報告した。


すぐに、鴇沢課長から指示があった。

鳶田の、立ち寄りそうな場所を探せとの指示だ。

そんな事は、云われなくても分かっている。

急ぐのは、鳶田の所在だ。


雲雀運輸へ連絡を入れた。

鳶田の上司に、取り次いでもらうように頼んだ。

親しい同僚に、鳶田の立ち寄りそうな場所を確認しようとした。


しかし、その上司が、鳶田に代わって配送している。

そして、もう、皆、配送に出払っている。


肝心の鴉目も不在。

それでは、誰か、責任者に、代わってもらうように伝えた。

すると、女性に代わった。


配送に出ているドライバーに、一度、連絡を入れてもらうように頼んだ。

そして、全ドライバーに、鳶田の立ち寄りそうな場所を聞いてもらいたいと依頼した。

雉内刑事は、ドライバーからの情報を伝えてもらうように依頼した。


更に、連絡があったら、その都度、石鎚山東警察署へ、連絡を依頼した。


雉内刑事は、石鎚山銀行へ向かった。

藁にも縋る思いで、鵙枝さんを訪ねた。


鵙枝さんは、秋山と会っていた。

秋山は、鶴見に対して、良い印象を持っていない。

鳶田が「時鳥」で、スマホの音声を聞かせていたのは、鶴見ではないかと思っていたようだ。

今思えば、通話していた相手は、鴉目だと思う。


秋山は、鵙枝さんの話しを聞いて、意外な表情をしていたようだ。

そして、不安な表情をしていたようだ。


更に、昨日、鶴見課長が、銀行窓口で相談予定になっていたが、来店しなかった。

連絡を、取ったが、電源が切れている。


その状態は、今も続いている。

秋山は、それだけ聞くと、銀行を後にした。


これは、何かある。

雲雀運輸の鳶田も鴉目も所在不明だ。

更に、鶴見までも所在不明だ。


もしかしたら、鶴見が、石鎚山銀行へ連れて行くと云ったのは、鳶田だったのかもしれない。


そうなると、鶴見と鳶田は、一緒に居るのかもしれない。


それでは、その後、秋山は、どういう行動を取るだろう。


おそらくは。

「時鳥」だ。

昨日は、休みだった。

理由も無く、連休にはならないだろう。

何かが、起こっているのだろう。

もし、今日も休みなら、梟旗店主の居所も、探さなけれはならない。


秋山は、鴉目部長の行動を知らない。

鳶田の行動も知らない。


ただ、鶴見課長の所在が不明だ。という事を知っている。

秋山は、連絡の付かない鶴見の居所を探している可能性が高い。


しかし、秋山は、鶴見課長に注目していたが、鶴見課長の身辺について、情報は無いだろう。


今、秋山の情報源は、「時鳥」の梟旗店主だけだろう。


だから、おそらく、秋山は、「時鳥」へ向かった。

筈だ。

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