2.連休

ミチコ…鷺岡さんが、今日、お休み…

だから、鶉野部長から、鶴見課長の事を聞けないという事だ。


ミチコとは、千景の先輩の先輩で、奥田充人のことだ。

訳あって、メッセージグループでは「ミチコ」になっている。


ミチコ。ではなく、奥田君は、この四月に入社した新人だ。

鷺岡と同じ、材料管理スタッフに配属されている。

現在、奥田君は、在庫管理で、鷺岡は調達実務を担当している。


奥田君が、鶴見課長の情報を鶉野部長に聞く事になっていた。

ただ、奥田君は新人だ。


直接、鶉野部長に聞く事が出来ない。

いや、聞く勇気がない。

それで、鷺岡に仲介してもらって、鶉野部長から、聞き出す事になっていた。


弘には、もう、時間が無い。

今日を含めて、後三日。

最長で、日曜日の夜までだ。


元々、月曜、火曜日は、弘の勤務先の「何でもするゾウ」は休みにしている。

同じく、二十四時間営業スーパー「アックス」も休みにしている。

だから、その気になれば、火曜日までは事件を追い掛ける事は可能だ。

ただし、宿泊先が問題だ。

だが、これも花宮水産の社長に頼み込めば、アパートの引き渡しを延長出来ると思う。

どうせ、アパートの契約は、今月末までだから。


それなのに、奥田君が、何を思ったのか。

よく分からないのだが、鷺岡さんの情報をメッセージで伝えてきた。


鷺岡は、鶉野部長や鶴見課長の、高校、大学の二年上の先輩だ。

鶉野部長は、クラブに入っていなかった。

しかし、鶴見課長は、サッカー部に入っていたそうだ。


鷺岡は、ラグビー部だったので、鶴見と直接的な関係は無かった。

それでも、練習後、何度か挨拶を交わす事はあったそうだ。

一年生の時は、と云っても、鶴見と鶉野が二年生の時には鷺岡は卒業している。

だから、その後の事は知らない。

一年生の時に、鶴見と鶉野は、同級生だった。


弘も、ぼんやりとだが、その程度の情報は、想像していた。

鷺岡の奥さん、鷺岡佳代さんと「時鳥」の梟旗小夜子さんは、高校時代の同級生だ。

実を云うと、二人は、鶴見と鶉野の二人とも、高校時代の同級生だった。


ああ。成程。

そこまでは、想像していなかった。

年齢から考えると、確かにそうかもしれない。


更に、今年、卒業四十年の同窓会を計画している。

本当は、昨年が卒業四十年だったが、新型コロナの影響で、今年になったそうだ。

しかも、鶴見と親しい同級生が、幹事をしている。

家族ぐるみの、親しい関係になってている。

これは、奥田君が、鷺岡から直接聞いた事だ。


と、云う事は。

鶴見も、梟旗小夜子さんと鷺岡佳代さんとは、旧知の仲。の筈だ。


鶉野部長と「時鳥」の梟旗との繋がりは、分かっていた。

そうすると、鶴見も梟旗と関係があっても、不思議ではない。


何だ。

朱雀製紙と云うと、地元の大企業だ。

しかし、実際に内情を聞くと、違った印象を持ってしまう。

思いっ切り、地方の中小企業に、ありそうな話しだ。


何となく、梟旗と鶴見は対立している様に考えていた。

しかし、鶴見の行動を考えてみると、良い奴に思えてきた。

少し事件の見方を変える必要があるのかもしれない。


もし、鶴見と梟旗店主が、対立していないとすると。

「時鳥」の梟旗店主は、鶴見に付き添われて、石鎚山銀行の融資相談を受けていないのだろうか。

梟旗は、朱雀製紙の退職金で「時鳥」を構えたと云っている。


梟旗は、朱雀製紙で課長まで務めている。

だから、資金的に、余裕があったのかもしれない。

石鎚山銀行の融資相談窓口まで行ったとすると、鵙枝さんと面識があった筈だ。

しかし、鵙枝さんは、「時鳥」で、梟旗店主と会っても、気付いていない。

とすると、やはり面識は無かった。


鵙枝さんは、「時鳥」のある、同じ糸瓜町に住んで居る。

事件のあった日、偶然「時鳥」の前を通りがかった。

という状況は、余りにも出来過ぎている。

何か、意図を感じる。


本当の事を聞き出すしかない。

それで、弘は九時過ぎに、石鎚山銀行を訪れた。

結構、客が多い。


受付発券機で、融資相談を選択して、受付した。

相談窓口へ向かった。


「ええっと」

鵙枝さんは、何の担当だったか忘れた。

窓口には、融資相談と表示されているだけだ。

確か、中小、零細事業の融資だった。


しかし、心配する必要はなかった。

鵙枝さんは、窓口に居た。


受付番号表示が弘の順番になった。

「あのう。秋山です」

弘が鵙枝さんに挨拶した。


「ああ」

鵙枝さんは、驚いたようだが、用件が融資相談でない事だけは、分かったようだ。

パーティションに囲まれた区画へ案内された。


弘は、鵙枝さんに尋ねようとした。

しかし、鵙枝さんが先に話し始めた。


実は、昨日の十三時に、鶴見課長の融資相談が予約されていた。

ところが、何の連絡も無く相談に来なかった。


鵙枝さんが、暫くして、スマホに連絡を入れてみたが、電源が入っていなかった。

会社にも連絡してみたが、休んでいると云う事だった。

昨日は、そのまま融資相談がキャンセルになった。

気になったので、今日も鶴見のスマホへ連絡したが、電源は入っていない。

会社にも連絡しが、今日も休んでいた。


鶴見が昨日も今日も会社を休んでいる。

スマホも電源が入っていない。

何か起こっている。


すぐ、雉内刑事に連絡したかった。

弘は、鶴見の身の危険を危惧した。

しかし、雉内刑事の連絡先を知らない。


警察に連絡しようかと思った。

席を立とうとした時、思い出した。

弘は聞きたい事があった。

もう、今となっては、推理をしている場合ではな無いのかもしれないのだが。


弘は、焦って鵙枝さんに尋ねた。

鷹山殺人事件当時、偶然「時鳥」の辺りに通りがかったのか。


答えは、偶然だった。

ただし、前日に鶴見課長から連絡があった。

内容は、また一人融資相談に行くから、その節は、よろしくと云う事だけだった。


その時、それはそうと、居酒屋「時鳥」を知っているか、と尋ねられた。

何故、尋ねたのかも分からない。


鵙枝さんは、知らないと答えた。

鶴見課長が、「そうか」と云った。

ただ、それだけだった。


気になって、事件当日「時鳥」の辺りを歩いたそうだ。

鶴見の一言が、暗示になったのかもしれない。


鷺岡も今日、休んでいる。

絶対、何か起こっている。


そうだ「時鳥」へ行ってみよう。

昨日は、休みだった。

さすがに、今日は開いているだろう。


昼間は、ラーメン屋を営業している。

もしかすると、鷺岡が、来ているかもしれない。


弘は、石鎚山銀行から「時鳥」へ向かった。

しかし、今日も「時鳥」は休みだ。


つまり、鷺岡、鶴見と「時鳥」の梟旗が仕事を休んでいる事になる。

もう一人、「時鳥」でアルバイトをしている鶉野奈津さんも。

すると、鶉野部長はどうなのか。


メッセージグループ「ミチコ」で確認した。

暫くして、「ミチコ」から、出社していると回答があった。


弘の思い過ごしか。

しかし、鶴見の電源が切れているのは可怪しい。


「秋山さん」

聞き馴れた声で、呼び掛けられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る