7.関心

えっ。

これだけ。


千景は、メッセージグループ「ミチコ」を確認した。

鶴見課長の身辺を調べるように、弘君が依頼していた。


しかし、全く調べていない。

仕方ない。

メッセージグループ「家族」にメッセージを送信した。


ちかげ…授業終わった…

ちかげ…全然、分からないね…

ちかげ…鶴見課長の事…


すると、景子さんから、メッセージの着信があった。


ケイコ…お疲れさん…

ケイコ…充人君から連絡が無いの?…

千景は、充人君からのメッセージ内容を報告した。


景子さんから、たったそれだけかと、お叱りがあった。

千景を叱っても、仕方ないんだけど。


ケイコ…それより、鶉野部長の事は?…

景子さんは、鶴見課長よりも、孔雀ティッシュの鶉野部長の方が、気になっているのだ。


ちかげ…「ミチコ」さんに頼んでいるんだけど、こちらもまだ分からない…

千景は、ウソを吐いた。

鶉野部長の事を充人君に依頼していない。


しかし、充人君は、鷺岡さんに頼んで、鶉野部長と話しをする事になっている。

その時に、鶉野部長の事も分かるだろうと思っている。


ケイコ…お父さんは、また、飲みに行ってるんかな?…


ヒロム…今日は、お店、定休日。実は…

弘君が、鷹山の殺人事件の際、「時鳥」にいた女性と会った事を伝えた。

名前は、鵙枝日奈子。

東京の有名私立大学を卒業して、石鎚山銀行へ勤めている。

年齢は秘密だそうだ。


まだ若いのだから、秘密にしなくても良いと思うのだが。

しかし、花宮水産、石鎚山営業所長が鵙枝さんの年齢を暴露した。

勿論、鵙枝さんに内緒だ。

鵙枝さんは、所長の姪子だから知っていた。

だけど、個人情報だから、敢えて二人に伝えないそうだ。


弘君は、鵙枝さんと鶴見課長との関係を伝えた。

ちかげ…イメージ崩壊…


三之洲工場で見掛けた時の印象と、全く違う。

あの傲慢そうな印象は、何だったのか。


ちかげ…もう一つは?…

千景は弘君に尋ねた。

景子さんから、先にメッセージだ。

けいこ…鵙枝さん。どこの部署?…

そう云えば、景子さんも銀行に勤めていた。

鵙枝さんと同じ石鎚山銀行だった。

景子さんは、眉山支店だったと聞いている。

ずっと、パソコンを使用していたそうだ。

だから、スマホも左手に持って、右手の指五本使って入力している。


ただし、指は、人差し指、中指、薬指の三本しか動いていない。

一応、ローマ字入力だが、ほぼ、人差し指一本で入力するのと変わらない。

ただ、弘君よりは速い。


弘君は、左手にスマホを持って、右手の人差し指一本で入力している。

しかも、日本語入力だ。

だから、メッセージの応答が遅い。

と思っていると。

ヒロム…融資業務部「事業応援ローン」担当…

と報告が、あった。


そして暫くすると。

けいこ…なるほど、エリートやなあ…

石鎚山銀行と知って、対抗意識があったようだ。

しかし、知らない方が、良かったのかもしれない。


やつと弘君から情報が届いた。

「時鳥」の事件当時、鵙枝さんが一緒に居た鳶田という男との関係だ。


ちかげ…怪しい…

ヒロム…それでは、合議に入る…

弘君から、皆んなの推理と意見を募った。

皆んな、と云っても三人だが。


鳶田は、鵙枝さんと会った時、スマホで通話中だった。

鵙枝さんと会ったのは、偶然だ。


鳶田が、誰と、どんな通話していたのかは不明だ。

もしかすると、鶴見課長かもしれないと思う。

そう、千景は伝えた。


鳶田が、スマホの電話を通話状態で、鵙枝さんを「時鳥」へ誘った。

だから、鵙枝さんを利用したのではないか。

一人で「時鳥」へ入るのを躊躇していたのだろう。

弘君からそんな意見があった。

千景は、弘君に何のためか尋ねた。


一人で入る勇気が無かった。

あるいは、カウンター席を嫌っていた。

どうしても、テーブル席に着きたかった。

弘君が答えた。


だから、何のために?

千景は、更に尋ねた。


それは分からないが、通話していた相手から指示があったのではないか。

弘君が答えた。


それも、何のために?

千景は、追求した。

暫く、弘君から応答が無かった。

そこで、千景は、思った事を伝えた。


通話の相手は、朱雀製紙の四人が「時鳥」に来る事を知っていた。

それを見張るように、通話の相手から指示された。

と千景はメッセージを送った。


暫くすると、弘君から応答があった。

もしかすると、スマホを通話の状態にして、四人の会話を相手に、聞かせていたのではないか。

随分、長文のメッセージだった。


もし、そうだとすると、鳶田は、何故、一番奥のテーブル席に着いたのか。

朱雀製紙の四人は、テーブル席に着くだろう。

四人だから。

もし、四人が入口のテーブル席に着いた時は、通話の相手に音声が伝わるだろうか。

入口席でも、奥の席でも、ある程度の音声を届けようと思えば、真ん中の席を選択する筈だ。

千景は、自身が想像した筋書きの矛盾を伝えた。


そこまで、気が回らなかったのかもしれない。

弘君から、慰めのメッセージが届いた。


その後、朱雀製紙の四人が、店に入った。

そして、四人が、真ん中のテーブル席に着いた。

入口席に「予約席」の札が立っていたからだ。

それは、鷹山が「時鳥」に、予約を入れた予約席だった。

四人は。勘違いしたのだった。

これは、偶然だ。

また、弘君の長文メッセージが届いた。


最後に店へ入ったのが、鷺岡夫婦だった。

これは、偶然では無い。

「時鳥」の梟旗店主が、飲みに来るように誘っていた。

弘君のメッセージの内容だ。


どうやら、弘君が考えているのは、どれが偶然で、どれが仕組まれていたのかだ。

偶然と意図の選別をしているようだ。


ちかげ…偶然かどうかを考える意味は何?…

千景は、それこそ、弘君の「意図」を尋ねた。


どう考えても、朱雀製紙と関係会社に勤める三組が、偶然「時鳥」に入ったとは思えない。

と弘君から、書き込みがあった。


まず、鳶田だ。

鳶田は、鵙枝さんと、偶然会った。

しかし、スマホの通話相手に誘導されて、「時鳥」に入った。


次に、鷺岡だ。

鷺岡は、梟旗店主に誘われて「時鳥」行く事になっていた。

梟旗店主は、鶉野部長に頼まれて、鷺岡を誘った。


最後に、朱雀製紙の四人だ。

三之洲工場の鷹山が、「時鳥」に予約を入れた。

これは、偶然だ。

と思う。


また、弘君から長文だ。

しかし。

ちかげ…だから、どういう事?…


だから。

鳶田も鷺岡も、朱雀製紙の四人が「時鳥」へ行くという情報を入手した。

鳶田は、朱雀製紙の四人の会話をスマホを、通じて伝えていた。

そして、事件が起こった。

弘君の、推理メッセージが終わった。


ちかげ…じゃあ、鳶田の通話相手が犯人?…

ヒロム…そうやと思う。…

ちかげ…それは誰?鶴見課長?…


ヒロム…分からない。…

何だ、結局、分からないのか。


ケイコ…分かった…

ずっと、合議で沈黙していた景子さんからメッセージがあった。


ちかげ…誰?鶴見課長、それとも鶉野部長?…

千景は、景子さんが、犯人が誰か、閃いたのだと思った。


ケイコ…二十八歳やわ…

ちかげ…何が?…


大学を卒業したのが、二十二歳だ。

一年後、鶴見課長と会った。

それが五年前だ。

だから、今、鵙枝さんは二十八歳だ。

とのメッセージだった。


景子さんは、鵙枝さんの年齢を推理していたらしい。

どうやら、景子さんの関心は、鵙枝さんの年齢だったようだ。


だから、景子さんは、合議中に沈黙していたのだ。

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