8.逆襲

昨夜遅く、弘君から、鶴見課長に付いて、情報入手の依頼があった。


ケイコ…お父さん。チカの勉強のジャマはダメ…

ケイコ…チカもお父さんの言う事、聞いたらダメやで…


景子さんから弘君へ、早速、お叱りのメッセージがあった。


と云っておきながら、興味津々のようだ。

ケイコ…それで、鶴見課長の事、分かったの?…


メッセージグループ「ミチコ」の「ミチコ」さんに依頼していた。

「ミチコ」さんは、二年生の大垣さんの先輩で、奥田充人さんという男性だ。

訳あって、奥田充人さんは、メッセージグループ「ミチコ」の「ミチコ」さんになっている。


「ミチコ」さんは、孔雀ティッシュへ勤めている。

「ミチコ」さんは新人だから、職場の詳しい状況を把握していない。

だから、職場の先輩、鷺岡良輝さんに教えてもらったそうだ。


鶴見課長は、朱雀製紙の三之洲工場で、よく目撃されている。

副社長秘書課長なのに、雁矢副社長と一緒に居る事は稀だ。

との事だ。


さて、鷺岡さんは、鶴見課長の事を殆ど知らない。

鶴見課長が来社しても、当然ながら材料管理部門と関わりがない。

それどころか、来社した事さえ知らない方が多い。

「ミチコ」さんも材料スタッフで、ほぼ鶴見課長と会った事が無い。


ただ、事務所へ入った時に、普段と違う雰囲気がある。

それで、鶴見課長が、来社していると分かるのだそうだ。

鷺岡さんは、フロアですれ違った事があるそうだ。

そりゃ、三十数年も勤めていれば、すれ違う事もあるだろう。


鷺岡さんは、軽く会釈して、挨拶するだけらしい。

「ミチコ」さんは、緊張しないのかと尋ねた。

緊張する事は無いそうだ。


新入社員で入社した時、来訪者には、ちゃんと挨拶するように指導を受けた。

しかし、会社が、指導するような事でも無い。

だから、普通に挨拶しているだけだそうだ。

さすが、万年…。


しかし「ミチコ」さんは、鷺岡さんに付いて、不思議に思う事がある。

材料管理部門に配属された当初の事だ。

燕石材料管理課長が、分からない事は、鷺岡さんに尋ねると良いと云っていた。


その時、燕石課長が云っていた。

鷺岡さんは、石鎚山高校から石鎚山大学へ進学している。

高校、大学と、ポジションは知らないが、ラグビーをしていた。

一度、材料庫で、二十キログラムある飼料袋を両肩に二袋ずつ担いで、ものすごい勢いで走っているのを見たそうだ。

倉庫を走るのは、禁止されているので、誰にも云わなかったそうだ。


鷺岡さんは、大学卒業後、新卒で孔雀ティッシュに就職している。

そして、二、三年毎に部署を異動している。


因みに、燕石課長は、鷺岡さんの五年後輩だそうだ。

入社して、鷺岡さんの後を追うように、部署を転々と異動していた。

二十数年前に、材料管理課の係長へ昇進の打診があった。

以来、材料管理課で係長をしていた。


相変わらず、鷺岡さんは、いろんな部署を転々としてが、業務管理部門に落ち着いたらしい。

鷺岡さんに、二十年くらい前、材料管理課の課長へ昇進の打診があったそうだ。

しかし、それを辞退したらしい。

理由は分からない。

それで、一年後、燕石係長が、課長に昇進したそうだ。


なんだか、鷺岡さんの話しになってしまったようだ。

ちょっと話しが逸れた。

鶴見課長の事になると、全く情報が無い。


思い出す事と云うと。

鷺岡さんは「時鳥」の事件の際、店に居合わせていた。


鷺岡さんは「時鳥」の常連で、月に一、二度くらい訪れている。

大抵、前日に鷺岡さんから連絡して予約していた。


ところが、この一年くらい、梟旗店主から、「時鳥」へ来店するよう、誘われるようになっていた。

最初に誘いがあって「時鳥」を訪れた時だ。

カウンター席に鶴見課長が居たような気がする。

梟旗店主と鶴見課長との確執の噂もあった。

それが、孔雀ティッシュを退職する一因だったかもしれないのだ、

ただ、鷺岡さんは、殆ど、鶴見課長と会った事が無いので、見間違いの可能性もある。


以後、鶴見課長、あるいは、それらしい男を見掛けた事は無い。

と云う事だ。


鷺岡さんは、それ以上の事は分からないと云う。

もっと、知りたいのなら、鶉野部長に直接聞くしか無いと云った。

二人は、朱雀製紙の同期入社だ。

関係も良好という訳ではないが、険悪でも無い。

直接、聞けないなら、鷺岡さんが仲介しても良いと云った。

実は、鶴見課長も鶉野部長も、鷺岡さんの高校、大学の二年後輩だそうだ。


鷺岡さんの話し方は、訥々としている。

しかし、それは良く考えて、話しをしているように感じる。


ケイコ…そうなると、鶉野部長の事が気になるなあ。チカ、鷺岡さんに聞いてみて…

どうやら、景子さんも事件に深い関心を持ったようだ。


ヒロム…お母さん。チカの勉強の邪魔をしたら駄目ですよ。…


弘君は、いつも、景子さんに駄目出しされている。

いつか、景子さんに駄目出し、しててやろうと思っていたらしい。


やっと、一矢報いたのか。


ヒロム…それで、鷺岡さんは、梟旗さんに確認せんかったんか?…

チカゲ…何を?…

ヒロム…だから、鶴見さんが来ていたのかどうか。…

チカゲ…そうか、明日、聞いてみる…

ヒロム…いや、今、聞くから、大丈夫。…

チカゲ…誰に?…

ヒロム…近くに梟旗さんが居るから。…

ヒロム…それに、鶉野さんも。ああ、鶉野部長の娘さんやけど…

チカゲ…なんで?…

ヒロム…今、「時鳥」に居るから。…


ケイコ…また、飲みに行ってるんな…

ケイコ…無駄金ばかり使うな!…

ケイコ…小遣い没収や!…

ケイコ…事件に、のめり込み過ぎや…

凄まじい連続お叱りメッセージだ。


ヒロム…いや。待て待て。雉内刑事さんと一緒やし。今回は、大目に見てくれ。…


弘君。仕返し失敗!

そうではない。

弘君は、ちゃんと、反撃が出来るように喋ったのだ。


「時鳥」に居ると云わなければ、分からない。

メッセージの遣り取りだから、音声は入らない。


どうも、相手を攻撃したまま、終わりに出来ないのだ。

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