4.夢中

「でも、杜鵑通りの時鳥って、考えたんやなあ」

景子さんの関心は、店名らしい。

どちらも「ホトトギス」と読む。


「何が、あったんやろなあ」

千景は、殺人事件に夢中になっていた。

今日、学校を休む事をグループメッセージで送信していた。


平沢先輩に、今日、石鎚山で死体を発見した事をメッセージ送信した。

どうやら、十日程前の、殺人事件の犯人らしいと伝えた。

その殺人事件の内容を知っているのか、メッセージアプリで尋ねていた。


「知ってる」

二年生の豊田さんから、メッセージの着信があった。


ギヤあ!!

千景は、悲鳴を上げた。


「どうした。まだ、焼けとらんかったんか?」

弘君が驚いている。

肉が生焼けだったと、勘違いしている。


「違うわなあ。口ん中、火傷したんやろ」

景子さんが訂正した。

千景は、肉が炭になるくらい焼くのを知っている。


しかし、どちらも違う。

千景は、平沢先輩に、メッセージを送信したつもりだった。


実は、平沢先輩に憧れて、石鎚山高専へ進学した。

苦手な、理数系を半年で克服した。

血と汗と涙の物語なのだが、ここでは割愛する。

平沢先輩との個人メッセージに送信したつもりだった。


ところが、豊田さんから、着信があった。

千景は、慌てた。

豊田さんとは、二ヶ月前の事件で、親しくなった。

真っ先に、事件を知っていると、メッセージがあった。


「鈴音会」のグループメッセージに、送信していた。

「鈴音会」のメッセージグループには、鈴音寮の寮生、全員が登録している。

だから、全員が共有してしまった。


豊田さんの後、同じく二年生の大垣さんからもメッセージがあった。

「あの事件。不思議だわね」

内容が続く。

どうやら、詳しく調べたようだ。


大垣さんは、淑やかで、大人しい。

本当は、好奇心の塊みたいな先輩だ。

しかも、好奇心を満たすためには、大胆な行動を取る。


大垣さんは、ある謎を解明するため、わざわざ、この五月に、途中入寮した。

ある謎については、また後日、解明次第、お知らせします。


暫くして、平沢先輩から、メッセージがあった。

これは、平沢先輩と千景の個人メッセージだ。

平沢先輩に、抜かりはない。

千景と違って、慎重な性格だ。


平沢先輩の一年先輩で、親しい人がいる。

その先輩は、石鎚山高専を卒業後、石鎚山大学の三年生へ編入した。

その先輩が、友達から聞いた話しだ。


ええっ!

千景は、平沢先輩のメッセージに、また驚いた。


「こら、千景。スマホ片手に、焼肉、喰うな!」

弘君が叱った。


「ええやないの。千景も今日、友達と話し、しとらんしなあ」

景子さんが許可した。

千景が、友達と会っていないから、寂しいと思っているようだ。


弘君が、不満そうな顔だ。

「お父さん。平沢先輩からね…」

千景は、平沢先輩からの、メッセージの内容を少し教えた。


昨年の、ちょうど、この時期の事だ。

鵜川、鷹山、鷲尾と鳩井の四人で、石鎚山へ登っている。

その時、鷲尾が谷へ転落して死亡している。


もしかして、ここから、事件は始まっていたのかもしれない。


「ええっ!」

景子さんが、眉を顰めた。

恐ろしくなったようだ。


「えっ!それで?」

弘君が驚いた。

脂の塊みたいな、ホルモンを口に放り込んだ。

しかし、メッセージの内容に、興味を唆らせたようだ。

続きを強請っている。

ホルモンを噛んで、千景を見ている。


千景は、続きを話した。

十日前の事件では、二人の名前だけ分かっている。

ネットニュースでは、殺害された、鷹山と容疑者の鵜川の名前が、ニュースに出ていた。


平沢先輩の情報では、鵜川、鷹山、鷲尾と鳩井の四人で、石鎚山へ登っている。

途中、重河の谷で、鷲尾が転落死している。


ええっ!

「ちょっと。お父さんに、メッセージ、転送してくれ」

弘君が、事件に夢中だ。


「後で良い?」

千景も夢中になっている。

先に千景が読んでからだ。


隣で、弘君が、スマホに見入っている。

ちょっと、覗くと朱雀製紙を検索していた。


向かいの景子さんは、ノンアルコールビールを飲んでいる。

こちらは、ハラミに夢中のようだ。


弘君が席を立った。

トイレだろう。

さっきから、随分とビールを飲んでいた。

景子さんが、運転手に決まったようだ。


鵜川、鷹山と鳩井の三人が「時鳥」で飲んでいたのだと思っていた。

しかし、もう一人、女性が同席していた。


女性は、鴨池さんという。

鴨池さんも、他の三人と同期で、朱雀製紙に勤務している。

昨年、石鎚山で転落死した、鷲尾の彼女だそうた。

朱雀製紙の同期入社の四人が、「時鳥」で飲んでいた。


でも、昨年、石鎚山に登った四人。

鷲尾は、石鎚山で転落死した。

鷹山は、「時鳥」横の路地で殺害された。

そして、鵜川は、石鎚山の河原で殺害された。

残ったのは、鳩井だけだ。


鵜川が、鷹山を殺害して逃げたと思われている。

その容疑者、鵜川が、石鎚山の河原で殺害された。

鷹山を殺したのが鵜川なら、鵜川を殺したのは誰?


これは、平沢先輩の友達の見解だが。

鷹山は、体格が良い。

とても鵜川が、鷹山に敵う訳がない。

たとえ、ナイフを持っていたとしてもだ。


鷹山は、首筋、頸動脈を斬られていた。

ナイフを握った鵜川が、目撃されている。

鵜川が逃亡する直前、「男が」と云っていたそうだ。

鵜川は、自身の犯行ではない。と訴えようとしていた。


そうなると、その男が、鷹山を殺害した。

更に鵜川も殺害したのだろうか。


「読み終わったか?」

弘君が席に帰って来た。

トイレにしては長い。

トイレの後、喫煙室へ行ったのだろう。


「今から、送信するわな」

千景は、平沢先輩のメッセージを弘君へ転送した。


「鵜川は、石鎚山本社に勤務で…」

弘君が云った。

そして、鷹山が三之洲工場で鳩井は、東京本社だ。


「東京へは、行けんなぁ」

弘君が云った。


千景は、驚いた。

行けるものなら、東京へ行くつもりのようだ。


「しょうがない。明日。三之洲へ行ってみるか」

弘君が、さらりと云った。


「三之洲に、何かあるん?」

景子さんは、明後日の日曜日に帰る。

月曜日から仕事だ。

景子さんが、三之洲の観光名所を尋ねたのだ。


「製紙工場がある」

弘君が答えた。


「製紙工場?」

景子さんには、理解出来ないようだ。


「私も、製紙工場。見学したい」

千景は、弘君に賛成した。


千景は、今日と明日、景子さんと一緒に、ホテルで二泊する。

だから勉強は、出来ない。

それなら、事件を推理してみたい。


鵜川の、遺体を発見したのは千景だ。

これは、千景の丁場だ。


大垣さんからメッセージの着信だ。

「それにしても…」

行く先々で、事件に遭遇するのね。

不謹慎だが、行間から羨ましさが、伝わってくる。

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