第142話 戦火の竜子

142

 見つけた別の戦場へ向かって北上しながら、国境線を行ったり来たり。

 中国とどこか知らない国とで、身体の調子の違いを確かめる。


「うん、やっぱり、中国の方が干渉弱いね。夜墨はどう?」

「誤差に近い程度だが、私も同様だ」


 ふむふむ、誤差程度か。

 私の方は明らかにってレベルなんだよね。


 っていう事は、滞在時間が理由って線は無いと。

 私と夜墨の違いってなると、食事量あたりか。これまでの傾向からすると、黄泉よもつへぐい的な儀式になっている可能性もあるとは思う。


 けどなぁ、抵抗してる感覚からして、もっと根幹的な部分が関わってそうなんだよねぇ。

 そうなると、だ。


「夜墨、ちょっと隣の国でしばらくキープで」

「了解した」


 んーっと、たしか、この辺のスレッドにリストが……、あったあった。

 どれが良いかな? この場ですぐできて、ある程度稼げるものとなると……魔物退治かな。


 近くには、強めの気配がちらほら。さっきの将校さんの強さからそうだろうとは思ったけど、こっちはスタンピード経験済みみたいだ。

 私の実験的にも助かるね。


 ブレスや魔法だと拡散しちゃうから、物理攻撃で。

 しょぼい武器をいくつか取り出しまして、魔力で強化しますっと。拡散することも考えて、普段の必要量の倍くらいで。


 これでよし。それじゃあ――


「ほい、ほいっ、ほいっと」


 うーむ、ん、命中。spゲット。


「うん、干渉弱まった。ほぼ誤差だけど」


 一応中国側に戻ってもらって二国の差を確認したから、間違いない。

 

 これで確定だ。

 この鬱陶しい干渉を無くすには、その地域でspを稼がないといけない。


 残る問題は、spがその地域に由来するものでないといけないか否かだ。

 どこでもいいなら、配信が最適。その地域に由来しないといけないなら、他の方法を考えないと今のままじゃ遠い。


 どっちかを判別するには、材料が足りないね。

 まあ、もしどこでもいいなら必要量がかなり膨大ってことになるから、後者の方が嬉しいんだけど。


「まあ、なんにせよ、検証はあとだね」


 不意に進行方向から向けられたのは、楽しそうな殺意。

 それはもう、欲しかった玩具を見つけたって言ってるのが伝わってくるくらいに、無邪気な悪意だ。


 子供じみたそれの持ち主は、本当に子供なのか、待ちきれなくなったらしい。


 目の前に展開した障壁と赤と白の光がぶつかって弾ける。

 私たち龍のブレスっぽいけど、少し違う何かだ。


「手荒い挨拶だね」

「ロード好みだろう」

「まあね」


 威力的にはもの足りないけど。

 弱体中だから一応障壁を張りはした。でも、そのまま受けても無傷だったろうね。


「遊んでやるか?」

「うん」


 夜墨の暗にした提案どおり、彼に任せてしまっても良いんだけどね。

 ただまあ、今のままじゃあ、全員揃っても楽しめなさそうだったから。


「先に行くよ」


 一歩目で宙に躍り出し、二歩目で空を蹴って加速する。

 目標は、ずっと先で歯をむき出しに笑う男のところ。


 ほどほどの速度、といっても新幹線よりは速いくらいで、三十秒ほど飛べば、目的地だ。

 荒れ果てた山岳地帯の頂上付近、隣国からは見えない位置で、件の男と十人ばかりの兵士が私を迎える。


「こんにちは、お招きありがとう」


 黒い髪に赤の鋭い瞳で、白を基調とした中国式の甲冑。それにこの匂い、なるほど。


「それで、あなたは第何皇子さんなのかしら?」


 男の笑みが深まった。本当に楽しそう。


「第二だ」


 やっぱり、虎憲フーシェンたちの兄弟か。

 あれかな、衣の色は治める方角に応じてるのかな。


 だとしたら虎憲の正装は赤色か。銀の瞳にも映えそうだ。


 まあ、それはどうでも良いとして。

 

 種族は、睚眦がいさいかな?

 囚牛を一子、狴犴を七子とするなら、そうなる。

 彼と第一皇子の間に姉が挟まる可能性もあるけど、状況的に間違いないだろうね。


「俺は貴様に、闘争を求める。血湧き肉躍る争いを、殺戮を。妙な理に阻まれない、甘美なる痛みを」


 なるほど、それで私を見つけて喜んだのね。

 

「ええ、受けましょう。あなたの望むようにはならないだろうけど」


 第二皇子の目くばせで兵士たちが下がった。

 残った彼は低い姿勢で私を睨みつけ、大ぶりで肉厚な曲刀を向けてくる。


 感じる強さは、

 兄の第一皇子と同程度か少し下くらいか。

 

 まあ、この程度なら素手でも十分だろう。

 しかしそれでは目的が達せられない。槍を取り出して、自然体に構える。


 これで試合開始の合図は完了だ。

 しなやかな身のこなしで飛び出した第二皇子の剣を一歩下がって避け、切り返しを槍の柄で受け流す。


 スピードはある。力も強い。

 ただ、魔力の扱いがお粗末だね。


 魔力の流れを見せつつ、お留守になっている足元へ尾を打ち付けて、そのまま蹴り。

 垂直に飛んで行った彼は、器用に体を回転させて岩の側面へ着地した。


 そこに魔法。

 無数の雷撃を撃ち込んで、反撃は許さない。

 立ち昇る土煙に、第二皇子の姿が見えなくなる。

 

 ん、まだ元気か。

 土煙から一直線に影が飛び出してきた。


 先ほどよりも早いそれは、ヤマイヌのような頭部で全身に龍の鱗が生えている。また龍に似た尾を持っていて、伝え聞く睚眦がいさいらしい姿だった。


 まあ、多少強化された程度じゃ大した違いはない。

 両手持ちでの切り上げを狙っているらしい彼へ一歩踏み込んで、その顔面へ、掌底。

 彼の身体は凄まじい勢いで反転して、地面に叩きつけられた。


「まだやる?」

「カハッ……。強すぎんだろ」

「だから言ったでしょう」


 槍の先を突き付ければ、第二皇子が諦めたように呟く。


 私としても概ね満足だ。

 私の目的も、ある程度は達せられただろう。

 欲を言えばもう少し耐えて欲しかったけど。


「せいぜい頑張って対策することね」


 私の対策を立ててもらうために戦いを見せたんだから。

 あと、少しだけ稽古のためも。


 隙を叩いて教えるようにしてはいたんだけど、思ったより短時間で終っちゃったね。

 力が戻ってきてる上に、技術は変わってないからってところが理由かな。


 まあ、次に行こうかな。ちょうど夜墨も上まで来たし。

 彼がこのまま強くなってくれたら良いけども。


 殺戮や争いを好んでる割には悪い人じゃなさそうだから。

 兵士たちの様子を見る限りだけども。


 たぶん、睚眦がいさいとしての性質が出てるんじゃないかな。


 上に戻ると、すぐに夜墨に方角を示す。

 だいたい東の方向。少しだけ南寄りで。ここら辺寒いし。


「どうであった?」

「予想通り。ちゃんと対策して、纏めてかかってきてくれるなら楽しめそうかな」


 魔力以外の能力値は彼らよりずっと下がってるんだけど、技術周りの差がね。特に魂力関係。

 

「そうか。ならば、基準に達していなければ私が相手をしよう」

「うん、そうして」


 さてさて、見た感じ、ここら辺は兵站がある分まだマシな生活をしてたね。

 それでもかなり絞られてるみたいで、やつれてる人も少なくなかったけど、それでも第一皇子の領地や途中通った領地よりはマシだった。


 虎憲のところが特殊だったんだなってよくわかる。


 まあ、ぼちぼち都の方にも向かってみようかな。

 皇帝の対応が楽しみ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る