第133話 広すぎ中国
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「ん、真っ直ぐ、てことは西か。内陸に向かう感じだね」
ドンと音を立てて転がった槍を消し、歩き出す。
人間はもちろん、私と夜墨の気配に怯えたのか、動物や魔物の気配すらない。
のんびり配信になりそうだ。
「雑談しながらの緩い配信になりそうだね。たぶん、いつも以上に長時間だから、テキトーにゆっくりしてって」
『うい。とりあえず質問。国外に出た時の影響って無効化してるん?』
『夜墨センセー、寝てるんかな?』
『中国かー、いいなー、』
『たまにはのんびりも良いな。迷宮攻略もいつも爆速だもんな。』
少し歩けばすぐ森の中。今のところ道らしいものはないから、起伏とか無視してひたすら真っ直ぐ行こうかな。
「国外に出た時の影響ね。ある程度は無効化してるけど、完全じゃないね。ステータスの補正がいくらか減ってるし、無効化にリソース割いてるせいで魔法の威力とか思考の余裕も減ってる。まあ、問題ない範囲だけど」
魔力は元が膨大だから誤差って言って良いんだけど、体力がAの上限、つまりは私の初期値に近いくらいまで落ちてるんだよね。
でもまあ、中国の人たちの反応を見るに、まだ配信の解禁すらされてない地域だ。つまりは誰も配信の解禁条件を満たしていない、もしくは満たしていても配信を行っていない地域。
種族変化が凄いって言ってる人もいたから、人間が殆どで、かつ獲得spの総数も少ない事が予想される。
魔法の技術に関しても、少なくとも一般の人が知れる範囲は、軍人ですら大したことが無いみたいだね。
他にも色々推測の根拠に出来る情報はあったけど、総じて言えば、弱体化した今ですら、私の脅威になる相手がいる可能性は少ない。
まあ、可能性がないわけじゃないけど、それはそれで本気の遊びができるわけで。
ただし、私の自由がある程度制限されているのは間違いないので、そこは腹が立つ。
「そういえばさ、今の中国って人口どれくらい?」
私のこれが配信解禁、つまりは日本で初めて配信した時と同じ強制告知のボーナスタイムだった割に、同時視聴者数の増え方が少なかったんだよね。
全員が見てないにしても、ちょっと不思議なくらいに。
『人口? 知らない』
『宮仕えなら知ってるかもだけど、そんな人らはコメント許されなさそう』
『新世の悪夢で大量に死んだって話は聞いたことある』
『あれってただの伝説じゃねーの?』
『十億人以上死んだってあれか』
ふむ。
十億人は大げさに言ってるだけな気はするけど、かなり減ってるのは間違いなさそうだ。
新世の悪夢は、字面的に旧時代から新時代になってすぐの期間かな。世界変容の混乱は、国土の大きいこの地域なら、日本よりも大きかったかもしれない。
ハッキリ分からないみたいだし、推計してみようか。
といってもデータが自分の配信しかないんだけど。
えっと、あの時は、当時の人口の半分くらいが来てくれたんだったか。まだ今の中国情勢が分からないからその点は一度無視して、昼過ぎ、多くの人は仕事してそうな時間って事を加味すると、だいたい人口の三割くらい?
あ、まだ配信始めたばかりだからもう少し少ないか。いったん二割で考えよう。
で、今回増えたのが四千万ちょっと。五倍して、二億。
うん、なんて信用ならない数字だ。
もし本当に二億だったとしたら、十億人死んだのも正しい話になるけど、そんな死ぬかな?
うーむ?
まあいいか。
『ところでさ、ハロさんは何の種族?蜥蜴人?』
およ、懐かしい質問。
どう答えようか。龍は中国だと、日本以上に特別な存在だからなぁ。
そのまま答えて良いモノか。
『蜥蜴ではないな』
『どちらかと言えば蛇だな』
『うむ、蛇。蛇人』
『いえす蛇!』
『蛇だぞ』
うん、相変わらず謎の連携。
龍って言ってる人が誰一人いないんだけど。
「そう、蛇だよ、うん」
まあ私も乗るんですがね。
はいそこ、草に草をはやさなーい。
なんてくだらない事を言いつつ街進むけど、一向に人の気配を捉えられない。
「いや、広すぎない?」
『中国だもんな』
『ずっと同じ景色。雄大な自然』
『ただいまー。まだ森の中にいたのか』
『さっきまで山上ってたよ。垂直に』
うーむ、どうしたものか。
さすがにずっと真っ直ぐは無理があったかな?
『そういえばさ、中国って風水とか凄く気にしてなかったっけ?』
『そういう思想はあったな。俺らが想像する風水は日本に入ってから色々変わってる部分もあるが』
「それだ!」
『え、何が、風水?』
『びっくりしたー。珍しい大声』
そうだそうだ、その手があった。
地脈、つまりは魂力の流れって、旧時代の頃からそこにあるとされていた位置に概ね一致している。種族と同じで、人々の認識が反映された結果なのだろう。
これらが示す所は、即ち、地脈の流れに沿って歩けば、街が見つかる可能性が高い。
仮に街そのものが無くても、迷宮はある。
迷宮も信仰なんかが影響した位置にあることが多いし、目印になるね。
「ちょっと方向変えるよ」
『お、おう?』
『また俺らには分からん何かを受信したか』
なんか電波みたいに言われてるのは業腹だね?
たぶんもう通じないから言わないけど。
『あ、ハロさんハロさん。朗報です』
「ん? どうしたの?」
ウィンテったら、どうしたんだろ?
もったいぶる様にコメントきるのは珍しい。
『自動翻訳魔法の応用でパソコン作れそうって眷属の子から連絡がありました!』
『ガタッ』
『ガタガタッ』
『ガタッ』
『お前ら餅つけ、いや落ち着け』
「うん、急にインターネット仙人会始めないの。それで、ウィンテ、くわしく」
これは間違いなく朗報だ。スレッドだったらkwskとか打ち込んでたかもしれない。実際コメント欄でいくつか流れてるし。
あ、やっぱり長命種以外に伝わってない……。
『盲点でした! 電気信号への変換プロセスを、魔力で魔法とせずに行えばよかったんですよ! 旧時代のパソコンでできる事は大体できます!』
『なる程分からん』
『ハロさんは分かってんな』
『さすが吸血鬼組。マジで神。スレッドとか動画とか、出力して共有できないの地味に不便だったしな』
『なんかよく分からんけど吸血鬼の研究者やっぱすげーな。一部地域で迫害されてるのマジで意味不』
『そこは、歴史を学ぶしかないな。ざっくり言えば昔戦争があった』
ふむ、なるほど。魂力の事をぼかして言ってるけど、私には十分伝わる。
当時インターネットが使えなくなった、つまりは通信が出来なくなったのは、電波や電気信号が情報を含むものだったがゆえに、魂力に干渉して遮断されてしまっていたからだ。ネットが使えなくなるまで猶予があったのは、魂力の濃度の問題だって言われてる。
これは割と早い段階で発見されてたんだけど、じゃあどうしたらこのプロセスを再現できるかが分からなかった。魔法として行うと、そのまま現象が具現化されてしまって、大惨事になるんだ。
これを、魔法として具現化するという情報の部分だけを消去し、情報の伝達媒体としてのみ魂力を使う形に変える。
その上で、出力先のパソコンに魂力の情報を読み取って表示する魔法を刻めば良いって訳だね。
「なるほどね。いやぁ、マジでグッジョブ!」
とするとだ。写真の出力も可能になるわけで。
よし、旅行中にたくさん写真撮ろう。
とりあえず、ここからの景色もパシャリっと。音はしないけどね。目から入って来てる光学情報を、保有する魂力の一部に保存してるだけだから。
これは楽しみが増えたね。
皇帝の写真も撮っちゃおうかな?
さっき宮仕え云々言ってたし、いるでしょ。
と、うん?
「皆、こっちも朗報。人の気配だ」
ただし、悪意たっぷりの、ね。
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