第134話 第一村人は発見したけども
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まあ、せっかく見つけた人の気配だ。行ってみよう。
悪意に気が付いてる事は隠してだけど。
『ようやく第一村人か』
『村とは限らんがな』
『そういう言い回しが遥か古にはあってのう……』
『てか、パソコンいけるならテレビも復活?』
『配信をテレビ画面で皆で見れるってのは良いな』
『今も配信の権利貸し出して似たような事してるやつら射たな』
「みたいだね。私の所にはそんな話来てないけど」
喋りながら気配をさぐれば、動いてる様子はない。待ち伏せか。
このまま会話は続けておこう。油断して何か漏らしてくれるかもだし、コメントの方でも面白い情報が出るかもだし。
『そういえばさっき北の方の人がどうのって言ってたけど、自動翻訳の魔法って方言も再現するのな』
『ハロさんってあんまり方言でないよね ちょいちょいあるにはあるけど』
『テレビか。なんか色んな機能使ってるらしいな。俺は配信権限もってないから詳しくは知らないけど』
それはそれとして、待ち伏せてる彼らの扱いが問題だ。
どうしようかな。私の一番知りたい情報は格好を見れば分かるけど、だからって問答無用じゃ印象悪いよね。対応するの面倒だなぁ。
「方言ねー。一応出雲弁がメインで他にもいくつか混ざってるけど、そんな出ないね。人間だった頃も家族といる時くらいしか使わなかったし。まあ、助詞抜くのはよくやるけど」
んー、まあ、一応会話するふりはしようか。人間らしくあるためとはいえ、こういう社会的制約は鬱陶しい。
まあ、他の情報もそれなりに得られるかもだから良しとしよう。
「テレビに使える機能、確かにあった気がする。他人に配信権限の一部付与みたいな。それしてる間は自分で配信できないっぽいから、私もちゃんと調べてないんだよね」
残り五十メートル。この距離でもしかけてこないか。やっぱり、旧時代の基準で動いてるのかな、彼ら。
ん、三人だけ出てくるね。他は、周りに潜むと。
『配信中失礼します。私、ヤマト放送局のザギンと申します。本日は配信委託の件で伺いました』
おん? なんか来た。
ヤマト放送局って、ちょうど話に出てたテレビぽいやつか。噂をしてたらばっちり影が差したね。
『委託配信がどういったものか、という説明は必要なさそうなので、さっそく本題に入らせていただきます。こちらからは配信権の借用代として、月々二百万spをお支払いいたします。悪い話ではないと思うのですが、いかがでしょうか?』
ふむ、二百万。これは、本気で言ってるのだろうか? それとも悪戯?
悪戯だと思いたいなぁ。
「そこまでだ、女」
あー、タイミングよ。
なんで被せてくるかな?
「ここを通りたきゃ、荷物全部置いていきな。もちろんspもだ」
えーっと、武器は、質の悪そうな中国剣と、金属製の棒か。軍の人間が持つ武器っぽくはないなぁ。服も、ボロッちい普段着みたいなの。
動き方も素人に毛が生えた程度だし、ただの野盗だね。
「なんだ? びびっちまったか? 安心しな。抵抗しなきゃ、命まではとらないでやる。まあ、ちょっとばかし楽しませてもらうがな? へへ」
うん、絵に描いたような下卑た笑みだ。鳥肌が立っちゃうね。
「あー、勝手に盛り上がってる所悪いけど、答えはノーだよ。あなた達にも、コメント欄の何たら放送局さんにもね」
『何故ですか、私たちがこれほどの譲歩しているのですよ。喜んで配信権を差し出すのが筋でしょう』
何でって言われても。
『月二百万て。ハロさんの同接とか登録者数とか一切見てないだろコイツ』
『なんか凄いテレビって感じ。懐かしい』
『一回の配信で数十倍稼いでるでしょ、ハロさん』
いえす。
「女、お前状況が分かってるのか?」
あーもう、同時に話進めないで欲しいなぁ。
口は一つしかないんだよ。
コメントは流れるものだから仕方ないけどさぁ。
「放送局さんについては、額が少なすぎるし色々めちゃくちゃだしで話にならない。あとあなた達、状況はよく分かってるよ」
野盗どもからはもう少し情報を引き出せそうだけど、別にコイツらから頑張って引き出すほどのモノじゃないなぁ。
「なら仕方ねぇ。てめぇら、ちょっと痛い目見せてやれ!」
あ、本当に襲い掛かってきた……て動きおそ!
いや、最近戦った相手と比べたらだめか。それにしたって遅くて、欠伸が出そうになるけど。
『あーあ、命知らずすぎる』
『めっちゃ退屈そう。まあ、ハロさんならテキトーにしばいて眠らせて終わりか』
『第一村人は汚い花火になりましたっと』
『さすがに殺しはしないだろ』
ん、やっぱ殺して終わりじゃダメそう? 今の時代でも配信で人間殺すのはダメかぁ。
手加減面倒だなぁ。
て、なんかプライベートスレッドの招待きた。これ、さっきのなんたら放送局か。契約書?
契約しないって言ってるんだけどなぁ。まあ、面白そうだから読むだけ読むけど。
ふーん? 配信するときは放送局側に許可取り必須、アーカイブ含め配信に関する収益は全て放送局へ、ねぇ……。
「く、そ! なんで当たんねぇんだ!」
「大人しく、しやがれ、日本人如きが!」
お、隠れてたのも出てきた。日本人憎しの教育にどっぷり浸かってそうだねぇ。
『ああいうのは一部なので、誤解しないで欲しいです。正直、日本とかよく分かりませんし』
『偶にいるよね、妙に日本とか敵視してるの。陸の国境でも争ってるのに不思議』
『まあ、俺らも中国人皆が皆そうだとは思ってないから安心しな』
『いいから契約しろよ、お前のちんけな配信を俺たちが有効活用してやるっつってんだよ、俺たちが使ってやった方が有意義だろ』
ホントに煩いなぁ。ちょっと気になる情報もコメントされてたから、そっち聞きたいのに。
この何たら放送局も、今頑張って襲い掛かってきてる野盗どもも、本当にめんどくさい。
やっぱサクっと殺しちゃダメかな? 生かす意味、特になくない?
強いて言えば社会的な立場だとか、配信者としての利益だとかって部分だけど、今の私がそこに拘る必要ある? そういうのから脱したくて、私は人龍になった筈だよね?
『ハロさん、その場から動いてなくね?』
『動いてないな』
『あ、敵の魔法が霧散した。なにあれ』
『あー、あれは魔法の術式自体に干渉して魔法として存在できなくした感じですね。私たちレベル同士の戦いじゃ無意味ですが、格下相手なら便利ですよ』
『ウィンテさん解説あざっす。でもよく分かんなかった』
『ハロさんたちからしたら俺らは雑魚ってこと』
『それはそう』
と、落ち着け私。感情に流されたらダメだ。
感情による判断は、守りたいものすら破滅に導く可能性を極端に大きくする。感情でしていいのは、目的の決定だけ。
というわけで整理しようか。なんかぶんぶん振り回してるやつらとか、コメント欄で喚いてるヤツとかは一旦放置だ。
まず、私は諸々の
で、世捨て人生活をするには柵を必要としない程の力と、財力が必要。力は、人龍となる事で得た。残る財力の為に、私は配信をしている。
いや、配信をしていた。
今現在、私の所持spは数百年食っちゃ寝したところで問題ないほど。アーカイブの方からも定期的に入ってくるし、食料確保の為に迷宮に潜るだけでも多少貰える。
そもそも力で大体のモノは調達できるし、今更頑張って稼ぐ理由もない。
残るのは、人間らしくありたいって部分だけど、これ、配信じゃないとダメかな?
人間社会に依存しないとダメかな?
ぶっちゃけ、令奈とウィンテがいるだけで十分な気がしてる。二人との共依存関係を解消しようとして旅だった部分はあるけど、でも、この共依存ってとっても人間らしいと思うんだ。
つまり、さ。
「もう我慢しなくて良くない?」
『ん? 突然どした?』
『なんか我慢してたん?』
『いいんですか?』
『本気かあんた?』
ウィンテと令奈が考え直すよう言ってる。けど、もう決めちゃった。
二人は、こんなんで離れるほど正義感に溢れてるわけじゃないし。ただ、特異である意味をよく知っているから、引き留めようとしてくれているだけ。
そういう訳で、だ。
「とりあえず、死んどいて」
直後に閃光と雷鳴が、それぞれ野盗どもと同じ数。
すぐに辺りは静かになって、残ったのはぷすぷすと煙を上げる、人型の炭ばかり。
『し、死んでる……?』
『殺したの?』
『ハロさんって、こういうこと簡単にする人だったっけ?』
『別に殺さなくても良かったんじゃ、、』
『最初っからこうして殺せばよかったのに』
『人間簡単に殺しすぎじゃ』
『忘れそうになるけど、この人、人じゃなくて龍なんだよな。。。』
あー、やっぱ否定的な反応が多いね。まあ、仕方ないか。分かっててやった事だし。
「もうさ、人間社会の柵に囚われるのが面倒になったんだ。面倒だったらサクサク殺すから、嫌だって人は見に来なければ良い。まあ、ちょっと気に食わないからって意味もなく殺すような短慮な真似はしないけどね。必要な時だけ」
うん、がっつり同接減った。けど、思ったよりは残ってる。登録者数も似たような感じ。
「そう、私は龍神だ。人間の価値観で判断してもらったら、困るよ」
残ったのは十分の一くらいかな。まあ、十分。
これで漸く、面倒が一つなくなった。
夜墨が何か言いたげにこちらを見ているけど、残念ながら、もう決めてしまった。実行してしまった。
多少人間らしさから外れようと、ウィンテと令奈がいる限り完全に人間を捨てることはない。それに、最優先の目標は、世捨て人生活だ。
だから、安心しなよ、夜墨。
私は、私の望む方向に向ってる。
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