第131話 再確認しよう

131

「はい、私の勝ち」


 彼のすぐ横に突き刺さった槍を引き抜き、魂の内へ再収納する。それからボロボロになった着物を修繕しつつ、飛んで行った彼の両腕を回収した。


「……はぁ、今回は勝てると思ったのによ」

「ふふ、種明かしが早すぎたね」


 腕を投げて返してやりながら、ついでに彼の着替えもspと交換して、投げ渡す。


 実際、彼の魔法無効化能力の強化を知るまで、私は油断しきっていた。

 仮に、さっさと終わらせようとしていなかったら、彼の猛攻の内でお披露目されていたら、勝負を決める隙になってしまっていただろう。


「まあ、負けは負けだ。お前を嫁にするのは諦めるさ」

「それがいい。龍と鬼で子が為せるとも限らないしね」


 彼なら、色んな女の子から引く手数多でしょ。

 顔も良くて、地位も力もある。性格もなんだかんだで悪くない。気を利かせられるし、奥さんの事も大事にするよ、彼は。部下からも慕われてるしね。


「どうする? お風呂くらい入っていく?」


 お互い、かなり血みどろで凄いことになっている。B級ホラー映画くらいならそのまま出られそうだよ。

 

「あー、いや、潔く帰るさ。ミヅチの爺さんに頼みゃ、水浴びくらいさせてくれるだろ」「え、なに、そこも仲良いの?」

「おう。ハロリス仲間だ」


 嘘でしょ?

 赤竜と言い、私のリスナー同士が思わぬ組み合わせで仲良くなってるね?


 聞けば、ミヅチにここまで送ってもらったらしい。

 ミヅチって、一応私を信仰してる精霊たちの長なんだよね? 護り手みたいなものだよね?


 うーむ……まあ、いいか。


「また飯は食いに来い。その時には嫁と、出来てたらガキも紹介してやるよ」

「気の早いこって。まあ、楽しみにしてるよ」


 鬼秀を迷宮の入り口まで転移させ、私は自室の玄関に転移する。靴を脱いだら、そのままお風呂へ再転位。

 身体の血糊をシャワーで流して、着流しは魔法で綺麗に。ついでに湯船に使って一息ついていると、夜墨が入ってきた。


 黒い石のタイルで作ったお風呂場は、ウィンテと令奈と三人で入っても余裕があるくらいだから、夜墨がいても寛ぐのには問題ない。温泉をイメージして作ったからね。


「長かったな」

「うん。楽しかった」


 夜墨はそうか、とだけ言って、自分も湯船につかる。私と大国主さんが混ざった存在だからなのか、彼もなかなかのお風呂好きだ。

 もう今日は配信する気にはならないので、日本酒の入った徳利を取り出して桶に入れ、湯船に浮かべる。


 本当に楽しかった。楽しかったんだけど、さ……。


「私さ、絆されすぎじゃない?」


 聞いてる側からしたら脈絡のない言葉に、夜墨が瞑っていた目を開く。


「悪いことでは無かろう。そうでなければ、先刻の戦いは楽しめなんだ」

「まあ、そうなんだけどね」


 それにしたって、ここまで人と直接関わるつもりはなかった。

 そもそも私が目指しているのは、世捨て人の生活だ。それが出来る基盤を作る為に、配信で人と関わったり、ひいてはある程度の社会的制約を受容したりしてきたわけで。


 確かに、ウィンテや令奈と一緒にいて、私が嫌いな煩わしさを感じる事はない。

 無いんだけど、世捨て人生活からは遠ざかってる気がしなくもない。特に、今の私たちの共依存じみた関係は。


 いや、世捨て人だって多少は人と関わる事はあるだろうけど、うーん……。


「よし、暫く距離を置こう。どうせ海外旅行いくし」


 今ちょっとあちこちで戦争してたり、魔族が活発化してたりで大変みたいだけど、私には関係ない話。火種になってるのも短命種たちだから、そのうち終わるでしょって認識。

 まあ、令奈は隠居の準備しとったのにってちょっと怒ってたけど。


 とは言え彼女の事だから、ついでに勢力圏広げちゃうかもね。魔族っていう分かりやすい敵を上手く活用して。

 私としてもそっちの方が好都合だから、頑張ってほしい。


 あ、鬼秀がこのタイミングで来たのって、戦争起きてるからか。

 原初の王って一括りに呼ばれる事も増えた私たち始祖だけど、別に仲良しこよしの集団じゃないし、始祖同士で争う事になったら、万が一があるって部下たちに思われたのかな。


 うん、まあ、関係ない関係ない。

 全くもって問題なし!


 一応二人には連絡しておこう。じゃないと煩いし。


「そういう訳で、明日出発ね。中国」

「……配信は向こうでするのか?」


 ん、配信か。そういえば、そろそろしないとって話してたんだった。


「別にしなくても良くない?」

「いや、しておけ。まだ、人としてありたいのならな」

 

 これは、私がウィンテや令奈と物理的に距離おこうとしてるの、バレてるね。


 確かに、彼女らが私を人たらしめる一因なのは間違いないと思う。配信がそうであるように。


「……うん、そうだね。配信、しようか」


 旅配信して欲しいって、二百年前くらいに言われてたしね。そろそろ新しい事しても良いでしょう。

 もちろん、向こうでも迷宮を見つけたら配信するつもりだけど。


 そうと決まったら、今日はもう寝よう。

 もう二、三日寝てなかったし、備えておくに越したことはない。もう数日位なら、寝なくても全く影響ないとは思うけどね。


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