第114話 お先に失礼された!
114
そして、週末。
未だユリウス暦の使われる現代の、日曜日にあたる日。
そのすっかり明るくなった時間に、ウィンテと令奈の配信は始まった。
「おはようございます! ダーウィンティーです!」
「おはようさん。
「今日は普段と少しばかり趣向を変えて、晴明、ワンストーンさんとの大迷宮攻略を配信します!」
手の届く範囲に展開された二つの画面の中、三人がいつもの戦装束で並んでいた。
ウィンテは黒のゴシックドレスに白衣、令奈はオーソドックスな巫女装束の上に真っ赤な
あと、ワンストーンさん。
彼もいつものシンプルなバトラー服。
誰かの悪ふざけコメントがきっかけの格好だ。
まあ私のなんだけども。
三人とも見た目は変わってないけど、装備自体は強化されてるっぽいし、今のレベルでも問題ない代物でしょう。
『こんちゃ。久々だな。今回はハロさん無しか』
『こんウィン晴明ー』
『こんウィンー。ハロさんとの特訓終わったのか』
リスナーも続々と集まってるね。
二枠分まとめてあるコメント欄の色分けは、前と一緒。
令奈のところが黄色で、ウィンテのところが黒だ。
と、私も挨拶くらいはしておこう。
『やほ。二人ともがんば』
「あっ、ハロさん! はい、頑張ります!」
「まあ茶でも飲みながら見とってや」
二人の後ろでワンストーンさんもお辞儀。
彼、見ない間に白髪が幾らか混じってるけど、それが一層イケおじ感出してて良いね。
彼のファンクラブもあるんだっけ。
「あ、そうだ、晴明。皆にアレ見せてあげたら?」
「あー、そうやな」
『うん? アレとな』
『なんだろ?』
『そういや、晴明さん、壊してたな』
『おー、アレか! ……アレってなんだ?』
お、早速お披露目か。
どんな感じになったかな。
「今回の配信に向けて新調した扇子や」
令奈が懐から出して広げたのは、大きな白い扇子。
彼女の肘から先と同じくらいの大きさで、黒い骨は金属と木の両方に似た質感だ。
扇面に銀で描かれているのは、狐と
それから、赤いアレは月か。
夜墨と同じ黒色をした房飾りには、紫の玉がついていて、白銀色の龍が描かれていた。
正直、予想をふた回りは上回る出来だ。
『おー、綺麗!』
『扇子か。扇子、だよな? なんか画面越しでもやばい力感じる』
『狐と炎は言わずもがなで、月はウィンテさん、龍はハロさんかな?』
『ちゃっと百合板言ってくる』
『もちつけ百合の民』
まだ居るんだ、インターネッツ老人会の住人。
あれ、でもこの人まだ五十歳くらいで若かったような。
「そうそう、三人で素材を集めて作ったんです! なんと夜墨先生の髭まで使ってるんですよ!!」
「
『ほえー、先生の髭。裏山』
『コレは、勝ったな』
『ああ』
『提案した時満更でもなかっただろ』
あ、玄一郎さん。
令奈が赤面してる。可愛い。
「んんっ。ええから、さっさと行くで。うちの配信は雑談枠やっとらん」
「ふふ、はーい」
キッと睨む姿も眼福ですね?
心のアルバムにそっとしまいつつ、切り替わった画面に意識を移す。
見えるのは、綺麗な白木の扉だ。
観音開きなのは出雲の大迷宮と同じ。
でも
「ほな、行くで」
「うん、いつでも」
ワンストーンさんは声を出さず、こくりと頷く。
空気が変わった。
先ほどまでのほんわかした雰囲気は消え去って、一気に緊張感が漂う。
コメント欄も今ばかりは勢いを緩め、リスナー達が固唾を飲む様子が見えるようだ。
ゆっくりと開かれる扉。
その先から白い光が溢れて、画面を凝視していた私は一瞬、目を細めることになった。
『あれが、伊勢の守護者……』
『太陽の冠、、、。それと鏡の首飾りと、勾玉のブレスレット。
『綺麗な人だけど、なんか、怖いな』
『優しそうな目してるのに、震えてくるんだけど』
『やば、むり』
なるほど。
……なるほど。
強い。
ここまで伝わってくる。
けど、近い。
コレまで見た、他の何よりも伊邪那美さんに近くて、強い気配を感じる。
あれがこの国の主神。
八百万の神々を纏める、
私までゴクリと喉を鳴らしてしまう。
口角を吊り上げてしまう。
羨ましいくらいだ。
でもアレは、あの三人が倒すべき相手。
お手並み、拝見だ。
三人の背後で扉が閉まるのに合わせ、仕掛けたのはワンストーンさん。
彼の投げた真っ赤なナイフは線を残す勢いで飛翔し、天照さんを襲う。
腕力だけでは説明のつかない速度と軌道は、おそらく慣性に関する情報を詰め込んだ魔法によるものだ。
確かな質量体は、天照さんの支配する魂力領域に入っても勢いを衰えさせない。
ナイフはウィンテ達の支配領域とせめぎ合う境界を超え、しかし天照さんへ届く直前、煙を上げながら消失してしまった。
『うぇっ、何で消えた?』
『あれじゃね、高熱で蒸発した』
『あの一瞬で?』
既存の物理現象に照らし合わせれば不自然な話だけど、正解だ。
熱量の情報を、ナイフの内側にそのまま発現させたんだ。
それなら熱伝導だとか、過程の一切を無視できる。
生物と違って、抵抗値、現象の発現を邪魔する魂力が少ないから。
吸血鬼の血で作られたモノみたいだから、その辺の金属ナイフよりはマシだけど、それでも相手は日本の最高神。
然もありなん。
ワンストーンさんに動揺は無い。
続けて二投、三投とナイフを投げる。
そのどれもが、天照さんへ届く前に蒸発してしまった。
しかし、徐々に距離は縮めている。
「ふむ、私の能力では十センチまでが限界ですね」
「まあ十分やろ」
「ですね。予定通りそのまま続けてください」
なるほど、ナイフに込める魔力量を増やしていっていたのか。
魔力、即ちワンストーンさんの意思が込められた魂力は、天照さんの魔法に対する抵抗値だ。
その量や密度が増せば、他者が別の情報を込める難易度が増す。
「しかし驚いたね。彼、特訓開始時点の令奈と同じくらいの支配力だよ」
「ああ。たかが公爵の身でアレは賞賛に値する」
相当頑張ったのか、頑張らされたのか。
何にせよ、資質として破格のモノを持っている。
もし仮に、彼が吸血鬼の始祖になっていたとしたら、最上位者の一角になっていたのは間違いないね。
「まあ、ウィンテや令奈の資質はそれ以上なんだけど」
支配圏の奪取に注力していウィンテが、ワンストーンさんと同じように血のナイフを投擲する。
天照さんは同じように蒸発させようとしたらしいけど、叶わない。
代わりに足を一歩引いて躱わし、後を追ったウィンテの鎌を障壁で受け止めた。
『ああっ、惜しい!』
『真ん中から動かないの、強者感凄いな』
『そりゃ強者だからな』
コメント欄では色々言ってるけど、両者共に、まだまだ小手調べだ。
陣取り合戦をしつつ、ジャブを放ってるに過ぎない。
今のところ、支配域は天照さん六の三人が四。
三人いるアドバンテージを活かせるかが問題か。
「ここまでは、問題無し。令奈が何か準備してるけど、先に動くのはどっちかな?」
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