第108話 ショッピングに連行され中
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陽の光を頭上に受けながら私の右隣でニコニコ歩くのは、髪を真っ白に染めたウィンテ。
左側には普段通りの表情をした
両手に花な私なんだけど、気分は曇り模様。
今の髪や目の様に黒くはないのは、嫌な状況ではないからだろう。
こうして三人でお出かけする事になったキッカケは、初日の勝負を終え、リビングに移動した後のウィンテの言葉だった。
「ハロさん、いくらなんでも部屋着テキトー過ぎません? 男性っぽいですし」
私の目が盛大に泳いだのは言うまでも無い。
勝負にバッチリ負けたばかりで、この発言。
この日のお願いの内容はもう察しがついてしまったけど、一応言い訳を試みたよ。
「部屋着なんて何でも良くない? 人に見られる訳でもないし」
「しっかり見せてるじゃないですか、私たちに」
あ、はい。
その通りでございます。
だって、元々うちに人を招き入れる予定なんて無かったし。
家の中は楽なので良いし……。
せっかく女の子になったんだからって外行きの服は色々見たけどさ、外に行く時だけで十分なんだよ、正直。
だから部屋着はあり物の男物を保護しながらで良いと思うんだ。
なんて続きは心の中でだけ。
たぶん、問題なく受け入れてくれるけど、態々捨てた私を教える意味は無いしね。
ともかく、これ以上の言い訳が思い付かなかった私は、こうして目出たく旧渋谷エリアへショッピングに連れ出された訳です。
なお今の呼称は知らない。
「この辺りは久しぶりに来ましたけど、随分変わりましたね」
確かに。
建物の外観は変わっていない。
だけど今はどこの街も西洋の様に街壁に囲われていて、元都市部は広い土地が増えた。
建物も背の高いのは減ったかな。
魔物の領域が増えたり戦争があったりと日本に元々あったような街の作りじゃ不安な世の中になっちゃったからね。
人口も旧時代に比べたら劇的に減ってるはずだよ。
「それでもこんだけ栄えとるんや。人間しぶといわぁ」
令奈の視線の先には、幾つも軒を連ねた店々と、その間を行き交う様々な種族の人々。
人族が多めかな。
今の私たちも見た目は人族。
けど妙に視線を感じるのは、私たちの容姿が三人とも人並み外れてるからかな。
あとは普通の大学生スタイル二人の中にアルビノみたいなウィンテが混じってるのもあると思う。
「むぅ、アルビノは失敗でした。ハロさんより私の方が目立っちゃってます」
アルビノ正解だと思うよ、うん。
正直、あまり見られてると鬱陶しいし。
人身御供になっておくれ。
「ハロさん? 令奈も何頷いてるの?」
ハハハ、気にしたら負けさ。
「そないな事より、あの店見てみん?」
「そうやって話し逸らす……。あ、でも本当に良さそう。ハロさん、行きましょう!」
「あー、はいはい」
ウィンテは私の手を引っ張って、角にあった若い女性向けらしいお店へ凸撃する。
成すがまま、無表情で引かれていく私を、一部の通行人たちが微笑ましげに見ていた。
太陽が西の方まで傾いて、空が茜色に染まった頃、二人がようやく満足してくれた。
部屋着だけ数枚買って終わるつもりだったのに、気がつけば私の両手は服の入った袋でいっぱい。
支配した魂力内に仕舞っていないのは、もう十分じゃないかって無言のアピールだ。
気づいた上で無視されたけど。
「たくさん買いましたねー」
「本当にね?」
「偶には悪ないな」
あなた達はね?
バッチリ着せ替え人形にされてた私は割とクタクタだよ?
まあ、楽しくなかった訳ではないけども。
「……素直じゃなくて悪かったね?」
「いーえー? まだ何も言ってませんよー?」
「そやで、まだなんも言っとらん」
くっ、ニヤニヤしおってからに!
額で言えば、日本円なら二、三十万いく位服買わされたんだけど?
今の私たちからすれば全く懐が痛くない端金同然の額だけども、量的にさ。
なんかまだ揶揄われそうだし、話変えるか……。
荷物も仕舞っておこう。
「それにしても、けっこう色んな袋でもらったね」
紙に布に、なんかよく分からない肌触りのに。
「ビニール袋
「
ほー。
旧時代の知識もある程度残っているとはいえ、たった百五十年でそこまで来たんだ。
「凄いね」
「ですねー。論文、どこかで纏めて保管したいです。眷属たちのは把握してるんですけどね」
昔はそういう論文サイトだったり図書館だったりがあったからなぁ。
どこかの物好きが図書館くらい作ってないかな?
「あんたらはもうちょい外出た方がええんやない?」
それはそう。
嫌だけど。
令奈の呆れた視線には慣れたものですよ、ええ。
改めて街を見渡す。
違和感なく歩いてたけど、違和感がない事の方がおかしいんだよね。
人間の進歩は目覚ましい。
これから緩やかになっていくかもしれないけど、うん、やっぱり見捨てないで良かったよ。
「うん? なんだか良い匂いがしますね」
「これは、ジビエ系かな?」
「そうやな。一キロくらい向こうか」
ふむ、ちょうど夕飯時か。
「行く?」
「いんやない?」
「そうですね、行きましょうか」
夜墨に連絡してっと。
「夜墨はテキトーに海で食べるってさ」
「明日の夜はお造りが食べたいです」
「この時期は貝も美味しいやろなぁ」
連泊する気満々ですね?
特訓に付き合ってくれるって事だから、ありがたいけども。
「連絡した」
「楽しみですねー」
「その前にジビエや」
楽しそうで何より。
二人は良い距離感を保ってくれてはいるけど、やっぱり百五十年前に大半の人間見捨てても良かったかもなぁ……。
なんて考えながら、自分の口角が少し上がっているのは自覚していた。
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