第101話 祖龍と魔祖

101

 一気に支配領域を増やす。

 ゼハマも応戦してくるけど、遅い。


 生き残った四人の周囲を完全に支配して、八度目の雷。

 妖怪も物言わぬ炭となった。


 私の干渉に耐えただけあって、竜人と人間はしぶとい。

 人間なんて意識が無いままに受けているくせに、まだ死んでいない。


 ゼハマが支配を押し返してくる。

 彼自身も魔族たちの側に近づいていた。


 現状、陣取り合戦は七対三で私が有利。

 一日の長があるんだ。

 簡単には負けてやれない。


 そんな訳で、九発目。

 これでエルフが死んだ。


 竜人はまだ耐えそうだけど、人間は次で終わりか。

 

「……はぁ。分かった。ではこうしよう」


 どうにか支配領域を広げようとしていたゼハマが、降参だというように両手を挙げた。


「彼女の家族は返そう。それで手を引いてくれないか?」

「……出来ると思う? そこのゴミどもは、私の大事な人の自由を奪おうとしていたのに」


 そんな事、許せるわけがない。


「そうか。ならば仕方あるまい。お前とはあまり敵対したくないのだ」

「は?」


 何言ってるの、と口に出す前に、周囲の景色が一瞬で切り替わった。

 殺風景な岩の広間も、話を聞かない紫髪の男も、そこにはない。


 代わりに月明りに照らされた草原が広がっていた。

 傍らには湖があって、石の祠がその中央に佇んでいる。

 

 これは、迷宮から放り出されたか。

 やられたなぁ。


 足元には、ウィンテさんと何処となく似た顔立ちの老人三人。

 たぶん、ご両親と弟さん。

 聞いてた家族構成的に、これで全員かな。


「はぁ、返してはくれるんだ」


 本当に変な奴だ。

 たぶん、ちょいちょい喧嘩売ってる自覚は無いんだろう。


「まあいいや、行こう」

 

 あの魔族二人は、もうどうでもいいか。

 竜人は特に何も言ってなかったし、人間はどちらかというと諫めていた。

 巻き込み事故にあったようなものだ。


 私が言うのもなんだけど。


 魔法で気絶したままの人間三人を浮かせ、夜墨の気配を探す。

 魔族っぽい気配三つとやり合ってるみたい。


 けっこう強いけど、夜墨の相手じゃないね。

 地上を壊さないようにしてるのと、相手が時間稼ぎに徹してるのとで苦戦してるだけだ。


 さっさと合流しよう。


『ああああ! 今出ました! 皆は大丈夫ですか!?」


 お、プライベートスレッドの方に書き込みが。

 ウィンテさん達も出て来たみたい。

 

 じゃあこっちに、救出完了っと。

 夜墨の方の魔族も撤退していくね。


 まあ、逃げられても問題ない。

 それは夜墨も分かってるから、追いかけずに私の方に向かってる。


 ここは、元白神山地の辺りか。

 私が大半を更地にしちゃった所。

 五十年も経ってるのにまだ草原なのは、何の影響なのか。


 しかし、こんな所に迷宮があったんだね。

 隠れ潜んでる迷宮自体を隠してたわけだ。


 また来られるように周囲の風景を脳裏に焼き付けつつ、新潟方面に向かう。


 目的は達成できたし、めでたしめでたしで良いかな。

 けど、やられっぱなしなんだよなー。


 意趣返しくらいしてもいいんじゃないかな?

 中野の王に関してもやっぱりちょっと腹立つし。


 というわけで、ブレスチャージ開始。

 時間は、七秒くらいかな。


 魂力に魔族殺しの情報を込めた魔力を溜める。


 そして、発射。


「ガァッ!」


 吐き出した龍の吐息は、幾重にも別れて、流れ星の如く降り注ぐ。

 

 人間に当たっても殺してしまう程度の威力はあるから、ちゃんと狙いを定めて、魔族だけを撃ち抜く。

 

中野軍、甲府軍、関係なく、魔族を滅ぼしていく。

 戦場は混乱してるだろうね。


 その辺は現場の指揮官に頑張ってもらうとして、最後方の指揮官。

 貴方には死んでもらうよ。


 じゃあね、中野の王。

 私の友人を手中に捕えようとした、哀れな変態よ。


「地上を壊さないのではなかったのか」

「ん、必要経費」


 ちょうど夜墨が合流してきた。


 魔族は、文字通りの全滅。

 中野の王も、無駄に派手な城ごと消滅していた。


 隠れている様子も見られない。

 頼りになるのは月明りばかりだけど、私たち龍の目には十分な明りだ。


「これで終わり、か」

「ああ。これ以上は、吸血鬼どもの領分だ」


 元々彼らの戦だしね。


 思えば、こんな時間に人間が吸血鬼に戦いを挑むなんて、おかしな話だ。

 あの王も、甲府の王も、思った以上に狂ってしまっていたんだろう。


 それを為したゼハマに対しては、特に思うことは無い。

 倫理観が云々言うのであれば、私もかなりズレているから。


 元々論理で道徳を守っていたタイプだったのが完全に人外になってしまって、タガが外れた感じ。

 ……いや、外す為に人外になったっていう方が正しいか。


「……どうする? 三人を届けたら北海道のお祭りに戻る?」

「それも良かろう。食べていないものも多い。二人の王も、子を見せたいのではないか?」

「まあ、そうだね。ただの自慢ならいくらでも聞きに行くよ」


 惚気の類いは好物ですから。


 これから先は、それだけで済まないかもしれないけど。

 世捨て人としてあろうとして、その為に力を得、財力を得た。


 けどそのせいで、思わぬほどの影響力を持ってしまった。


 あー、面倒だなぁ。

 

 まあいいか。

 好き勝手しようと思えば出来る訳だし。


 だって私には、以外に責任を持つ対象がいないからね。


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