第100話 また魔族

100

 うん、駄目だ。

 殺そう。

 精一杯痛めつけてから。


「くっ、急に切れるじゃん!」

「魔力ヤバ!」

「狼狽えるな、こちらは五人いるんだ!」


 五人?

 それがどうした。



 折角だ。

 実験台にしてやる。


 言葉を補助に使った、相手の体を満たす魂力への直接介入。

 どうやら上手くいったみたい。


「ぐっ、身体が勝手、に……!」

「何で、私がこんな格好……!」

「た、立てねぇ……!」


 元エルフ、妖怪、鷲獣人は言葉の通り跪いた。

 プライドの高そうなやつらが纏めていったね。


 竜人と人間は耐えたか。

 じゃあ、こっちからで。


 まずは竜人の魔族。

 一足飛びで近づいて、顔面を掴む。


「ぐっ、離せ!」


 触手やら何やらで反撃しようとしてくるけど、その前に地面に叩きつけて、抵抗しようとした触手は尾で貫き無理矢理引きちぎる。


 手の下で悲鳴が上がるけど、知らない。


「なにすんの!」


 魔人の女が花のようになった下半身から蔓を伸ばしてきた。

 それを掴み、引き寄せながら振り回して、地面に何度も打ち付ける。


 どうにも顔をかばっているようだったから、手元まで引き寄せてから尾を首に巻きつけ、起点にして焼いてやる。

 魔族だけあって頑丈だけど、温度を上げれば問題ない。


「いやぁぁあ!?」


 煩いなぁ。

 耳がキンキンする。

 

 足蹴にしていた竜人の魔族の角を切り取り、魔人の喉に突き刺して抜く。

 よし、静かになった。


 声帯を破壊しただけだ。

 どうせこれくらいじゃ魔族は死なない。


 そろそろ他の三人の相手もしてやろう。

 こっちの二人は纏めてやりに突き刺しておいて、と。

 

 向こうの三人の持つ無数の手足を氷柱で縫い留めて、固定する。


「痛い痛い痛い痛い……!」

「イヤァ!」


 悲鳴を上げたのは、エルフと妖怪。


 煩いなぁ。

 龍は耳も良いんだ。

 あまり騒がないで欲しい。


 コイツラだって吸血鬼の伯爵から侯爵くらいの力はある。

 こんな程度で泣き叫ぶなんて、情けない。


「そういえば、貴女も顔を気にしてたね?」

「ヒッ……」


 妖怪の魔族の顔面を焼き、ついでに気道も焼いて叫べないようにする。

 エルフの喉もやっておくか。


 同じように焼くと、反抗的な目でこちらを睨んできた。


 ああ、そうだ、このエルフ。

 ウィンテさんを犯すみたいなこと言ってた。

 あの気持ち悪いぬめぬめした触手で縛るんだろうか。


「不快。心底不快」


 もう二度と生殖できないようにしてやろう。

 人型はギリギリ保ってるし、股を潰せばいいよね。


「――ッ!」


 元エルフが掠れて声にならない悲鳴を上げる。


 その間にこいつの身体を満たす魂力に干渉して、再生できないようにした。


 あとは、あの鷲獣人か。

 こいつには何が良いかな。

 お調子者っぽい雰囲気は感じるんだけど……。


 よし決めた。

 無言でひたすら尾で殴ろう。


「ガハッ、グフッ、ゴッ。な、ブフッ、んだ急、ニィッ、やめ、グフっ、やめて、アガッ、くれ……!」


 ん、魔竜人が動こうとしてる。

 鬱陶しい。


 槍を捻り、掻きまわす。


「グァアアアアアアッ!」

「アッ、ガッ……」


 あ、魔人も一緒に突き刺したんだった。

 あーあ、失神しちゃったよ。


 でもまあ、もういいかな。

 魔人は失神、と失禁。妖怪は自慢の顔をヤラレて意気消沈。エルフも好きな事が出来なくなって涙目。鷲獣人も心が折れたのか、虚ろな目で殴られ続けてる。

 竜人には大した事はしてないけど、こいつは変な事言ってないし。


「よし、そろそろ解放してあげよう」


 魔族たちの顔に希望が浮かんだ。

 解放ってそういう意味じゃないよ?


 まったく、どこぞの王のように婚姻して終わりなら、私もそんな怒らなかったのに。

 その後はウィンテさん次第だから。


 でもさ、ずっと楽しもうとしてた。

 ウィンテさんの自由を奪って、動けないようにして。


 許せるわけないよね。

 あー、なんかまた腹立ってきた。


 でも解放するっていっちゃったからね。

 こうしよう。


「何発でさよなら、かな?」


 再び青くなった魔族たちに向けて、少し弱めの雷を落とす。


 まず一発。


 流石にこれくらいじゃ、誰も死なないよね。


 二発。


 ふむ、意外と余裕がありそう。

 じゃあ少し強くして。

 

 三発。

 四発。

 五発。


 鷲獣人が瀕死か。

 じゃあ止めの――


「その辺りにしてくれないか」


 この声は……。


「遅かったじゃない」


 右手の方から聞こえた声に、顔も向けず返す。

 敵意は感じられない。


 近づいてくる気配はある。


 じゃあ、六発目。


「……邪魔しないで欲しいんだけど?」

「邪魔せねば彼が死んでしまうのでね」


 結界で防御された。

 酷く輝いた目で魔族たちがゼハマを見る。


 どうせ実験体が減ったら面倒だとか、その程度だろうに。


「で、何の用? さっさとコイツラ殺して、ウィンテさんの家族探しに行きたいんだけど」


 適当な奴から聞き出してからね。


「実験結果を見せてやろう」

「どうでもいい。ウィンテさんの家族はどこ?」


 ん、なんか来た。

 プライベートスレッドに、限定公開の配信のリンク。


 つまり、また私の言葉は無視か。

 

 差出人はどうせコイツじゃないから、気にしないでおく。


「今回の実験もなかなか有意義だった。新薬の効果も申し分ない。思考能力をそのままに大幅な強化を行えた」

「だから興味ないって」


 と言いつつ、話は聞く。

 情報は大事だ。


 配信も開く。

 映し出されたのは、今まさに私の気にしている戦場の様子。

 戦線は中野が幾らか押し込んでおり、北陸側の犠牲者もそれなりに増えているようだった。


 それに、魔族の姿も見える。


「魔族への変化条件も概ね把握した。変化後の能力の傾向も、ある程度は誘導できる」


 カメラの向きが変わる。

 これは、甲府側か。


 こちらもかなり押し込まれている。

 残存兵力でどうにか耐えている状態か。


 こちらにも魔人が多数。

 だけど、北陸側の戦場より攻撃的なやつが多い?


 ……条件が分からないから原因を絞り込むのは難しいね。

 保留。


「面白い結果だろう。色々と手をまわした甲斐があった」

「あっそ。じゃ、殺すよ」


 強めの雷を、六つ。

 ……ちっ。


「止めてくれと言っているだろう」


 殺せたのは一人だけか。

 ゼハマに妨害されて、鷲獣人以外は生き残ってしまった。


 問題は、妨害の仕方。


「やっぱり出来るんだ」

「当然だ」


 魂力の支配による魔法防御。

 なら、遠慮しない。


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