第95話 遠野と魔族
95
新潟を発ち、北陸の大地を通過して東北へ。
噂の魔族の町だか村だかを探して飛び回ってみたけど、見つけられないままに日は沈もうとしていた。
「うん、本気で見つからない」
「魔物どもの気配ばかりだな」
今の私なら、もうちょっと簡単に見つけられると思ったんだけどなぁ。
結界か何かで隠してあるんだとは思うけど、それらしい痕跡もない。
とは言え、オムカデアにそんな嘘を吐く理由はない。
あのカメレオンの魔人を思えば、私たち龍の目を誤魔化せる魔族がいてもおかしくは無いとも思う。
「せめて人間の町でもあればね」
噂くらいは聞けるかもしれないのに。
今の東北で人間が生きるのは難しいだろうなぁ。
ここまで見てきた感じ、複数パーティで百階層の守護者を突破出来たらかなり強い方みたい。
そう考えたら、中野の新兵が二パーティで五十階層クラス攻略はちょっと不自然かもしれない。
「ん? あれ、村だよね? それも人間の」
見つけたのは、山の中にある小さな農村。
昔ながらの木造づくりの家々が並んでいる。
「そのようだ。この辺りに住める人間がいるとは」
びっくり。
百階層以上の魔物がゴロゴロいる地域なのに。
「そういえば、五十年前の戦いの時にこの辺で強い気配を幾つか感じた記憶が」
あるような無いような。
「あれがそうか」
あったらしい。
強いって言っても、私からしたら誤差みたいなものだったから正直忘れてた。
上から見た感じ、住んでいるのは妖怪や人間系の種族で、魔族の町ではない。
化けているようにも見えないし、ちょっと下りて聞いてみようかな。
「夜墨、下りるよ」
「ああ」
少し離れたところに下りて、人化した上で村を目指す。
村全体に目隠しの魔法と、周囲一帯に迷いの魔法が掛けられていたけど、樹海のそれほど強力ではない。
まあ、百階層クラスの魔物相手なら十分かなってくらい。
一回だけ道間違えたけど。
こういう場所でまず逆方向に向かってしまうのは何故なのか?
「門番の類は無し、と」
「だが我々が来たことには気が付いているな」
そのようで。
全員がそれなりの実力者って感じだね。
二百階層クラスと戦えそうなのは、一人か。
気配は妖怪っぽいけど、もしそうなら始祖ではない。
隠神刑部が[始祖妖怪]の称号を持ってるらしいから。
妖狐みたいに神獣の要素が混ざってたら別枠判定なんだろうけど、その感じもない。
「始祖のボーナス無しに、自分の才と努力のみでここまで強くなったんだ」
「中々の器だ」
まあ、とりあえずお邪魔しようか。
「お邪魔しますっと、あら、手厚い歓迎で」
光の縄だったり羽根だったり氷だったり水だったり、個性豊かなことで。
なんか、ねちょねちょしてるのもある。
全部拘束目的の術だね。
全てまともに受けたら数秒くらいは捕まるかな?
面倒だからテキトーに干渉して消そう。
ばっちいのもあるし。
「なっ!?」
「貴様、何をした!」
なんか旧世代には珍しい言葉遣い。
若い人かな?
「何をしたって、攻撃されたから打ち消しただけ。別に敵意は無いよ。ただの通りすがり」
妖怪が多め。
カラス天狗みたいなのに、雪女、あっちは河童か。
あれは、夜雀? 鳥の姿をしてるバージョン。
人間や鬼、獣人もいるね。
こんな小さな村なのに。
「ちょっと探し物があるんだけど、長はあの家にいる人で間違いない?」
村の住人達は顔を見合わせ、それから猿のような妖怪に注目する。
「すまんが、俺にもこの女の心は読めねぇ。だが、悪いやつじゃなさそうだ」
心を読むとなると、
「……分かった。案内しよう」
そう言ってくれたのは河童の、たぶん少年。
彼の後をついて、村の奥へ向かう。
「何を探してるのかは知らねぇが、ジジイを怒らせねぇでくれよ。普段は温厚なんだが、怒ると加減を忘れる」
「はいはい」
私の返事に不安そうな河童君。
悪いね、何かあってもちゃんと止めるから安心しておくれ。
それより、違う事が気になるんだよ、私は。
「おーい、ジジイ! 客だ! 探し物だってよ!」
最奥のひと際大きな古民家に入ると、暗い室内で淡く緑色に光る大きな目が、一対見えた。
ふむ、大河童的な妖怪かな?
「なんじゃ。……ほう、これは随分とまぁ珍しい客が来なすった」
正体はバレたみたいだね。
人化しただけだし、彼くらいなら簡単に見破れるだろう。
「この遠野の地で、一体何をお探しで?」
大河童が下手に出るものだから、河童少年は訝し気に私を見てくる。
正体を明かす気は無いというか、また人化したり戻ったりが面倒なので無視するけど。
「この辺というか、東北のどこかに魔族の町があるって聞いたんだけど、知ってる?」
大河童は目を細め、じっと私を見ると、ゆっくり口を開いた。
「それを知って、どうするおつもりで?」
「別に、どうも。ただ興味本位で見てみたいだけ。魔族だからどうするって言うんだったら、この村の住人は既に減ってるよ」
少年、ぎょっとするのは良いけれど、リアクションが良すぎるね。
外と関わる事も考えるのなら、腹芸の一つでも覚えた方が良い。
「……ふむ。残念ながら、わし等もどこにあるかまでは知りませぬ」
「けど、あるにはあるんだ」
「はい」
つまり、単純に私が見つけられなかっただけって事だ。
面倒だね。
「ありがとう。十分だ。ところで、彼はどういう経緯で魔族になったのか聞いていい?」
「貴女には構わないでしょうよ。アレは元々、九州の方のヤクザもんでね、敵対勢力の粛清をしてたらなっちまったってんでさ」
「なるほどね」
そういう事情か。
昔、誰かが危惧していた事例だね。
「助かった。それじゃあ、私はもう行く」
「何よりで」
大河童の家を出て、小さくため息を吐く。
ふーむ、私が見つけられなかっただけかー。
これは腰を据えて探さないとダメかな?
とりあえず、北海道の方を見てしまおう。
まずは。獣人たちからだね。
戦争が始まる前にこの旅行を終わらせたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます