第91話 エルフの街へ

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 京都を発って数日、私たちは海岸線沿いに静岡県に入って、点在する集落を回った。

 

 彼らに関しては、現状問題なさそう。寧ろ上手く協力体制を築いていて、平和そのものだった。

 みな野心のある長でも無いようだったし、戦火とは縁が無さそうだったよ。そのうち一つの国になるかもね。王の座を押し付け合って。


 そんな訳で、とりあえずエルフの所に行きます。

 聞いた話、まだ人間との交流はしているみたい。ふらっと行っても怪しまれはしないだろう。


「ん、あれか。上手く隠してる」

「樹海の性質を利用した結界か。結界のみで言えば神の領域にかなり近しい所まで来ておるぞ」


 あ、やっぱり?

 何となくそんな気はしてたよ。


 まあ、私と遊ぶには能力が結界に偏りすぎてるかな。

 植物限定っぽいしね、彼女の魂力への干渉は。


「とりあえず下りようか。あそこ、道の横あたりで」

「ああ」


 姿を消して下りたのは、エルフ達が整備している道から徒歩で数分ほど外れた辺り。エルフの街までは、大体十分くらいかな。

 

 はエルフのように樹海の迷いの魔法の影響を逃れられるような種族以外でも通れるよう、結界で守られたモノだ。

 つまり、ここの結界を少し壊すだけで人間たちはエルフの街に辿り着けなくなる。


 森を切り開かないのは、用心しておくに越したことは無いって女王の考えだね。


 どれほど強くとも、迷いの魔法の影響を排除できなければこの森では決してエルフには勝てない。


「あの人、分かっててやってるのかな? 魂力への干渉」

「どうであろうな」


 木々に聞いて、って可能性もあるから何とも言えない。

 

 エルフの女王の張っている結界の原理としては、魔力化した魂力に干渉してそれが道の内側に入らないようにするっていうもの。

 それだけで迷いの魔法は道の内側で発動しなくなる。


 この前、長鳴鳥相手に私がしていたのとは違う理屈で、意図的に向けられた魔法にはあまり効果がない方法なんだけど、自然発生してる樹海の魔法になら十分だ。


 意図的に向けられた魔法を防ぐなら、魔法を具現化させる魔力に込められた情報の一部を別の魂力に吸いだして、情報を分離してやった方が良い。

 こんな感じで。


「ん、魔法の気配は消えたね。行こうか」

「ああ。だがロードよ、そちらは逆方向だ」


 ……あれ?


 気を取り直して、に出る。

 既に耳以外の人化は済ませたから、誰かに会っても問題ない。

 夜墨はマフラーに擬態中だ。


「しかし、木々の声を聞くってどんな感覚なんだろうね? あれも木々の魂力を認識してるんでしょ?」

「その筈だ」


 木々の魂力。

 一応私も認識できるけど、よく分からない。

 視覚的な変化なら分かるんだけど。


「私たち龍でも分かるようになるかな?」

「エルフという種族の概念自体に組み込まれた能力だ。難しいであろう」


 んー、そっか。

 私が龍になる以前に、龍も木々の声が聴けるって伝承をある程度普及してたら出来たんだろうけども。


 なんて話してる間に、エルフの街だ。

 周囲の木に干渉して変形させたものを城壁にしているみたいで、木の枝や蔓草が幾重にも重なって壁を作っている。

 魔法で干渉するから、成長しても問題ないだろう。


 生木だし、火にもそれなりに強いのかな。

 まあ、まずこの結界を超えるのが骨だろうけど。


「こんにちは。ご用件はなんですか?」


 結界をすり抜けると、大きな門の前でにこやかに声を掛けられた。

 あの結界には悪意感知の効果もあるみたいだったから、対応が柔らかいのはそのお陰だろう。


「観光です」

「なるほど。通行料として百spほどいただきますが、よろしいですか?」

「はい」


 百、初期なら大金だけど、今はそうでもない。

 稼ぐ手段が周知されて、価値はかなり下がった。


 当初苦労したのが考えられない程だよ。

 最近では特許料的なものも入るって分かったらしいね。


「宿はこの道をまっすぐ行った辺りに何軒かあります。女性ならそのどれかがお勧めです」

「ありがと」


 他がダメなのはどういう理由なのか。

 雑魚寝部屋、は現代日本の感覚だと無い気がするから、シャワーの有無とかそんな所かな?

 治安は良い筈だし。


 エルフなんて大体旧世代と思って良いだからね。

 新世代は、もしかしたら、まだいないんじゃないかな?


 門を潜り、教えて貰った通りの道を行く。

 治安云々でなければ従うのが吉だ。


「今の門兵さん、なんか見覚えがある気がする」

「五十年前の戦いで前線にいたのではないか?」


 かなぁ?

 当時の上位層くらいの実力はありそうだった。当然始祖たち最上位層には及ばない。


 それにしても、不思議な街だ。


「なんか、ずいぶん整然とした街だね? 樹海っぽいのに、樹海っぽくない」


 巨木が街の至る所で天を突き、それらを利用するようにして建物があるのに、妙に整理されている。

 ツリーハウスも含めて、なんというか、凄く計画的だ。


 街づくりのプロでもいたのかな?


「ん、宿ってあれか。どれがいい?」

「どれでも良いが、そうだな……。あの宿はどうだ」


 夜墨が尾で指した先にあったのは、幾重にも枝分かれした不思議なヒノキの大木だ。

 その樹上にはいくつもの小屋が建てられていて、木を囲むように連ねられた橋で繋げられていた。


「理由は?」

「ロードが好きそうな作りだ」

「うん、ああいうの好き。じゃあ決定で」


 ツリーハウスってさ、ちょっとワクワクするんだよね。

 あと小学生の頃とか、木の上で本読むのも好きだったんだ。


 一階で受付をして一部屋を借り、偽装用の荷物を置いたら再び街に繰り出す。

 上から見た感じ、奥の城を起点に扇状に広がっているようだったから、まずは城の方に行ってみようかな。


 女王の顔を見るかは、また考えよう。

 

 しかし、さっきからエルフにちらちら見られてるのはなんだろう?

 正体がバレてるって訳じゃなさそうだけども。


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