第87話 伊勢神宮へ
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少し歩いて、お伊勢さんへ。
「お疲れやす」
「お疲れ様です、当主様」
それなりに強そうだし、彼らを突破できるなら大迷宮に入っても死にはしないって判断かな、彼女の場合。
それにしても、川の流れる音って心地よいね。私たちの足が鳴らす木の音と合わさると猶更。
「この橋も迷宮の領域内なんだね」
「みたいですね。安心すればいいのか、いざという時に落とす選択肢がないと取ればいいのか」
「管理が楽なんはええことや。私の目ぇが黒いうちは溢れさせへんしな」
まあ、令奈さんなら問題ないと思う。
もし魔物が溢れても、遠慮なく攻撃できるのは大きいしね。
『この三人レベルになると迷宮の領域も分かるんだな…。え、それとも皆わかる?』
『安心しろ俺も分からん』
『かも、くらいなら?』
『私分かるよ! おもいっきし叩けば!』
『それしたら誰でも分かるわ』
「まあ、殴れば分かるのはそう」
「実際やったら怒られますからね? 私みたいに」
やったんだ……。
ワンストーンさん辺りかな、怒ったの。
公爵だけあってウィンテさんの忠臣なのはそうなんだけど、ちゃんと諫められるタイプの人だから。老執事のビジュアルでも似合いそう。
実際はすらっとしてて優し気なおじ様って感じで、ウィンテさんの事は娘みたいに思ってそうだけど。
ウィンテさんからしたら二人目のお父さんで腹心だってさ。
「一応手ぇ清めて行こか」
「そうだね。そっちの道だっけ?」
「あっとる」
砂利の敷かれた木陰の道は昔きた時のまま。
初夏に差し掛かった今の時期でも涼しくて、風が木の葉を揺らす音に癒される。
木々が成長しているように見えないのは、迷宮の領域に取り込まれたからだろう。
『伊勢神宮、昔家族と来た時のままだな』
『懐かしい。こっちはそのままか』
『いいなぁ、ここ』
『一回くらい行ってみたいって思ってたからちょっと嬉しい』
『大迷宮さえ無ければなぁ』
『そいえば 神社って砂利の事多いけど 意味あるのかな?』
三人とも初期から配信をしてるからか、リスナーも旧時代から生きてる人が多いね。今じゃ私たちみたいな旧時代生まれを旧世代って言うみたい。
で、砂利の理由か。
「砂利が敷かれてる理由は、いくつか聞いたことあるね。雨の後、泥が建物や参拝客の足に跳ねないようにだとか、儀式をしやすいよう水たまりが出来るのを防いでるとか」
「へぇ、結構実用的なんですね」
「スピリチュアルなのもあるよ。不浄のモノ、まあ幽霊だとかそういった悪いものは足音がしないから、人間に紛れて入ってくる奴らを見分けるためってやつ」
出雲大社の場合は松の上から見張ってるんだったっけ。伊勢神宮はどうだろ?
「スピリチュアルなのはあれやろ、そう言うといた方が聞いてくれるからやろ……って思っとったんやけどなぁ」
令奈さんに倣って、視線を少し上に上げる。
うん、いるね。ばっちり見てる。
『三人には何が見えてるんだ。。。?』
『話の流れ的に人間と悪い幽霊とかを見分ける見張り役みたいなんがいるんじゃね?知らんけど』
『なるへそ』
『なんかぼんやり見える気がする。神話に出てくるおじさんみたいなの』
この人は、確か魂力が見えるって言ってた人か。だったら見えるだろうね。
川で手と口を清めた後は、たわいも無かったり、ちょっとした豆知識だったりする話をしながら奥へ向かう。
やがて見えてきたのは、覚えのある階段と白木の鳥居。その鳥居をくぐると、内宮だ。
「やっと迷宮か」
「長かったですね」
私とウィンテさんがそんな風に話していると、令奈さんが不思議そうな顔でこちらを見てきた。
私とウィンテさんを、というよりは私をだね。
「出雲大社の方もこれくらいあるやろ」
ああ、そういう事。
「空飛んで直接侵入したから」
「なるほどなぁ」
あっちはほぼ一直線だけど、代わりに高さがあるからね。飛んだ方が早いのは一緒なんだよ。
「ほな行こか」
令奈さんを先頭に付いて行く。旧時代では入れないよう柵が置いてあった所を抜けて、さらに奥へ。
一階層への入り口は、内宮の中にあるらしかった。
けれど令奈さんはそちらに向かわず、脇の建物に入っていく。
「私たちも行けるんだ」
「みたいやね」
「ハロさんは一人で出来る検証しかしてませんからね。その分、頭おかしい事も多いですけど」
ウィンテさんのこれは、褒めてるでいいんだよね? いいはず。いいという事にしておこう。
『うん、この三人、なんで会話が成立してるんだ?』
『いや あとの返答を合わせたらどういう会話か まあ分かる』
『間が飛びまくってるんだよな』
『これが頭良い人達どうしの会話か、、、』
おっといけない。つい普段の感じで喋っちゃった。
今は配信中だから、サボらず喋らないと。
面倒だなぁ。
「
「そうみたいやな。気持ちは分かるわぁ」
ん、令奈さんにまでバレてら。ウィンテさんは今更なので良し。
表情はあまり動かしてないのに不思議。
別に今更投げ出したりはしないけど、気遣いには甘えよう。
早足気味にがらんどうの部屋の中央まで行き、魔法陣に乗る。
「今行ける最高階層に行くで。ワンストーンはんにはもう言うてある」
「ん、了解」
「さー頑張りますよ!」
うん、気合入れてるウィンテさんが可愛い。
ていうか二人とも、武器らしい武器は持ってないな?
まあ、忘れたなんてことは無いか。
……無い、よね?
ちょっと不安になってウィンテさんを見る。
……最悪、魔法があるか。吸血鬼の場合身体能力より特殊能力の方がメインだし。
ここが大迷宮でなければ、徒手空拳でも十分だったんだけどね。
なんて考えている間に景色は切り替わり、出雲大迷宮と同じような板張りの一室になった。後ろを見れば、観音開きの木扉がある。
あの先の守護者の間も出雲のと同じように神社の中みたいになってるんだろう。
『やっぱ伊勢神宮の方も出雲大社と同じ感じなんだな』
『よくよく見たら細かい様式が違うぞ』
『ところでここは何階だ?』
『最高階層って事は二百は超えてるよな。こっちは綺麗なままなんだ』
『最高階層、確か二百二十階層でしたね』
ふむ、二百二十。
じゃあ今日は二百三十まで行く感じか。
守護者まで頑張るって話にさっきしたんだけど、どれくらいかかるかな?
場合によっては数泊することになりそう。
「ところで二百二十階層の守護者って何だったの?」
「大昔の天皇家の姫と従者やった。誰かまでは知らへんけど、伊勢神宮と関わりある誰かやろなぁ」
伊勢神宮に関わりある姫……。場所を選んだ人とかかな?
伊勢神宮の方はあまり詳しくないんだよね。
『ヤマトヒメの命とかその辺か?』
『伊勢神宮の場所決めた人な』
『伊勢神宮には歴代天皇の娘がアマテラスに使える神職として送られてるからな。候補が多すぎる』
『皆詳しすぎない?旧世代って皆こうなの?』
「へぇ、そうなんだ。まあ、出雲大社の方でも似たような事あるしなぁ。今でもそう」
「皆が皆詳しいわけじゃないですよー。オタクやマニアなんて何時の時代にもいるものです」
「そうやなぁ」
令奈さんがウィンテさんを見ながら言うので、私も頷いておく。
当の本人は、何故か誇らしげだ。
まったく、研究される身にもなって欲しいよ。
木の階段を下りきると、広がっていたのは、古木の森。一応道はあるみたいだけど、けっこう複雑に分岐している。
つまり、私の一番ダメなフィールド。
「よし、二人とも、前は任せた!」
『ウィンテさん晴明さん、うちの主をよろしくお願いします』
『ちゃんと手を引いてやってください』
『今だけウィンテさんが保護者で』
『油断するとすぐ来た道戻ろうとするのでちゃんと見張りお願いします』
『あ、ハロさんって方向音痴か。納得』
リスナー諸君、ありがとう。でも後で覚えておいて。
「任されました!」
「そういえばあんた、近江の森でも散々リスナーに怒られとったなぁ。ぶぶ漬けでもだしたろか?」
む、ウィンテさんがやる気十分なのは良いとして、令奈さんまで揶揄う口調。
「私だけ帰るのは嫌だから見張りお願いお母さん」
「誰がおかんや」
うむ、ナイスツッコミ。
まあお
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