第88話 三人で攻略!
88
白衣と共に血色の大鎌が閃き、白扇が
血鎌が振るわれる度に覆面の人型魔物達の首が飛んで、扇の巻き起こす
うん、強いね。流石だ。
鶏だったり狼だったり、神使とされる獣や天の兵と思われるもの達が定期的に襲って来るけど、全く不安がない。
私がいなくても十分なくらいだ。
まあ、私も一応働いてはいる。
主に空からの奇襲を狙ってる奴らの相手ね。
これも無くても問題ないだろうけど、暇だし。
二人の武器は、それぞれ鎌と扇子。
ウィンテさんの鎌はその色の通り自らの血で作ったもので、ムチにもなるらしい。
視聴者アンケートの結果だってさ。
令奈さんの扇子は、普通のものより少し大きめで、著しく頑丈なもの。
元々扇子を使った護身術を身につけていたらしく、その延長で攻撃的な使い方を覚えたんだって。
「いきますよー!」
ん、ウィンテさんが魔法を使うね。
吸血鬼の独自魔法になるのかな。血を媒介にした魔法だ。
血そのものが物質的な性質を持つ上、本来術式が担う役割も血が果たすから、費用対効果としては私の魔法の数段上。消費する魔力の全てを魔法の現象そのものに回せるんだ。
吸血鬼の場合、魂力と血が殆どイコールだから出来る荒技だね。
つまり消費魔力イコール威力なわけなんだけど……、なんか多くない?
使う魔力、多くない?
「逃げるで!」
「もう逃げてる!」
脱兎の如く私たちが走り出してすぐ、
槍の一つ一つに込められた魔力は、私基準で言えばそこそこだが、威力はよく使う雷撃に準じる。
それが、残った魔物全てを襲う。
敵からすればこんな気軽に殲滅魔法みたいなモノを撃たれちゃ堪らない。防御も虚しく肉塊に変わっていく。
ゲームなら全体攻撃並みな範囲だ。
いやー、心強い。その範囲に私たちも含まれてなければ、だけど。
「ウィンテさんってさ、別に魔力操作苦手じゃないよね?」
「そうやな。むしろ得意な部類や」
要するに、ただのドジ。
ただのドジで、私の鱗を易々と貫き得る魔法に巻き込まれるのかぁ。
吸血鬼たちは苦労してそうだなぁ……。
『うちの女王がすみません…』
『現実でフレンドリーファイアは笑えないのよ』
『判断が早い保護者二人』
『魔物は死屍累々』
『ハロさんが逃げる辺りちゃんと強力なんだやなぁ、、、』
『ドジの次元が違う』
コメント欄いいぞ、もっと言って。
「ふぅ、殲滅完了です!」
「ふぅ、やない」
「無差別攻撃良くない」
あれ? じゃないのよ。
まあ、可愛いので許す。
「ドロップだけ回収したら先に進もうか」
けっこうな数が襲ってきたから、落とし物も相応に。
どうやらこの迷宮は量で押してくるタイプらしい。
それでいて質も十分あるんだから、さすがは大迷宮と言ったところだね。
「これで全部やな」
「うん。けど、そろそろ持ちきれないね」
必ずドロップする訳ではないとは言え、もう三階層進んでる。
入れ替えを検討?
「あれ、二人には教えてませんでしたっけ?」
ウィンテさんがキョトンと首を傾げる。
「教えてぷりーず」
「教えてませんでしたか。分かりました、教えましょう」
ふむ、モノを血に量子化して押し込めるイメージ……。
『うん、何言ってるんだ?』
『誰かわかった?』
『いや、分からん』
『量子がそもそも分からん』
『量子はあれだ、ざっくり言えば、波と粒の性質を持つめっちゃ小さな粒とかエネルギーの単位だ』
『うん、分からん』
量子、物理量の最小単位。
なるほど、私が情報と捉えている素子の事かな。
吸血鬼の血は魂力と殆どイコールって捉えて良いから、私の支配する魂力に持ち運びたいモノを構成する要素を情報として込めれば良いわけね。
「こうか」
「これは今の私には無理やなぁ」
『なんで今の理解できるんだこの人たち』
『この人たちだから』
『今更だな うん』
『同じ始祖でも、明らかに差を感じます。」
『ハロさん的に一番強い始祖って誰なんだろ?』
まあ、この二人は始祖達の中でも最上位に入るのは確かだね。
純粋な能力値は兎も角、総合的な部分で。
「私的に一番強い始祖ねー。まあ、鬼秀かな。鬼の始祖」
次いで、ウィンテさん。
今の所、私と本気で遊べるのはこの二人だけ。
「彼とはそのうち、全力で遊びたいよ」
人魚の小娘は論外。
ミズチも強いけど、まだ足りない。
獣人の王と巨人の王は、膂力は兎も角、魂力に関する能力が足りない。
『ハロさんが全力、、、』
『鬼の始祖ってあれだろ? 福岡のヤクザ王』
『あの人、そんな強いのか・・・』
『確かにあの男ほどの傑物、ハロ様以外に知りませんな』
これから先は分からないけどね。
ていうか赤竜、さっきからしれっと居るけど、仕事は良いんだろうか?
「むぅ……。鬼秀さんですか……」
なんかウィンテさんが対抗心燃やしてる?
可愛いから放っておこう。
「さ、それじゃあ行こうか」
「あんた、もう帰るんか?」
あ、はい、こっちは来た道ね。
『要介護者二名、、、』
煩いよコメント欄。
そんなこんなで八十五階層に続く階段。
ここまで大体、三、四時間かな。
うん、私だけの時より断然早いね。
殲滅速度もだけど、それ以上に変な道に行かないのが大きい。
コツコツと木の段を鳴らしながら、ついでにウィンテさんが落ちないよう注意しながら、降りた先は八十五階層。
私たちの眼前で轟々と音を立てていたのは、荒ぶる大河だった。
「これは、伊勢神宮前の川?」
「そうやろなぁ。五十鈴川や」
「その割には流れが早いですけどね」
確かに、私の記憶にあるものよりも幾分早い。
舟で渡るには、魔物を考慮しないにしても大変だ。
『岸を行くことは出来そうですね』
『これ、左右の森はどうなん? 三人なら崖登れるでしょ』
『魚とかいるのかな?』
『泡で水中が見えないの怖いな』
上の森、ねぇ。
「森も行けるでしょうけど、今までのパターンからして階段はないでしょうね」
「やろな。魔物や素材目当てなら良いんやろけど」
まあ、同感。
ここは素直に川沿いを行くべきだろうね。
そうすると、だ。
「二人って空、どれくらい飛べたっけ?」
「私はそれなりに」
「私は飛ぶだけならって感じやなぁ。消耗も自分らより多いし、後々使い物にならんようなってもええならやけど」
なるほど。
じゃあ、ウィンテさんに合わせるとして、令奈さんをどうにかすれば良いわけだ。
にやり。
「な、なんや、その目は。なんで手をワキワキさせとるんや」
「えー? こうするつもりだからだよ?」
ほっ。
令奈さん確保!
「あっ! 羨ましい!」
「な、何するんや!」
「何って、お姫様抱っこ」
うん、軽いね。
九本の尻尾でちょっと抱えづらいけど、誤差誤差。
目の前に照れてる美少女の顔があって眼福です。
『ハロさん視点では顔を赤らめた狐っ子美少女?美女?』
『晴明さん視点では珍しく微笑むハロ様のご尊顔』
『なんだ、ここは天国か』
リスナー達息ピッタリか。
君ら、今日初邂逅じゃなかった?
『てか微笑むハロさんがレア過ぎて最高』
『晴明様のただただ可愛い姿もレア』
『つまり神』
「ハロさん、めんどくさがって表情筋あまり動かしませんからねー」
「まあ、そうだけど。……え、それ言ったことあったっけ?」
「ええから早よう下ろし!」
一度も言った覚えないんだけど、なんでバレてるの?
え?
……考えない方が平和かな。
とりあえず、令奈さんを下ろそう。本気で嫌がってるみたいだし。
「ふぅ……。ふざけとらんで、早よ行くで」
「まあまあ。ちょっと待って。良いこと思いついた」
キョトンとする二人を放置して、着流しを脱ぎ始める。
「ちょ、待ち! 一旦カメラオフにするで!」
『あっ! くそ!』
『サービスカットぉ……』
『晴明さん余計なことを!』
『ナイス晴明さん。変態どもはブロックされてどうぞ』
『知ってるか?今騒いでたこいつら、みんな中身女なんだぜ……?』
ああ、忘れてた。
引きこもり過ぎて、偶に忘れるんだよね、その辺の感覚。
私もカメラオフっと。
三つの画面が消えたのを確認して、着物を全て脱ぐ。
「ごめんけど、これ持っててくれない?」
「はーい!」
……なんかウィンテさんの鼻息が荒い。令奈さんに渡そう。
ガーンって後ろに書いてありそうな表情してるけど、知らない。
「じゃあ、いくよ」
やる事は、普段人化する時の応用。
魔法を発動すると、私の身体はどんどん姿を変えて、長く、大きくなっていく。
数秒後、友人達の瞳に映る私は誰もが思い描く龍の姿をとっていた。
「ほぅ、綺麗やんなぁ」
「白龍……。すっごく綺麗です!」
鱗の色も、眼の色も変わらない。
ただ蛇のような体になっただけ。
「よし、もうカメラを付けていいよ」
『おっ、ついた』
『おおっ!?』
『ドラゴンモード!』
『めっちゃ綺麗』
『なんか鱗きらきらしてる』
人になれるなら、龍らしい龍の姿になる事も出来るんじゃないかって昔試したんだ。
「まあ、本来の姿はいつものだし、戦闘力としてもいつもの方が高いけどね」
私はあくまで、人龍だから。
「それじゃ、二人とも乗って。ここは一気に行くよ」
「はーい!」
「便利なもんやなぁ」
二人が頭部に乗って、淡く輝く白磁の角をしっかり掴んだのを確認してから飛翔する。
一応結界は張ってあるけど、それ以外は遠慮なしの全力飛行だ。
まぁ夜墨には及ばないけど、それでもそこらの飛行機よりは早い。
次の階層に辿り着くまで、結局一時間も必要としなかった。
そして、二百三十階層。
どうにか今日中で間に合ったね。
「さぁ、今回の配信のフィナーレ、守護者戦だ」
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