第86話 初コラボで食べ歩き

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 スタート地点は話し合った結果、おかげ横丁の神社の反対側の入り口からという事になった。話し合いと言っても二言三言交わしただけだけども。


「じゃあ配信開始です!」


 ほいほい。こちらも開始。カメラは正面から。

 あ、挨拶の順番決めてないや。

 ん、私から? 了解了解。


「ハロハロー。八雲ハロだよ」

「こんにちはー。ダーウィンティーです! 皆さんお茶の準備はよろしいですか?」

「よう来はったなぁ。晴明せいめいや」


『ハロハ、ロ!?』

『ハロハロ。既に神回確定演出』

『こんにちはー。ハロさんが、コラボ?』

『ハロー。ついに口説き落とされたか』

『こんこん。どうせ生返事で言質盗られたとかそんな所だろ』


 勘の良いリスナーは嫌いだよ。

 その通り過ぎて反論できないので見なかったことにします。クレームは受け付けてません。


 それはそれとして、令奈さんってうっかり呼ばないようにしないと。

 見た目玉藻の前だけどステータスネームは晴明なのが令奈さんです。


「そうなんですよ! 苦節五十年、ついにハロさんを口説き落としました!」

「殆ど自爆やったなぁ。料理と考え事に集中してはるから。ウィンテの目ぇ、キラーン光っとったわ」


『やっぱそうか』

『狙ってやったのは間違いないな』

『まあ、ウィンテさんはハロさんガチ勢だからなぁ』

『その内ハロちゃんに関する論文書きそうだよね』

『正直ちょっと引くレベルだけど、面白いからおk』


 あ、こら、余計な事言うと。


「あ、それ良いですね! 論文書きます!」

「あー、やっぱり……。私の論文なんて誰が見るのさ」


『その内考古学者とか歴史学者が参考文献にするんじゃね?』

『ちょっと気になる』

『ウィンテさん待ってます』


 何言ってるんだろうこのリスナーたち?

 ていうか、このままだとドンドン私によろしくない方向に進む気がするな?


「はいはい。良いから始めるよ。今日来てるのは、ここ。分かるかな?」


『なんか見覚えある』

『旧時代の商店街の縁日みたいだな』

『おかげ横丁か。なつかし』

『へー、昔の縁日ってこんな感じだったのね』

『ていうかマジで変わって泣くね? 店の人も通行人も妖怪バッカてとこ以外』


 そうなんだよね。変わってない。

 妖怪が多いせいで水木しげるロード的な雰囲気は出てるけど、それ以外は昔来たおかげ横丁のままだ。


「そうやね。伝統大事にしはる人らがぎょうさんおるさかい、極力変えへんようにしたんや」

「そうですねー。妖怪なんて皆長生きですし、昔の感じは残したいんでしょうねー」

「そうやんなぁ。ん? 大阪もかって、そないな訳あらへん。あそこは短命種ばっかりなのに、あのまんまやねん」


 そうなのか。さすが大阪というか何というか。


 しかし、適当に相槌を打っておくだけでも許されるのはちょっと楽ね。

 二人のコメント欄が見づらいのはあるけど。

 これ、合体出来ないのかな?


 ん、お? 出来た。


「うん? ハロさんどうかしました? 出発しないんです?」

「ああ、ごめんごめん。三人分のコメント欄合体出来ないかなって試してた。一応出来たんだけど、リスナー側からは変化なし?」


『あーあー、我ハロリスなり』

『こちらウィンテリス。応答せよ』

『悪霊退散、悪霊退散!』

『晴明リスの老人そこ歌わない!』

『見えてますね』

『合体できてる』

『見えますよ。他の人の配信でやってました。色分けも出来た筈』


 ふむ、色分け。

 こうか。


 私のとこが白で、ウィンテさんとこが黒、令奈さんのは黄色かな。

 まあ髪の色。


「よしおっけ」

「私も出来ました」

「私もええよ」


 よし、じゃあ行こう。

 カメラは、ウィンテさんが正面からの絵で令奈さんが横からか。じゃあ私は後ろからで。


「カメラ三つで行くから、音量は各自調整をお願いね」

「それじゃあ出発です! 目指すは伊勢大迷宮!」

「初めは横丁ぶらっとして、後半は迷宮攻略や」


『ほーい』

『おかげ横丁って言ったら食べ歩きだな』

『三人での迷宮攻略か。熱いな』

『保護者が二人もいるから、今回はどれだけドジしても安心だな』

『伊勢の迷宮って晴明さんが行ってた所だったっけ』


 保護者って。

 

 最後のこの人は、聖戦でどっかの指揮を執ってた人だね。

 スレッドで情報交換してるのを見た覚えがある。


「そうやな、私とワンストーンはんで攻略しとった所や」

「あの時は助かったよ」

「そうせんとヤバかったからなぁ。アンタら龍も別の大迷宮にかかりきりやったやろ?」


 本当に。

 協力依頼して良かったって今でも思うよ。


「まあね。それより、何食べようか?」


 さっきお昼を食べたばかりだけど、種族柄なのか私たち三人とも沢山食べられちゃう。運動量的にも太る心配は要らないし。


「私、お団子食べたいです! あと横丁そば!」

「またガッツリやんなぁ。ウィンテ、あんた普段そんな運動してはるん?」

「実験で動いてるの知っとるでしょ」


 あ、ちょっと方言出てる。可愛い。

 そういえば、ウィンテさんが令奈さん以外にため口聞いてるの、見たことないな。


 従妹同士で仲良くて眼福だよ。

 私とよりこの二人の百合スレッド作った方がいいんじゃない?


「団子やったら、あの店行くで」

「あの店って、あそこ? まだあるの?」

「他もだいたい残っとる」


 ふむ。

 ウィンテさんと令奈さんはよく来てたっぽい。

 私はせいぜい二、三回だし、案内してもらおう。


『二人って昔からの知り合い?』

『いいですね、この雰囲気』

『二人は従妹同士だぞ。前そんなこと言ってた』

『ふむ、百合スレッドを増やすべきか』

『いいなーお団子』


 普段以上に多い話題に適当に返しつつ、古き良き日本の町をぶらぶら歩く。

 小物屋さんを冷やかしたり、おはぎみたいなのを買ってみたり、結構楽しい。


「あ、ここですここ! 懐かしい」

「おっちゃん、入るで」


 案内されたのは、普通の古民家の前に売り場用意しただけって感じのお店。

 奥の方でお団子を焼いているのが見えるね。

 

 店主は、一見すればただの人間のおじさん。気配は妖怪っぽいけど、何の妖怪だろ?


「おう、久しぶりやな二人とも。待っとったで」

「なんや、配信見てはったんか」

「当たり前や!」


 あ、令奈さんの尻尾がちょっと揺れてる。嬉しかったんだ。

 まあ、昔馴染みが見ててくれたってのが嬉しいのは少しわかる。


「じゃあカメラはええな。みたらし三つ」

「任しとき」


 ふむ、注文が入ってから焼きなおすんだね。焼けたやつが並んでたから、それをそのまま渡されるのかと思った。

 香ばしい匂いがこっちまで漂ってきて、涎が出て来るよ。


「ねえおじさん。何の妖怪か聞いてもいい?」

「ええに。青坊主や」


 ほー、青坊主。

 なんか色々伝承がある僧侶の妖怪だったね。


 このおじさん、髪はちゃんとあるけど確かに青の作務衣を着てる。ガタイ良いし、また漫画の影響受けてそうだなぁ。

 

 あ、でも大坊主って話もあったか。

 他は子どもを攫うとか大暴れする池の主を沈めるための松を守ってるとか、女性の前に現れて首をつらないかって聞いてくるとか、本当に色々。

 どれの影響が一番強いのやら。


「しかし、よう妖怪分かったなぁ。流石や」

「そりゃあね」


 魂力を見ても気配的にも、人間ぽく無いのはすぐに分かる。


「ほれ、出来たに」

「おおきに。ほれ、熱いうちに食べや」


『うわ、超美味そう』

『お腹減るなぁ』

『さっきお昼食べたばかりなのにこれは辛い』

『私もみたらし食べてる!』

『いいなぁ』


 お礼を言って団子を受け取る。とろっとした蜜がたっぷりかかっていて、とても美味しそうだ。焦げ目もいい感じ。

 いただきまーす。


「んん! 良いね。おいひい」

「ですよねってアツ!?」


 あらま。

 串を行き過ぎて直接団子触っちゃってら。

 

「まーたしはったんか。よう見んと取ろうとするからやで」

「だってハロさんの団子を頬張る所が見たくて……」


 うん、理由が酷い。

 ていうかまたって、まさか毎回してるのかな……。


『マジでハロさんらぶで草』

『なんでこの人、こんなにハロさんを愛してるんだろうな、、、』

『安定のPON』

『保護者がいてもドジは変わらない件』

『手がべたべたって魔法で洗ってる。便利。私も練習しないとなぁ』


 ウィンテさんは残念だけど、お団子は超美味しい。

 二人が昔から通ってるだけはあるね。


 それにこのお団子、迷宮産のお米で作ってるね?

 その分値段は張ってるけど、買って損はないやつ。


 大満足のお団子に続き、横丁そばってラーメンも近所のお店で堪能して、のんびり迷宮に向かう。

 そんなに長いわけじゃないからすぐに伊勢神宮に到着しちゃった。思った以上に楽しかったな。

 良い思い出が出来たよ。


 さて、次は迷宮攻略だ。

 面白い事が何かあると良いなぁ。


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