第74話 だからなんでバレるのだろうか
74
色々と聞かせて貰った夕餉の席の翌日は、竜人たちの住む町と屋久島を案内してもらって過ごした。
あの旅館擬きは裏にあったビルと併せて役場として機能しているんだって。
竜人の町は昨日空から見た印象とあまり変わらない。
有翼人種になった分、二階以降にも建物の出入り口が有ったり上方向からの目隠しを考えていたりと差異はあったけど、それくらいかな。
屋久島の方は現地を統べる妖精の長に繋いでもらった。
住居らしい住居は殆ど無くて、木の洞や洞窟で寝泊まりしている様子だったよ。
屋久島って場所柄もあって、神秘性が強いコミュニティだったね。
この日はまた、赤竜の所に泊めて貰って、出発したのが翌朝。
途中途中の村に立ち寄りながら一日かけて北上し、今は福岡のあった辺りまで来ている。
「なんか、物々しいね。けど、生き生きしてる」
「そのようだ。どうする、上から見るだけにするか?」
ん-、めんどくさい事になりそうな気配はあるし、それでもいいんだよね。
街並みとしては、竜人たちの町と大差ない。
二階以降に入口のある建物がほぼ無いのと、あとはせいぜい、日本家屋が目立つようになっているくらいだ。
なんだか壊された跡が多いのは、抗争の影響かな?
「少しだけ降りようか」
せっかく来たんだし。
巻き込まれても、最悪全部吹っ飛ばしてトンズラすれば良い。
街の外れ辺りに降りて、伸びをする。
今日の恰好は黒のパンツに、濡れ羽色寄りのキャミとベージュのガウン。ガウンはちょっと透ける感じの生地で、全部旧時代のものだ。
人化して黒髪黒目になっても、切れ長の目とか比較的表情筋に乏しいのとかはそのまま。
美人って印象は変わらない。
可愛い系よりは綺麗目の方が合うかなって。
幸いスタイルが日本人離れしているので、カバーするための服を選ばないで済む。
まあ、ワイドパンツとかも履くけどさ。
胸がいくらかあるので、膨らむ色ばかり選べないのはあるかな。
と、そんな事は良い。
それよりも今は観光です。
「とりあえず、お昼食べる?」
「まだ少し早いが、そうだな。それが良かろう」
こうして街の中を歩いていると、上から見るよりは壊されていないように見える。
人々も悲観した様子はなく、むしろ目をぎらつかせているようにすら見えた。
鬼以外にも人間や獣人なんかもそれなりに見る。
竜人の町よりも割合に偏りが無いからか、見慣れた現代日本の街中がファンタジーしてる感じが強いね。
適当にぶらぶらしてるだけでも案外楽しい。
ちょいちょい屋台も見かける。
あれだ、祭りの雰囲気。
聞いてみた感じ、これが日常らしいけど。
「おじさん、明太たこ焼き一つ」
「あいよ!」
折角なので近くの屋台で買ってみた。
何かの葉を船にした器に見慣れたたこ焼きが乗せられていく。
「ほい。お姉さん、旅の人だろ。二つオマケしといたぜ!」
「ありがと」
ラッキー。
コメントで知った話だけど沖縄とは違って、旅の人もそれなりに来るらしい。
目的は家族を探してだったり、自分と同じ種族の集落を目指してだったり、様々だ。
「ん、美味しい。やっぱこの辺は明太子だね」
「だろ? そいつは迷宮産だからちっとばかし値段が張るが、旧時代の最高級品にも劣らないぜ……って親父が言ってた」
親父がね。
まあ、このおじさん、人間だからそうだよね。
旧時代にはまだ生まれてすらない。
種族変更に必要なspは世代を経るごとに急増するらしいし、各種族の人口としては今の数字で安定するんじゃないかな。
ボロが出ても良いように耳だけ尖らせたままにしておこっと。
「そういえば、最近きな臭いって話だけど、実際どうなの?」
「あー、それなぁ。たく、
ふむ?
なんか赤竜たちに聞いた話と微妙に違う?
「テメェらがなんかしたわけじゃねぇのにデカい顔してやがったから、不満に思って出てった奴らがいるんだよ。そいつらの町のトップは元々鬼秀さんたちと敵対してた組の組長だとかで、因縁つけてドンパチやってる」
あー、なるほど。
背景情報に抜けがあっただけで概ね聞いた通りか。
いや、どうでもいいな。
鬼秀がちゃんと下っ端の教育してないから、隙を作る。
元々虎視眈々と反逆の機会を狙ってはいたんだろうね。
あー、でも待てよ?
「鬼秀……さんのとこの幹部も何人かついて行った感じ?」
「おう、よく分かったな。例の組長も元々は幹部の一人だ」
幹部の中では下っ端だったがな、とおじさんは続ける。
なるほどね。
敢えて野放しにして、罰するところを民衆に見せずに不満を持たせたとか、そんなところか。
あの時代は使えるものは使わなきゃならなかったから、身中の虫も放置してたんだろうけど、放置しすぎたね。
寿命が延びて時間感覚バグってんじゃない?
まあ、本当の所は知らないけど。
「おじさんありがと。たこ焼き、もう三つ追加でお願い」
「まいど!」
良い笑顔のおじさんから船を受け取って、別れを告げる。
鬼秀も大変だね。
私には関係ないから、頑張ってとしか言えないけど。
そろそろ配信もしたいし、構ってる時間は無いのですよ。
なんて、思ってたんだけどなぁ。
「よう、久しぶりじゃねぇか」
「……そうね」
五本角の鬼は、いつかも案内された座敷の上座で胡坐をかいている。
自分の視線がジトっとなっている自覚はあるが、白目と黒目の反転した彼の目は愉快気な色を宿すばかりだ。
長居する気は無いので、私は立ったまま。
なんでコイツにもバレてるのか。
いや、鬼秀に見破られたなら分かる。
けど、私を見つけて屋敷まで引っ張ってきたのは部下の方だ。
覚えのある気配なので、スタンピードの事を告げて回った時の場に居たんだろう。
三本角の神通力持ちの鬼だ。
「赤竜から来るって聞いてたからな、探させてたんだよ」
あの赤蜥蜴か……。
「仲良いの?」
「おう。ハロリス仲間だ」
「……そう」
私のリスナー同士で仲良くなってる……。
裏家業の人間とか嫌いそうな雰囲気なのに、あの蜥蜴。
「で、何の用?」
「用って程の事はないな。とりあえず飯でも食ってけ」
部下に探し回らせて、呼びつけておいて用がないと来たか。
「帰る」
いつかの冗談の本気度合が増してる気がするんだよ、この鬼。
次求婚したら本気でしばく。
「酒も料理もたっぷり用意してある。全部近くの百階層クラスの迷宮から出た品だ」
半周程予定より多く回り、彼の正面に用意されていた座布団に正座する。
「続けて」
無理に引き止められて暴れちゃったら、屋敷を綺麗に補修した人が泣いちゃうかもしれないし、仕方なくです。
無理に引き止められる状況にしないのが一番ですからね。
ええ、それだけです。
……鬼秀が愉快気な笑みを浮かべているのが癪だが、気にしない。
鬼秀に目配せされた一本角の女性が出ていった。
夜墨は、部屋の隅でくつろいでいる。
コイツラに私を害する気が無いからだろう。
女性の気配はまだ遠ざかっていくから、もう少し時間がかかりそうだ。
この間に鬼秀が何か話しかけて来るかと思ったが、楽し気な雰囲気を見せるばかりで無言のまま。
「……本当に何も用は無いの?」
「ああ。抗争の事を気にしているようだが、俺たちの問題だ」
「あ、そう」
用が無いなら無いで別にいいんだけど。
「ああ、いや。一つあるな」
あるのか。
「後で俺と手合わせをしてほしい。もちろん迷宮の方でな」
ふーん、手合わせね。
「いいよ」
「ふ、感謝する」
鬼秀とはいずれ戦いたいと思ってたし、丁度良い機会だろう。
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