第54話 進捗どうですか?

54

 七十階層、白木で作られた、守護者の間。

 頭だけで私の数倍ある巨大な白蛇に、怒りを込めた槍を振るう。


「ふっ!」


 龍蛇りゆうだには至っているようだが、そんな事は関係ない。

 水平に構えた槍の刃が、すれ違う守護者の体を上下に割く。


 長い胴体の半ば程までを真っ二つにしたにも拘らず、龍蛇は平然と動いて、私に食らいつこうとしてきた。


 ならばといかづちを落としてやれば、流石の龍蛇も全身を炭の塊に変える。


『うわぁ、オーバーキル?』

『白蛇の生命力も凄かったけど、ハロさんがやばすぎた』

『そんなに稲が見つからなかったのが悲しかったのか』

『タイミングの悪い龍蛇だったよ。。。』


 そうだよ、私は悲しいんだよ!

 少しペースを落として一か月ちょっとかけてまで探したのに!


 あ、これで外に出るんだから、ドロップ品が残るような倒し方をすればよかった。

 確かドワーフになった鍛冶師が近くにいたから、渡したらいい感じの武器にしてくれたかもしれないのに。


 まあいっか。

 どうせ私は使わない。


「それじゃ、ひと月前に言ったように一旦迷宮から出るよ。また数日後には配信と攻略再開するから。皆も頑張って。お疲れー」


『そう言えばそんなこと言ってたな』

『おつおつ』

『お疲れ様です』

『はーい。数日後か』

『お疲れ様でしたー』


 よし、配信終了っと。

 まだ昼過ぎくらいだし、外に出たらそのまま沖縄の方から回ろうかな。


 なんて考えながら次の部屋に行って、最早お馴染みの魔法陣に乗る。

 一瞬の視界暗転の後に出た場所は、あの長ーい階段の足元に出来た拝殿だ。


「ん-! 久しぶりの外!」


 なんとなく清々しい気のする空気を肺一杯に吸い込んで、伸びをする。

 二月に迷宮に籠って三か月だから、暦の上では五月だ。


 初夏の香りも近づいてきているのが分かるね。

 だいたい私の誕生日くらいじゃないかな?


 と、そうだ、夜墨と令奈さん達の方はどんな感じだろ?


『そっちはどう?』

『こちらは今七十二階層を突破したところだ』

『私たちは六十一階層やね』


 ふむ、お米を探してる間に夜墨には抜かれたか。

 令奈さんとワンストーンさんも良いペース。


 スタンピードの保険の為に私と夜墨は急いでるだけで、令奈さんたちの方はまだ期間に余裕があったんだけど、この分なら彼女たちも間に合いそうだね。


『そかそか。みんな頑張って。戦ってる感じ、二百階層台で守護者数体と雑魚を百も狩れば問題なさそうだから』

『ああ』

『簡単に言うことやないなぁ。まあ、任せとき』


 最悪の事態は避けられそうだね。

 それじゃあ、人間たちの様子を見に行こうか。


 雲よりも高い所を飛び、一直線にあの小娘の気配を目指す。

 まったく力をコントロールできていないから、本州の西端辺りからでもよく分かるんだよ。

 そういう意味では助かるね。


 飛行の原理上、偏西風やらなにやらは一切無視していい。

 肉体強度的にも空気の壁くらいはどうって事ない。


 そのお陰で、一時間もかからず沖縄上空に辿り着いた。

 地上には下りず、雲の隙間から魔法を使って観察する。


 ふむ、のんびりしてる人が多いな?

 まあ、沖縄だしなぁ。


 陸地自体は少ないから、あれでも地上の分はどうにかなるでしょう。

 ん、海中にも気配。


 人魚やら魚人マーマンたちかな。

 こっちはなんか頑張ってるみたいね。


 ……人魚とか魚人って区分的にはどこになるんだろう?

 妖精か何かの人外か、獣人の一種か……。


 まあいっか。


 で、あの小娘は何してるのかな?

 ん-、ああ、いた。


 迷宮に入っていく所だね。

 この辺りで一番大きい所ではなさそうだけど、二番目くらいの規模か。


 一番大きい所には、気が付いていないね?

 けっこう深い所だし、島に影響があるかは微妙。

 海中の種族や漁師は困るかもだけど。


 まあ、最悪小娘が頑張るでしょ。

 アレにはそれ位しかできないし。


 よし、次。


 九州は、鬼と竜人が迷宮の間引き担当で妖精系の人たちが迷宮捜索の担当をしているんだね。

 妖精系の人たちも地脈の流れがある程度分かるらしいし、ココも心配いらないかな。


 そういえば、妖精に始祖がいないって話だったけど、やっぱり始祖って世界全体で初めてその種族になった人なのかな?

 妖精ってなるとイングランドとかあっちの方に多そうだし、然もありなん。


 その割に日本に始祖が多いのは、もしかして私のせい?

 かなーりイレギュラーで超早期の種族変化だったし、その結果出来るようになった配信の検証でかなり早い段階から他の日本人も稼いでたんだし。


 その辺もいずれ調べてみようかな。

 今はスタンピードをどうにかしないと。


 よし、四国。

 ここは人口が少ないけど、大丈夫かな……って、何あれ。

 百鬼夜行?


 探し物が得意な妖怪が全員を先導して、迷宮を見つけたら何人かが残るって形か。

 七人同行って集団亡霊だかが香川にいたと思うけど、そんな規模じゃないなぁ。


 感じる力は個人個人でまちまちだけど、特殊能力を持っていることが多いらしいから戦力的には大丈夫か。

 よし、次!


 ――に行こうと思ったけど日没か。

 暗くなってから活動する種族もいるけど、大半は休む時間だ。


 残りは明日だね。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る