第43話 面倒しかないのかこの迷宮

 迷宮内を彷徨うこと一週間。

 地に沈み、ピクリとも動かなくなった白い巨大鼠を前に残心する。


「……ふぅ」


 構えを解いて地面に槍の柄を付けると、生きた木を叩く心地良い音が響いた。

 今いるのは、階層と階層を繋ぐ大樹の内部。


 そこに設けられた、守護者の間だ。


「お疲れー。しぶとかったね」


『おつー』

『あまり強くなさそうだったけど、頭を落としても死なないんだもんな』

『途中の雑魚よりゴーレム感あった』

『一刀両断じゃすぐくっついちゃうとか』


 ホント、再生力が面倒だったよ。

 動きはネズミ型のくせに鈍いくらいだったし、力もただの人間でも押し返せる程度でしかなかったんだけどね。


 私の身長よりも体高があるから、その重量の分は甘く見れないって程度の脅威。

 渋谷の二十階層の守護者だったワードッグと同じくらいかな。


 パーツごとに分けられた白い塊を見て、思わずため息が出る。


「とりあえず、こいつの核があるのは頭で間違いないみたいだね。何かを斬った感触があったよ」


 色んな部位を切り離して再生速度なんかを見ながら探ったんだよ。

 その違いが核からの距離ならそれでよし。違うなら、他を考えようって。


 核に当たるまで頭もけっこう細かくしたし、本当に面倒だった。

 誰かもっと楽に倒せる方法見つけてくれないかな。


 何はともあれ、これで十階層の守護者は突破。

 つまり、転移陣が使える訳で。


「やっと帰れる……」


『心の底から出た様な溜息』

『げっそりしてる』

『ハロさんお疲れ様です』

『祝、迷子脱出』


 まさか一週間もかかるなんてねぇ。

 これが進んでるって分かる状態で一週間なら全然平気なんだけど、迷子状態で一週間だったから精神的にしんどかった。

 

 進んでるのか戻ってるのか、同じところをぐるぐるしてるのか、何も分からないんだもの。


 少し早足になるのを自覚しながら、転移陣があるはずの次の部屋に向かう。

 この迷宮の転移陣は十階層ごとじゃありません、なんて可能性もあったけど、それは杞憂だった。

 小部屋中央の床で光を放つ転移陣を見た時の安堵感と言ったら。


「あ、そうだ。ちょっと先を見てくる」


『ああ、次の階層も森じゃないか見に行くのか』

『これでまた森だったらハロさん、別の迷宮の攻略に変えそう』

『確かに』

『一区切りついたし、わんちゃん地形が変わってもおかしくないよな』

『あ、フラグ建てたやつがいる』


 また森だったら、当然攻略する迷宮は変えますよ?

 お肉が手に入りそうな迷宮は他にも候補があるんだから、こんな超高難易度迷宮、かっこ私調べ、にこだわる必要は無いし。


「フラグ建てた人、もし次も森だったらタイムアウト」


『横暴だー!』

『どんまい』

『森来い森濃い森恋』

『恋してる』


 森だったら本気で考えようかな……。

 それは兎も角として、そろそろ次の階層の入り口が見えてもおかしくないはずなんだけど……。


 あ、あった。

 高いね。

 区切りの階層だからなのか、これまでよりも高い気がする。


 あぁ、ドキドキする。

 迷子はもう嫌。

 せめてあんな不自然に秩序だった森じゃなくて、自然な森で。


 自然な森ならその場その場で来た方向を確かめるくらいは出来るはずだから。

 たぶん。


『さて、どっちかな?』

『森いいい!』

『また森だったら笑います』

『てか高いな。この階段だけで疲れそう』


 気になる結果はっと……。


「よし。……よし」


『二回言った』

『そんなに嬉しかったのね』

『くっ、森じゃない……』

『良かった、タイムアウト回避』

『けどまただだっ広い。高原かな?』


 高原っぽいね。

 疑似的な空なんだろうけど、雲が近い。


 その雲が転々とした青空の下に、一面の緑が広がってる。

 所々に木々が見えて、高低差もそれなりにあるか。


 背の高い草は少ないから、移動はしやすいかな。

 隠れ場所って意味では少ないから、夜を越す場所は考えないとだけど。


 この環境は、期待してもいいんじゃないかな?

 ここに来た本来の目的、肉に。


 前の十階層はあれだけ彷徨って、大根とリンミの実しか手に入らなかったから、もしお肉が見つかるなら嬉しい。

 他の伝統野菜系でも嬉しいは嬉しいけど、今回の目的はお肉なんですよ、ええ。


 薬草の類もあったかもしれないけど、それはそっちが好きな人お願い。

 吸血鬼の中にいるでしょ。


「よし、それじゃあ帰ろうか」


『ういー』

『お疲れー』

『良かったねハロさん。お疲れさまー』

『はーい。お疲れ様ですー』


 ん-、帰りもあの階段かー。

 面倒だね。


 よし。

 

『おつーって、うお、飛び降りた』

『螺旋階段だから直通なんだろうけども』

『あ、内臓がきゅって』


 普段夜墨から飛び降りる時の高さよりは全然低いからね。

 ほら、コメントを確認してる間にもう一番下だ。


 いつも通り減速して、着地っと。


 さっさと転移陣に乗って、迷宮から出る。

 移動した先は、古びた納屋の中、かな?


 そんなのあったっけ? と思いながら外に出てみると、迷宮の入り口があった建物の横に新しく出来ていた。

 そんなパターンもあるんだ。へぇ。


「それじゃ、配信閉じるねー。次の配信は、明日かな。またね」


 はい終了。

 よーし帰る!

 ふかふかのお布団が私を待ってるからね!


 あとたぶんだけど、お肉も待っててくれてるので間は空けません!

 明日も朝から配信します!


 うん、楽しみ。


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