第44話 ホクホクしてたら

 西の空から届けられた光が、私と迷宮の入り口を守る古き良き民家を茜色に染める。

 暦の上の数字は、森エリアを抜けた日から一つだけ、大きくなっていた。


 そう、一日で守護者の間まで行けたのだ。

 それも二回分。


「それじゃ、今日の配信はここまで。次は、まあまた気分が乗ったらね」


『超ホクホクだな』

『お疲れ様ー。正面からの構図で終わるのレアすぎる』

『お疲れ様です』

『おつおつー。空の旅楽しかった』

『ホクハロさんお疲れ様です』


 たった一日で二十階層分も進めた理由は、至極単純。

 空を飛んで行ったから。

 

 地上のギミックなんて知らない、自分たちで攻略方法を見つけてねと言わんばかりの高速飛行だよ。

 次の階段の場所も空からなら探しやすいし、歩くより圧倒的に速いし、当然の帰結というやつです。


 更に更に、念願のお肉まで手に入った。

 これでホクホクにならない訳がない。


 思わず正面からの視点に切り替えてしまった位にはご機嫌だよ。

 帰ったらこのお肉で色々試すつもり。


「またね、皆」


 よし、配信終了。

 上空の夜墨に合流する。


「お待たせ。バッチしだよ」

「そのようだな」

「じゃあさっさと帰ろうか。善は急げだ、よ?」


 お?

 ずーっと西の方に覚えのある感覚が。


「また強いのが生まれたね」

「ああ。北の果てに生まれた者と同程度か……」


 北の果てって言うと、巨人族の始祖だね。

 純粋なスペックではウィンテさんに準じるくらいだったはず。

 特殊能力と戦い方次第で簡単にひっくり返る程度の差だけど。


 えっと、種族スレッドの方には……まだ情報が出てないね。

 まあ静観で。


 秘匿されそうなら自分で見にいこうかな。


「これで何種めだっけ?」

「スレッドに公開されている者だけなら十二種だな」

「加えて、魔人族か」


 絶兄は暫定だけども。


 実際にはもう少しいる可能性はある。

 今目覚めた人みたいな強者は感知できるけど、始祖が必ずしも強者とは限らないから。


 そもそもが戦闘の苦手な種族だったり、本人の資質の問題だったりね。

 あとは、迷宮の中で始祖になられた場合はたとえ強者でも感知できない。


 そういう、いるかいないか分からないようなのは置いておいて、感知できた相手は将来の遊び相手として有力候補な訳です。


【エリア内の種族数と魔力量が規定値を超えました。迷宮の機能制限が解除されます】


 ビックリした。

 久しぶりに聞いたよ、このシステムアナウンス。


 んー、どうやら皆聞いたみたいだね。

 スレッドが騒ついてる。


【配信可能者数が一定数を超えました。獲得spの制限を解除します】


「たて続けにくるね」


 これはかなり嬉しい知らせ。

 スレッドを見る限り、配信可能な人だけが聞いた感じかな?


 まあ、他の人にはあまり関係ないからね。

 

「しかし、迷宮の機能制限ね? 夜墨わかる?」

「ふむ。そもそもどの機能が制限されていたのかが分からぬ。答えようが無いな」

「そか。じゃあ帰ってからでいいや」


 それよりも今は肉ですよ肉。

 お腹が鳴り始めた。

 

「夜墨」


 気持ちは同じ。

 名前を呼んだだけで意図を理解して、一気に加速してくれる。


 このスピードなら十分もかからず着くかな。

 あー、十分も待てるかな?


 楽しみすぎる。

 赤みの、所謂ヒレ肉の部分を多めに持って帰った。

 人間だった頃は食道炎のせいで胃もたれしやすかった事もあって、一番好きな部位だったんだよね。


 まあ、まずはシンプルにステーキかなー。


 なんて考えてたら十分なんて瞬く間に通り過ぎて、我が家に到着。

 すぐに鞄から今日の成果物達を取り出して、これから食べる分以外を冷蔵室に入れる。


 帰る間は魔法で冷やしてたから、お肉が常温になるまで放置だね。


 その間に解除されたっていう迷宮の機能を確認しようか。


「んー、どれだ……? これ? あ、これか」


 ぶっちゃけ、部屋をいじる時くらいしか触って無かったから間違い探しに苦労した。

 映像記憶が出来なかったら判別できなかった可能性があるね。


 今見つけたもの以外にもあるかもしれないけど、まあどっちでも良いか。


「迷宮の保有魔力量ね。sp換算なんだ?」


 項目名は保有魔力量なのに単位がspなんだよ。

 つまり魔力と魂力には何かしら、思った以上に密接な関係があると推測できる、んだけどその考察はまたで。


 項目名のすぐ横にある数字の、さらに右にはかっこで囲われた、より大きな数字がある。

 これは、最大値かな?

 あ、ここと渋谷、両方確認できるのね。


「ねえ、夜墨、この限界値を超えたらどうなるの?」


 かっこの数字の意味を間接的に問うのも忘れない。


「調整のために外へ排出しようとするな」


 とりあえず推測は的中、と。

 ていうか夜墨の言ってるのって……。


「つまり?」

「迷宮の魔物が外に溢れる」


 おっふ……。

 やっぱりか。

 スタンピードってやつだ。

 

 それが起きたら、人間は大変だね。

 今の彼らならそのまま滅んでもおかしく無い。

 少なくとも、今できつつある新しい社会は崩壊する。


「防ぐには?」

「迷宮内の魔物を狩り、迷宮の保有魔力を減らすしか無い」


 あらま。

 人間にそれができるかしらねー?


 んー、渋谷迷宮が今保有してる魔力は……。

 一応うちよりは限界まで遠いのか。

 思ったより頑張って迷宮探索してるみたい。


 けど、あれだけ人が出入りしててもいずれはスタンピードを起こしそうなんだね。


 もしかして人間、絶滅の危機?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る