第39話 ここはどこ? 私はハロ
㊴
――ここはどこ?
右を向いても森。
左を向いても森。
後ろも前も森。
木々の並びも超絶難しくて意地悪な間違い探しかっていう程違いがない。
「さて、困ったね?」
『困ったな』
『困ったね』
『困った』
『困った。なおまだ一階層目という事実』
『直進してるだけで迷うとは。。。』
そうなんだよ、まだ一階層なんだよ。
来た方向は、一応分かる。
じゃあ迷宮の入り口の方向も分かるかって言われたら、閉口するしかない。
森の中はまっすぐ進むのが難しくて、気がついたら円を描いてるって言うけど、そのせいかな?
違う方向からも私の匂いを感じるんだよ。
その匂いも森の匂いに呑まれてどんどん分からなくなってる。
一番濃いのが直前に通った道なのは確かなんだけど、下手をするとこれも分からなくなるなぁ。
「一応、慎重に匂いを辿れば戻れ無いこともないけど……」
いや、戻れるかな?
自信ないぞ?
『こんなに頼りないハロさんは初めて見た』
『ギャップ萌え』
『問題は命がかかって、るか?』
『どうなってもハロさん、死にはしない気がする』
『それな』
ちょっと。
いやまあ、死にはしないけどね?
こんな低階層の魔物じゃ、そもそも私の龍鱗を貫けないし。
「そういえば魔物見ないね?」
『確かに』
『もう二時間くらい経ってるけど戦闘ゼロですね』
『珍しい』
ん-、そういう階層なのかな?
これがこの階層だけだったら良いけど、迷宮全体ってなったら泣くよ?
散々彷徨って、美味しい物が手に入らないとか。
『ちょいちょい木の実っぽいの見えるけど、あれ食えないの?』
『赤いやつか』
『確かに上の方にあるな』
「木の実?」
上って、ああ、あれか。
どうなんだろ?
「一個採ってみようか」
『また魔物の擬態だったりして』
『あり得るな』
『むしろその方が美味い説』
『それもあり得る』
魔物の擬態、は無いかな。
流石に、この階層の魔物が龍である私の感覚を誤魔化せるとは思わないし。
ただ、旧時代の食虫植物みたいにただの植物で有りながら捕食者、みたいなパターンはあるから警戒する。
迷宮は地脈から余分な力を汲み上げるけど、同時に足りない分を外から補給するから。
膨大過ぎる魔力の処理をするために外部から駆除係を呼び込み、時に駆除係を養分に変える。
中々合理的なシステムだ。
じゃあ、処理能力が追い付かない時はどうするか。
いや、これはまた別の機会に考えよう。
直ぐにどうこうなる話では無いし、今は配信中だから。
なんて考えながらも身体はちゃんと動かす。
軽く飛んで頭上の枝に捕まり、逆上がりの要領で上に登る。
見晴らしは、ぶっちゃけ悪いけど、木の実を採ったらすぐに降りるからいいや。
よし、ここからなら手を伸ばせば届くね。
高さ的に落ちても問題ないから、尻尾は不測の事態に備えて自由にしておこう。
『思ったより大きい』
『ぱっと見は赤いミカン』
『リンゴより一回り大きいくらいか』
「ん、簡単に外れたね」
切る必要があるかと思ったけど、軽く捻るだけで採れた。
警戒していたような反撃もなし。
あとは、毒か。
ん?
そもそも私って毒、どれくらい効くんだろう?
あとで夜墨に確認した方がいいかな。
まあいいや。
「とりあえず、銀にでも触れさせてみる?」
spで純銀の針を交換して、突き刺す。
魔法で出したものはイメージのズレで組成が変わるかもだし。
ふむ、黒ずみは無し。
「ヒ素系は心配しなくていいみたい。匂い的にも怪しいのは無し。ん」
針に付いた果汁を舐めてみる。
苦味も舌先の痺れる感じもしない。
うん、まあ、大丈夫そうかな。
「食べられそう。割と甘い果物っぽいよ」
少なくとも果汁はけっこう甘かったし。
見た目に従ってミカンのように皮をむいてみる。
内側から出てきたのは、リンゴのような果肉だ。
「じゃ、いただきます」
思い切って齧ってみる。
シャリっとした触感の後に果汁が溢れ出て、口の中を甘く染めた。
実自体は酸味があるから、甘酸っぱくてさっぱりとした味わいになっている。
「これ、かなり好きかも。ミカンに近いリンゴ」
『ほう』
『いいな、美味そう』
『最近果物食ってないな』
『米のときみたいに呆けるほどじゃないんだな』
それはそう。
あの米は美味しすぎた。
実際、あれほどの感動は無いなー。
なんて思いつつ、おやつ用にもう一つ採って懐に入れる。
『しれっと採ったな』
『美味いのは美味いと』
「じゃ、探索再開しようか」
樹上から飛び降りて、歩き出す。
歩き出したけど、ん-。
「こっちで合ってるのかな……? 来た方向も分からん」
『なんか凄い不安な呟きが』
『そうだった、この人遭難中だった』
『迷子のハロちゃん』
『少なくとも来た咆哮ではないぞ』
なんやかんややってる内に匂いは薄くなってたし、方向も見失ったんだよ。
リスナー、ナイス情報。
「ありがと。今日はこの階層で終わりそうな気配がするけど、気長に見てて。次の守護者までは迷宮から出ないつもりだし」
出られないの間違い、なんて言ってはいけません。
もちろん、寝る時には配信閉じるけどね。
『そういえばさ、木を切り倒してからどれくらいで復活するんかな?』
『検証スレッド案件だな』
『確かに』
『ハロさんでばーん』
「ずっと私の出番だよ。で、木を切り倒したらね。そうだね、もうすぐお昼だし、ついでに確かめてみようか」
お昼ごはん用に木の実を追加で採って、と。
ん-、向かう方向の木で良いかな。
槍を出して構え、弧を描くように手近の木を切りつける。
「ほっ! けっこう硬いね」
これは加工するのは苦労しそう。
『ん?切れなかった?』
『倒れる気配がないな』
『めっちゃ水平に切ってるし』
そうそう。
水平に切った。
倒れる方向を調整しようと思ってね。
そんな訳で、その木に手を当てて、ゆっくり力を込める。
頭上でメキメキと音がして、引っ掛かった他の木の枝を圧し折ってるのが分かった。
「もういいか」
ゆっくり倒れていく木を数歩後ろに下がって見守る。
ややあって、軽く地面が揺れた。
「よし、これで良いか。あ、横に槍を刺しておいたら再生してても分かるよね」
検証検証。
もしこれで再生まで時間がかかるようなら、短期間の目印として使えるんだけどね。
とりあえずお昼の用意しますか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます