第30話 喧嘩売られたね

 はい、おはようございます。

 今日もいい天気だね。


 窓から外を見たら、天頂より降り注ぐ太陽の光!


 うん、めちゃくちゃ寝た。

 

 あんな宣戦布告をした翌日にコレか、という感じではあるけど、どうせ絶兄の次の一手は決まっている。


「で、どう? 何か動きはあった」


 ベッドから這い出てコーヒーを用意しながら、側に居た夜墨に聞いてみる。

 

「いや、何もないな」

「じゃあもう少しのんびりしようか」


 遠からず、絶兄は弟の絶影君をぶつけてくるだろう。

 試金石だ。


 悪い言い方をすれば、捨て駒。


 あれだけ兄を慕っていて哀れな気もするけど、私が絶兄の立場なら同じことをするだろうなぁ。

 無能な味方ほど厄介なものは無い。


 そういう意味では、絶影君を生かすだけで勝手に向こうの足を引っ張ってくれる。

 数少ない絶兄の情報も彼から得ているわけだし。


 まあ、もうわざと生かすなんてしないけどね。

 

「あ、このコーヒー美味しい。リピートしよっと」


 夜墨が欲しがったので彼の分も用意。

 ついでにケーキも二つ。


 しかし、絶影君が捨て駒なのが確実だとすると、あのカメレオン混じりは絶兄の送り込んだ手駒説が出てくるね。

 ブロックされたアレな人が種族変化で変わったんじゃなくて、元から多少能力のある人。


 うん、そっちの方がしっくりくる。

 あの場で彼、かは知らないけど、あのカメレオン混じりだけ調子に乗っていなかった。


「ケーキはイマイチだね。前のやつの方が美味しかった」

「少し甘すぎるな。コーヒーとでこれか」


 誰に似たのか、最近の夜墨は食べ物にうるさい。

 確実に私のせいだけど。


 あ、ウィンテさんが配信始めた。

 スレッド監視は夜墨もしてくれているし、私はながらでも良いか。


 それくらいは昔から問題なくしてたことだしって、うん?


「夜墨」

「ああ、始まったぞ」


 見ていたのは、配信の機能解放方法に関するスレッドだ。

 そこにこんな書き込みがあった。


『絶影君が配信を始めたぞ!』


 まず間違いなく、絶兄の入れ知恵だ。


 問題は、どの方法で配信機能を解放したか。


 今判明しているのは、特定条件での契約による称号の取得、spの使用、そして私の秘匿している迷宮の攻略。

 迷宮の攻略を含め、他にも推測されている条件はある。


 けど、たぶん今回は私の時と同じだ。


「一時的に絶影君のブロック解除したから、こっちに顔出してきたら対応をお願い」

「ああ、わかった」


 二窓は、できるね。


 ウィンテさんの配信の左に彼の配信を映す。

 映ったのは、異形と化した絶影君と、見覚えのある洞窟内。


 やっぱり。

 昨日、四十階層の守護者が居なかった時点でこの未来は考えていた。


 まだ彼は配信設定に手間取っているようで、こうか? なんて呟きながら中空を凝視している。


 その間にコメント欄を遡れば、『コレで同じって、ハロさんとか?』なんてものがあった。


「絶兄も迷宮を攻略している可能性があるか」


 私と同じ、と言っていると考える事は出来るけど、これまでの絶影君の言動を踏まえたらお兄さんとって方が自然だ。


「あぁっ! もう良い! 分からねぇ!」


 ん、ギブアップか。

 案外もった方かな。


 ウィンテさんの方は、日常生活でのsp取得検証か。

 こっちも気になるので二窓継続。


「見てるか雑魚ども! 俺の方が先にクリアしてやったぞ!」


 おーおー、分かりやすく調子に乗ってら。


「兄貴も見てるよな。俺、やったぜ!」


 うわ、イノシシ頭でその表情は、薄い本の展開に続くようにしか見えない……。

 少年の姿ならまだ可愛げが、いや、だいぶ下卑てたね。


 パッと見た感じ、強さは前回会った時とそんなに変わってないかな。

 修練の類はしていなかったみたい。


 してたら驚きだけど。


「そんで、えと」


 流れ、何にも考えてなかったね、この感じ。

 おろおろして視線を彷徨わせてる。


 今のところ彼の姿しか見えないけど、これは近くに誰かいるかな。

 たぶんカメレオン混じり。


 あ、一点を見つめて安心した顔。

 ステータス画面かもしれないけど、近くの文字を読んでる目の動きじゃないね。


「ブス! ここで待っててやる! 悔しかったらさっさと来るんだな!」


 私見てる前提の悔しがってる前提だね?

 まあ、絶影君らしいけども。


 ん-、どうしようか。

 普段ならスルー確定なんだけど、昨日宣戦布告したしなぁ。


「ビビってんのか!?」


 いや何でそうなる?


「だろうな! 見ろ!」


 なんか反復横跳び始めた。

 下半身蛇の反復横跳びってシュールだな?


 コメント欄も同じこと言ってるよ。


 でも、確かに速いは速いね。

 魔力を使っている様子はない。というか扱えてない。


「オラァッ!」


 ヒルの腕を束ね、拳にして地面に叩きつけるのが見えた。

 岩の地面が砕け、破片が舞い散る。


 ふむ。


「体力Sの真ん中くらいはあるね」

「ああ。SSまではまだ遠いが、ロードよりは確実に強靭だ」


 悪かったね、貧弱で。

 魔力で補えるし、日常生活には一切支障が無いから気にしてないけど。


 ん-、この感じならサンドバッグくらいにはなるかな?


 よし、行こうか。

 いい加減決着をつけてあげよう。


「遊びに、行く、よ。待っててっと。送信!」

「行くのか」


 意外そうな声。

 よく分かってるじゃん、私の事。

 さすが眷属。


「啖呵きったしね。受けてあげるさ」

「そうか。ロードの思うままにすればいい」


 そうさせて貰うよ。

 誰に何を言われようとね。


「よし」


 そうと決まれば、もう絶影君の配信は閉じて良いね。


 コーヒーを一旦置いて、勢いよく立ち上がる。

 そして、本棚の方へ。


「出るんじゃないのか?」

「うん? 出るわけないじゃん。もう昼過ぎだよ?」


 今から迷宮十層分を攻略とか、面倒だって。


 今日はこのままウィンテさんの配信を見ながら読書だよ。

 もう少ししたらご飯も食べたいね。


「ん-、これかな」


 あらすじ曰く、ピアノの調律師の青年が才能とか自分の仕事そのものとかに悩みながら日々の仕事の中で答えを探すお話。

 ライトノベルじゃ見ない系統だね。

 楽しみ。


 そんなわけで、絶影君、気長に待ってておくれ。


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