第26話 出待ちされちゃった

 そんなこんなで翌日。

 今いるのは、地下三十階層。その守護者の部屋だ。


「それじゃ、今日はここまでかな」


 朝に配信を付けて検証結果を伝えてから、そのまま次の階層守護者の所まで来た感じ。

 ちなみに守護者は頭と足がカラスで首から下は人間のキメラだった。

 リスナー命名、ワークロウ。


 カラス頭の雑魚敵はもっと上の階層から出てたし、こいつが二十階層の守護者で良かったんじゃないかな……?

 ワードッグよりは強かったけど。


 まあいいや。


 なお犬頭の雑魚さんは二十一階層から出てきた模様。

 微妙に謎。


「隠し部屋から地上まではいつも通り、雑談タイムにしようか」


『そいや、お風呂とかご飯はどしたの?』

『はーい』

『ウィンテさんとコラボしないんですか?』


 コメントを確認しながら次の部屋の魔法陣に乗って、転移。 

 特に何の感覚もなく景色が変わるから、不思議な感じ。


「お風呂は魔法でお湯を用意してちゃちゃっとね。晩御飯はカレーにしたよ。あのハエトリ擬きの米で。コラボ予定は今のところ無し!」


『やっぱり魔法かぁ』

『風呂かー。そういえば最近水浴びしかした記憶ないな』

『絶対うまいやつ!』

『わかる。温かい湯船に漬かりたい』


 漬かってる人がいるね?

 まあ、流れちゃったし拾わなくていいか。


 とりあえず隠し部屋から出て、もう見慣れてしまった石の階段を上る。


「お風呂はねー。spでお湯用意しようと思ったらめちゃくちゃ必要だよ。頑張って魔法覚えなー? カレーは最高に美味しかった!」


『魔法か……』

『カレーの感想超シンプル』

『まあ、美味しくない訳ないですよね。お腹空いてきた。。。』


 そうそう、美味しくない訳がない。

 敢えて言うなら過去最高。

 カレーの感想、これ以上必要?


『吸血鬼組は魔法使ってたな。俺も種族変化考えようかな、、、』

『私魔法つかえたよ。魔力はEだけど』

『ほー、Eでもつかえるのか。ちょっと練習しよう』


 まあ、使えはするんだろうけど。

 でも風呂桶いっぱいのお湯を出すってなると、かなり詳細に、それこそ量子レベルでイメージしないと魔力足りないんじゃないかな。


 いや、Eなら小さい魔石でもあればギリギリ大丈夫か。


「そうそう、練習した方がいいよ。イメージが詳細になるほど必要魔力量は下がるし、使ってたら魔力自体増えるって。筋肉みたいな感じで」

 

『良い事聞いた』

『練習してくる』

『一つ評価を上げるだけでもかなり大変そうだけども。一段階の幅めっちゃ広い気がするの私だけ?』

『分かる、めちゃ広い、』


 それにしてもこの階段、長いなぁ。

 このペースだと、あと五分くらいかかる?


 そんなに掛からないか。

 って、うん? なんか入口の方に人の気配がいくつかあるね?


『魔力で思い出したけど、器用て結局なんなんだ?』

『手先の器用さとかじゃないの?』

『それだけ別になってる意味が分からん』

『まあ確かに』

『何でもよくね?』


 ん、器用か。

 そういえばその話した覚えないね。


 私も一昨日あたりに夜墨から聞いたばかりだけど。


「器用は、身体や魔力をどれくらい上手く使えるかの評価だって夜墨が言ってたよ。運動神経的な」


 私が本能って言ってた感覚も実はこれの影響らしい。


「器用が高い程、どう動かせばいいか直感的に分かるんだって。だから、もし魔力量に差があってもここで出力を上回ることが出来る、らしい」


 もちろん、理論的にしっかり学んで練習した方がいいんだけど。


 練度が足りなかったから夜墨を圧倒できなかったって話だし。


「魔法の練習でも上がるから、そういう意味でも練習推奨。どうするのがいいかは私も分からん! 誰か教えて!」


 槍に関しては本や巻物で学べるんだけどね。


 そろそろ出口、なんだけど、やっぱり人の気配。

 ていうか、これ、一つは絶影君じゃない?


「まだ何か用があるのか……。ん? ああ、ごめんごめん、声に出てた」


 ついポロっと言っちゃったみたい。

 説明は、見せた方が早いか。


 という訳で、ただいま地上。

 こんにちは絶影君、と愉快な仲間たち。


「やあ、今度はいったい何の用? 男ばかりでこんな幼気いたいけな女の子を囲んじゃって」


 勘違いされても知らないゾ?

 なんて。


『あ、絶影君』

『ハロさんが、幼気な女の、子・・・?』

『何言ってるだこの龍』

『ダウト』

『頭打ちました?』


「コメント欄しゃらっぷ!」


 まったく、私の扱い雑すぎだってばよ。


 まあ、それはいいとして。


 うーん、ずっとニヤニヤしてるばかり。

 早く配信終えて帰りたいんだけど?


「おいこらブス、分かるよな、俺たちのこと」

「いや誰」


 分かるよな、なんて言うから実は知り合い? と思って全員の顔を見てみるけど、誰一人分からない。

 

 年齢もバラバラ。

 恰好もバラバラ。


 おじさんだったり少年だったり綺麗だったり小汚かったり。

 共通点は謎。


「な訳ねぇだろもっとよく見ろ!」


 そんなこと言われましても。


「はい、見た。知らない。じゃあね」


 よし帰ろう。

 こらコメント欄、そんなに草を生やさない。


「ふざけんな! 全員俺たちはお前のワガママで苛められたやつだ!」


 だから日本語。

 話言葉もこれって相当なんだけど。


 で、なんだっけ。苛められた?

 ワガママしてる自覚はあるけど、本当に心当たりが無さす……あ。


「わかった、ブロックした人たちか」

「やっとわかったかこのブス!」


 いや分かるか!

 ユーザーネームしか知らんって。


 ていうかブス以外の罵倒無いのかな?


「じゃ、分かったから帰る。そこ邪魔」

「は? 帰れる訳ないだろ? いくらチートブスでもこれだけ居たら勝てねぇだろ!」


 もうブスが私の名前みたいになってる。


 なんでもいいけど。

 ていうか、え、なに。


「もしかして、本気で私に勝てるって思われてる? 冗談じゃなくて?」


『えぇ……』

『お手柔らかに』

『あーあ、知らない』

『今日のお祭り会場はこちらですか』

『やっぱ即効でブロックされた人らって……』


 ちょっとコメント欄、私がこいつら纏めて汚ねぇ花火にしようとしてるって思ってるよね? ね?

 そっちの方が遺憾だぞ?


「リスナー諸君は後でたっぷりOHANASHIしようね。主に私に対する認識ついて」


『ひっ』

『ごめんなさいコイツがやりました!』

『私は悪くない!けどごめんなさい!』

『今日はこの辺で落ちますお疲れ様でしたまた次回の配信で!』


 こいつら……。


「それで、本当にやるの? 大丈夫?」

「大丈夫だよ、優しく可愛がってやるからな。へへ」


 え、きもちわる。

 これ、本当に中高生?

 こんなに可愛くない十代半ばは初めて見た。


「いくぜ! 覚悟しやがれ!」


 お、皆して何か飲んだ。


 て、早い!?

 思ったよりはだけど、ワークロウより早いよね?


「ちっ」


 動きがめちゃくちゃなせいで逆に避けづらい。

 一対一なら問題ないけど、こうやって囲まれると面倒。


 あー、配信中じゃなかったらサクッと首刎ねるのに。

 流石にこいつら殺すのはマズイよねー。

 そこまで酷い事された訳じゃないし。


「くそっ、なんで当たらねぇ!」


 ん-、どうしよう。

 とりあえず、【管理用】スレッドを開いて……。


『ねえ夜墨。こいつらが飲んだのって何か分かる?』

『恐らく能力値の分配を無理矢理変えるものだな』


 ふむふむ。

 ステータス画面で見られる能力値は素の能力に加えて、魂力、普段spとして認識している力の一部を加算したものと。


 で、あいつらが飲んだ薬は加算されている魂力の配分を変えるものね。

 例えば魔力に十、器用に十の魂力が振り分けられているとしたら、魔力十五、器用五って変えるのか。


『なるほどね。それで動きが昨日よりも更に雑なんだ』


 元々雑だったけどね。

 

『恐らくな。だがこれは魂に負担をかけるものだ。長くは続かない』


 そかそか。

 じゃあ待ってても良いと。


 まあ、待たないけど。


「ほっ」


 一回転して尻尾アタック!

 優しくしたから、皆吹き飛んでいっただけだけど。


「いくらパワーアップしても力を上手く使えないなら意味ないぞ、少年」


 と両手を腰に当ててやれやれ感を出しながら言ってみる。

 悔しそうにぐぬぬしてるね。


「じゃ、今度こそ私は行くよ。じゃあね」


『プッチンされなくて良かったな、少年』

『強く生きろよ、少年』

『達者でな、少年』


 ホントに何なんだろう、このコメント欄の連携。

 なんか少し恥ずかしくなってきた。


 まあいいや。

 また向ってこられる前に夜墨の所に行こう。


 はてさて、絶影君は諦めてくれるかなぁ。


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