第25話 今夜はカレーだってばよ

「そろそろ倒していい? 飽きてきた」


 眼前で何度も振るわれる爪を避けながらリスナーの皆に聞いてみる。


 今いるのは二十階層。

 つまりは守護者の部屋。内装は十階層と変わりない。


 唯一違う守護者は、上半身だけ人間の黒い犬頭。

 ワーラットに合わせてワードッグと呼ぶことになったやつ。


『いんじゃね?』

『もう十分見られたからな』

『俺らにはまだ辛そうってことは分かった。格闘技経験者だけど、初撃で死にかねん』

『攻撃早すぎだろ……』


 よし、ヤる。

 この動きを見せるの、配信的に必要な作業だけど、瞬殺しないように神経使うし正直なところ面倒なんだよね。


 それだけストレスが溜まるわけでして。


「ストレス発散にサンドバッグとか思いっきり殴る人いるよね。どれくらい良いか試してみるよ」


 という訳で、いきます、テレフォンパンチ。

 腕を思いっきり引いて―の……。


「じゃーんけーん、ぽい!」


 あ、爆散した。

 うわ、ばっちぃ。


『ワードッグ如きの攻撃を早すぎるとか言ってすみませんでした』

『全然見えなかったが?』

『テレフォンがストリーマ』

『汚ねぇ花火だぜ』


 木っ端微塵だなぁ。

 素材、手に入る?


 あ、出た。

 残るんだ。


 肝心のストレスの方は、微妙?


「ん-、私には合わないかな、このストレス発散方法」


 これなら本読んでる方がいいや。


 あー、早くまともな戦いになる守護者出てこないかな?


 でも、前より動きに無駄が無くなってる感じはする。

 古武術の巻物とか現代武術の指南書とか読み漁ったお陰かな?


 どこかの掲示板で教えて貰ったやつ。

 古武術の方は一つ一千万spもしたけど……。


 まあいいや。

 時間は、夕方くらいか。


「良い時間だし、切りも良いし、配信はここまでかなー?」


『おつハロー』

『お疲れ様でした』

『検証提案だけど、守護者ってすぐリポップするのか? ここで一晩休めたりしない?」

『検証提案スレありますよ。っ【検証提案用】』

『おつおつー』


 ふむ、検証。

 たしかに、ここで安全に休めるならそれがいいよね。

 次の人が待ってたら邪魔だけど。


 いや、守護者スキップ出来るなら有り?


「ん-、じゃあ今日はこのままここに泊まるかな。配信自体は切っちゃうから、結果報告はスレッドと明日の配信で!」


 ダメでも守護者の部屋前後で数人なら休めるけど、使い道はあると思うし一応ね。


『残念、ハロちゃんの寝落ち配信は無しか』

『全裸待機してる』

『はーい』


 寝落ち配信を聞く余裕、あるのかな……?

 いや、ここに来ている人なら検証で貰ったspで余裕出来てる?


 けっこう色んな事が分かったから、それだけsp入ってるんだよね。


「今のところ寝落ち配信はする予定ないよ。それより、夜はダーウィンティーさんの配信があるらしいから、そっちに行ってらっしゃい」


 夜はゆっくり寝たいし、寝落ち配信なんてしません!

 惰眠を貪るのだ。


 よし、それじゃ終わろう。

 終了っと。


 リザルトは、累計視聴時間およそ一億千八万分、総視聴者数約三千八百万人、総コメント数が十六億強。

 獲得spは千百万くらいだね。


 コメントは検証が多い方が加速するみたい。

 スレッドもスレッドで加速してる。


 まあ私は気にしなくていいか。


 兎も角、古武術の巻物代はとりかえした。


 お、ダーウィンティーさんの配信が始まった。

 今日は配下の能力検証かー。


 ご飯食べながらのんびり見よう。


 っと、その前に。


「来い、夜墨」


 私が発した言葉に反応して、力が動く。

 ぼんやりと発光する白の魔力が形作ったのは、幾何学模様。


 これは、魔法陣だね。

 へぇ、カッコいい。


 地面に水平なその中央から何かが浮かび上がってきて、鎌首をもたげる。


 小さくなった夜墨だ。

 初めての召喚は上手くいったみたい。


「今日はここで食事か」

「そういう事。何がいい?」


 たぶん何でもいいって言うけど。


「何でも。ロードの好きなようにするが良い」


 ほら。

 ん-、それじゃあ何にしようかなぁ。


 あ、ハエトリ擬きのお米が少し安い。

 アイツがいる迷宮内だからかな?


 本当に少しだけだけど、せっかくだしこれ使おう。


 ご飯に合うものってなったら……。


「カレーかな」


 そうと決まれば、これとこれと、あとこれと……。


「今日はちゃんと作るから、のんびりしてて」

「ああ」


 実を言えば、直前に討伐した人が中にいる間は守護者は出てこないと知っている。

 これがまったく別の人だったら出てくるらしいけど。


 だからのんびり料理できるわけです。

 まあ、出て来るなら出てくるで瞬殺するだけだけど。


 私の食事の邪魔はさせないよ?


 よし、お米の準備完了。

 今回は浸水して炊いてみる。


「じゃあカレーだね。まずは適当な大きさに切ったタマネギをバターで炒めます」


 半透明になってきたらお肉を投入。

 今回は鶏もも肉です。


 ちょっと強めの火で表面を焼き上げる。

 軽く焦げ目がつくまでかな。


 その間に別で人参とほうれん草を茹でます。

 これくらいなら空中に水球を浮かべた中でやればいいや。


 ほうれん草を茹でてる方のお湯には塩を一つまみ。

 カレーだし、色見を良くする必要は無いかもしれないけど。


「ジャガイモも入れちゃおうか」

「変わるのか?」

「保存を考えたら、傷みやすくなるから別にして食べる時に入れる方がいいんだよ」


 今回は今日と明日の朝で食べきるつもりなので。


 ほうれん草はもういいね。

 お湯から出して、適当に切っておく。

 人参も、これくらいなら良いか。一口大かな。


 具材はゴロゴロが好きです、はい。


 鍋に纏めて入れて、水と赤ワイン、それからコンソメの他出汁を適当に。


「暫くこれで放置。ウィンテさんの検証はどんな感じ?」

「今は、配下の眷属が他の者を眷属にした場合の検証中だな」

「ほー。ていうか人柱、また増えたんだ……」


 あ、本当だ。知らない人たちが。

 皆よくやるなぁ。


 ふーん?

 伯爵でも子爵でも、生み出せるのは男爵までかぁ。


 ちなみに、吸血鬼の位は公侯伯子男と続いてその下に騎士爵と称号無し、いわゆる平民的な位がくるらしい。


 ん、カレーの方はそろそろいい感じかな?

 うん、いい感じ。


「じゃあカレールー入れるねー。夜墨、辛いの平気?」

「ああ」


 ほいほい。

 これで実は甘いものが好きな夜墨さんだけど、辛いのもいけるのね。


 使うルーは二種類。

 けっこうスパイシーなやつと、マイルドだけど濃厚な奴。


 どっちも中辛。


 お米もそろそろ火にかけよう。

 浸水してるので前回より短時間で出来る筈。


 あ、そうか、このお米か。


 じゃあカレー粉追加。

 さっき入れた二つのルーの中間位の味で。


 お米の味がめちゃくちゃ強いから、普段よりカレーの味も重めで。


「隠し味はどれにしようかなぁ」


 ん-、チョコと、ケチャップ、それからソース。

 あ、和がらしもいこう。


 辛子を入れたらガツンと来てすーっと消える辛みになるのでお気に入りなのです。


 忘れるところだった、はちみつ。

 コーヒーは今回は良いかな。


「これでお米が炊けるまで煮たら完成かな」

「ふむ、なかなか強い匂いだな」


 たしかに。

 前より強く感じるのは確かだね。


「だめそ?」

「いや、問題ない」


 良かった。


 あ、ワンストーンさんが侯爵になった。

 流石というかなんというか?

 

 ふむふむ、侯爵でようやく子爵を生み出せるようになると。


 公爵なら伯爵を生み出せるのかな?


 まあいいや。


 さてさて、早くご飯炊けないかなー。

 楽しみ。


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