第27話 暴れる魔人たち

 いやー、我が家快適すぎない?


 長時間座っても疲れない翡翠色のソファに寝転がって、朝日を明かりに本を読む。

 傍のローテーブルにはダージリンベースのアールグレイ。


 ホント最高です、はい。


 この光が魔法的に再現されたものか空間歪曲か何かで通されてる実際の光かは知らないけど。

 そもそもココ、下へ下へと進んだ迷宮の奥底だし。


 む、紅茶に手が届かない。

 尻尾……はまだ力加減が不安。

 よし。


「夜墨ー、紅茶とってー」

「溢すなよ」

「ん、ありがとー」


 どうやって取るのかなーって見てたら、魔法で浮かせてだった。

 夜墨自身は足元でトグロを巻いたまま。


 そか、魔法で取ればよかったんだ。

 次からそうしよ。


 はー、ホント素晴らしい生活。

 前回の配信から一週間近く経ってるけど、快適すぎるのが悪い。


 あと絶影くん。

 毎回絡まれるのは面倒。


 まだあの辺でウロチョロしてそうだし、のんびり嵐が過ぎ去るのを待つのです。

 決してspが十分あるからってサボってるわけではありません。


「む」

「んー? どうかした?」


 今日も律儀にスレッド管理をしてくれていた夜墨が訝しげな声を漏らした。

 何かあったのかな?


「渋谷で魔人の集団が暴れているらしい。助けを求めるコメントがあった」

「ほー?」


 魔人の集団ねぇ。

 となると、結構殺されちゃったのかな。


 龍になった事もあってか、今更見ず知らずの人間が何人死のうとそんなに気にならない。

 正直、あの女の子の時にあれほど苛立ったのが自分で不思議なくらい。


「じゃ、サクッと行きますか」

「ああ」


 けどまぁ、私のスレッドで助けを求めてるって言うなら行きますよ。

 無視する理由も無いし、ちょっと気になるし。


 本に栞を挟んで立ち上がり、軽く伸びをする。

 凝り固まるなんて中々無い体だけど、癖なんだよね、昔からの。


 迷宮の入口に転移して上空に向いながら、私も件のスレッドを確認する。

 夜墨の私が向かうって返事の後にはお礼と急いで欲しいというコメントがいくつか。


 けっこう切羽詰まってるみたい。


 あ、シマを荒らされて私が怒ってるんじゃないかってコメントが……。

 私、別に任侠一家とかじゃないよ?


「そういえばさ、私ら龍って逆鱗あるの?」


 怒るで思いだしたので横を飛ぶ夜墨に聞いてみる。


「あるぞ」

「へぇ、どこ?」


 元の大きさに戻った彼の頭に腰掛けると、景色が物凄い勢いで後ろへ流れ始めた。


「物理的なものではない。特定の物事だ。地雷と言った方が分かりやすいのではないか?」


 なるほどね。そういう感じ。

 私の地雷ってなんだろ?


 ん-、って、もう渋谷。

 相変らず早いなー。


「ん-っと、あれか」


 確かに、渋谷のハチ公前広場辺りで暴れまわってるやつらが見える。

 数は、不思議な事にこの前私を取り囲んできた絶影君一派と同じだ。


 なるほどね、それであの日、渋谷の血の匂いがいつもより濃かったのか。

 これは、人間視点だと失敗したことになるのかね。


 まあいいや。


「じゃ、行ってくる」

「ああ」


 どんどん近づいてくる地面。

 減速は、今回は良いか。


 着地、と同時に轟音が響いて、魔人たちに私の到着を知らせる。

 多少砂煙が舞っているけれど、互いを目視するには十分。

 彼らの視線が私に集まる。


「やあ、私が来たよ」

「は、ははっ、待ってたぜ」


 ん、この気配と口調は絶影君か。

 蛇の体に、人間の胴、頭はイノシシで、腕は触手? いや、ヒルかな。


 安定の気持ち悪さ。

 他の面々も似たようなキメラ。


「すげぇだろ! どうだ強くなった俺は! お前と同じ龍だブス!」

「いや蛇でしょ」


 おっと思わず。


「龍だ!」


 あー、はいはい。

 分かったから顔を真っ赤にして腕を振らない。


「アニキにも褒めてもらったんだ!」


 まーたアニキ。

 さてはブラコンだな絶影君。


「でさ、さっさと帰りたいから暴れるのやめてくれない? そしたら見逃してあげる」

「あ? 何言ってんだブス。もう俺たちの方が強ぇ」


 いや、何言ってるはこっちの、ってこの目は本気ですね。


 ここまで来ると一周回って尊敬しちゃう。


 でも、そっか。

 聞き入れないかー。


「じゃ、死んで」


 槍を取りだし、周囲の力に干渉するようにして振るう。

 根源的な感じのするこの力こそ魂力らしいけど、これは魔力と違って感知に少しコツがいる。


 何も知らない彼らじゃ、アッサリって、お?


「へぇ、勘の良いのもいるじゃない」


 半分はそのままスッパリ真っ二つになったけど、残りの半分は避けたり頑健さで耐えたりで無事。

 絶影君は、近くにいた勘のいい奴に助けられたね。


「な、う、ブスてめぇ何しやがった! チートか!?」

「そうだよ」


 次は断言するって決めてたからね。

 有言実行。


 研鑽の上にあるものではあるけど、絶影君たちみたいなのからすればズルはズルだろうからね。


 あ、真っ二つにしたやつら、何人かは生きてるね。

 しぶとい。


「死ぬならちゃんと死んでくれないと困るんだよ」


 追撃がめんどうで。


 と言いつつ、魔法でしっかり焼く。

 よし、消し炭。


「お逃げください。今あの龍と交戦すればあの方に怒られるだけでは済みません」

「あ、アニキ……。分かった」

「足止めは、あ奴らに任せればよいでしょう」


 お?

 種族変化で状況判断が出来るくらいには頭が回るようになった人かな?


 ていうかアニキさん出したら言う事聞く絶影君、ブラコン確定じゃない。


「まあ、逃がさないけど」


 槍を逆手に構え、投げる。


 亜音速で飛翔する槍だ。彼らくらいにはすぐに追いつく。


 と思ってたら、想定よりもかなり早く槍が轟音を立てた。

 

 ち、やたら丈夫なのに受け止められた。


「クハハハ! 貴様の槍など屁でもないわ!」


 亀とゴリラのキメラ?

 でも複眼。


 なかなかの気持ち悪さ。


「あっそ。じゃあ蹴る」


 なんか言ってる間に一足飛びに詰め、踵落とし。

 片足になってバランスが悪くなるのは、人間の話だよ。


 私には尻尾があるから、この体勢でもしっかり体重を乗せられる。


「ガハッ……!」

「頭も硬いとか……」


 思い切り地面に叩きつけたから、肺の空気が抜けたみたい。

 本当はそのまま頭蹴り砕くつもりだったんだけどな。


「死ねっ、女狐!」

「それ言いたいだけでしょ。私龍だし」


 止めを刺そうとしたら、後ろから蠍と蜂と蜘蛛と蜥蜴が合わさったような一応人型が襲い掛かってくる。

 なんか、蜥蜴要素あるの嫌なんだけど。


 サクッとやろう。


 勘のいい一人だったので、そんなの関係ないくらい早く尾で突き刺す。

 一応避けようとはしたみたいだけど、残念。


 狙い違わず顔面に穴を開けてやった。


 そのまま手元に呼び戻した槍で亀ゴリラの首を刎ねる。


 げ、まだ生きてる。

 じゃあ雷ちゅどーん。


 よし。


 あとは、様子見をしていた二人か。


 じりじり逃げようとしてるね。


 ん?

 絶影君と連れの勘がいいやつ、カメレオンと蜘蛛と犬が混ざった感じの魔人の気配が消えちゃった。

 逃げられたかな。


 逃げられたなぁ。


「あーあ、逃げられちゃったじゃん」


 まったく面倒な。

 とりあえず、アイツら斬るかな。


「化物め……」

「自分らの方がよほど化物な見た目してるよ?」


 ん、逃げるの諦めたみたい。

 戦闘態勢だ。


 じゃ、遠慮なく。


「ほっ、よっと。はい、終わり」


 毎日ちゃんと訓練してるんだから、前より上手く、早く動けるようになってますよ、そりゃあ。

 

 伸び幅はえげつないだろうね。

 なんせ、前に魔人と戦った時点で技術はほぼ初期値だったし。


 唐竹に割れて崩れていく魔人たちは放っておいて、夜墨の待つ上空へ向かう。


 あ、そうだ。


「もう大丈夫だよー。頑張って生きてねー」


 私の収入源になるために!


 さ、帰ろう。

 絶影君は知らないっと。


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