第17話 実食、迷宮飯!
⑰
近くに丁度良い袋小路の小部屋があったので移動。
入口は大岩を交換して塞いでおく。
五spだって。
『魔法の岩じゃダメなん?』
『迷宮内だとすぐ魔力に分解されるからな』
『外でも一定時間経ったら消えちまうぞ。詳しくは【砂漠で水が簡単に手に入る!?~魔法で三分間クッキング!】参照な』
『はえ~、サンガツ』
元からあるものを操って作ったものなら残るんだけどね。
ていうかスレ名、皆好き勝手付けすぎじゃない?
これ、後で何が何か分からなくなりそう。
「それじゃ調理していこうかな。この米っぽいのはとりあえず脱穀するとして、誰かハエトリ草の食べ方知ってたりしない?」
『知らない』
『ハエトリ草ってそもそも食べられるの?』
『ウツボカズラに米詰めて炊く料理なら知ってるんだが』
『え、ナニそれ』
『サボテンっぽいしそっちの感じで行けませんかね?』
まあ、そうだよねー。
んー、どうしよ?
考えながら脱穀はしちゃおうかな。
空中に保持しながら風でミキサーしたらいける?
お、いけた。
「サボテンかー。じゃあそれ採用で」
『ウツボカズラ飯はー?』
『消化液とか大丈夫か?』
『ハエトリ草と一緒ならアミノペプチターゼとかその辺の酵素だった気がするので、最悪火を通せば大丈夫かと』
『酸性フォスファターゼもあった気がする。酸性になるやつ』
灰混ぜたらどうにかなんない?
んー、灰汁抜きも兼ねてやってみようかな。
「とりあえず調理器具が要るね。一旦鍋と、飯盒?」
どっちも三千spで意外と安いけど、他の人には痛い出費かな?
『三千……。迷宮に潜る時に持ってくなら持参だな』
『ねえウツボカズラ飯ー』
『だな、三千は痛い』
ちょうど籾殻があるし、これ灰にしよう。
燃やしつつーの、交換した水と一緒に鍋にぽい。
「色々試したいし、全部は使わないでおくね」
そもそもけっこう大きいから鍋に入りきらないんだよね。
魔法の火にかけて、沸騰待ち。
茹でるように鍋はもう一セット用意しておこうかな。
あ、米ぬかも出るのか。
こっちも試してみよう。
鍋追加―っと。
『これは普段から料理してる人だな』
『ハロたんの手料理!? ガタッ!』
『ウツボカズラ飯……』
『魔法の使い方が器用』
『比較用に灰汁ぬきしないのも作って欲しい』
「確かに、比較は必要だね。もう一個ぼちっとな」
ていうかやたらウツボカズラ飯を勧めてくる人がいるんだけど、なんなんだろ、この熱量……。
ん、お米っぽいのはいい感じかな。
糠は鍋に入れて、ハエトリ擬き投入!
水のみの方も入れちゃおう。
で、お米は飯盒に入れて、お水もオッケー。
「始めちょろちょろ中ぱっぱ、赤子泣いても蓋とるなってね」
『名にその歌』
『炊飯器使わずに炊く時の火加減を歌ったやつですね』
『今時の子は知らないのか』
『これからは沢山世話になるだろ。覚えておけ―?』
さて、お湯が沸騰するまでそれなりに時間が要るし、ステーキも試してみようかな。
牙と皮を剥いで、中の赤い部分は、有りと無し両方行こうかな。
フライパンも、三千spね。
「お湯沸騰したね。こっちもハエトリ擬き投入!」
十秒か二十秒くらいでいいかな?
一応時間ごとに用意しようか。
「ステーキは良さそうかな?」
『お、いよいよ』
『美味いと良いんだけど』
「それじゃ、赤いとこ取り除いた方から。いただきまーす。……にっが! エグッ!」
ダメだこりゃ。
少なくともそのまま焼くのは無しだね。
「こっちも苦いのは分かってるけど、一応……すっぱ! しかもなんか口の中チクチクする」
『そのままはダメ、っと』
『灰汁抜きが要るな』
『苦いのってわんちゃん毒?』
『あり得ますね。龍のハロさんじゃなかったら危険かも』
『え、じゃあウツボカズラ飯もだめ……?』
『ダメじゃね?』
あー、毒かー。
確かにその可能性もあった。
龍に効くような毒はこんな低階層じゃないと思うけど。
「とりあえず、タンパク質系の毒じゃないみたいだね」
火を入れても変質してないから。
「こっちの灰で灰汁抜きしたやつもちょっと齧ってみようか」
と、その前に米ぬかの方を上げておこうかな。
よし、これで大丈夫。
水洗いは、魔法で出した分でいいね。
「んー、十秒のはまだダメだね。割とえぐい。あ、でも苦味が殆どなくなってる。そうすると水溶性の毒の可能性があるか」
『ほー、なるほどな』
『本当に毒なら薬が作れる可能性もあるし、だれか検証よろ。ハロさんじゃたぶん参考にならん』
それはそう。
人間の人よろしくー?
「うん、三十秒したら大丈夫そうだね。これなら
実食実食。
「よし、大丈夫そう。ていうかこれ、割と美味しい? 甘みの強いアスパラみたいな」
『ほー、いいな。天ぷらとか合いそう』
『迷宮内で?』
『持ち帰ってに決まってんだろ』
『それもそうか』
『天ぷら……お酒が進むやつじゃん。飲みてぇ……』
『ふふふ、うちにはまだ日本酒が残ってるんだな! 今酔うのは怖くて飲めんが』
感覚鈍くなるだけでも怖いよね、今は。
アッサリ死んでもおかしくない。
そういえばウツボカズラ飯の人、コメントしなくなったね?
そんなにショックだった?
「灰汁抜きしたやつも焼こうかな。赤い部分の酸味も抜けてたし、牙みたいなのと皮だけ剥げば良さそう」
んー、このままでも美味しいんだけど、あれ欲しいなぁ。
よし、ちっさいの交換しよう。
『あ、マヨネーズ交換してる!』
『いいなー。アスパラの味にマヨとか絶対あうじゃん!!』
『うっ、抑えていた禁断症状が、、、』
『厨二マヨラーはかえってどうぞ』
ふふふ。
羨ましかろう!
「んー! 美味しい! マヨの酸味とハエトリ擬きの甘味が超合うね。もう少し塩気があってもいいかな?」
『美味しそうに食べるなぁ……』
『くそ、ヨダレが、、、』
『さっき朝飯食ったのに』
これは帰りにいくらか追加入手確定かな?
天ぷらにして日本酒と食べるんだ。
「あ、飯盒、水噴出さなくなったね。どれどれ……」
『炊き中の飯盒に直接耳当ててる……』
『龍だもんなぁ、熱にも強いんだろうな』
その通りですよ。
これぐらいはね。
たぶん、ブレスしてる時の口の周りの方が熱い。
「ん、炊けてる音だね。逆さまにして蒸らしておこうか」
その間にステーキをもう少し。
糠の方が甘味しっかり感じて美味しいかな。
「野菜の甘い匂いがけっこうするから、索敵の意味では注意した方が良さそうだね」
『そもそもハロさんみたいに迷宮の中で料理できるんだろうか……』
『きびい気がする』
『少なくとも洞窟じゃ怖いよな』
まあ、迷宮内でどれだけ食事しなきゃいけなくなるかもまだ分からないし。
spの獲得手段も色々分かってきて、今じゃ普通の人でも千くらいは稼げるようになってきてるみたいだからね。
食料品の交換に必要なspがどこまで上がるかにもよるけど、迷宮内の食事は糧食を交換してって方が主流になるかもね。
「そろそろご飯いけるかな? お、良さそう」
おこげもバッチし。
久しぶりに飯盒使って炊いたけど、上手く出来た。
『うわ、天才的』
『絶対美味しいやつ』
『いいなー』
『あ、島根の大社町周辺に住んでる人、うちの店まだ飯盒あるから、千spで譲るよ』
『なん、ダト、、、!?』
『むかいまー』
『待って配信でこんな地元出身の人いるの初めて見た嬉しい』
なんか商売始めた人が……。
まあいっか、こういう情報も必要だと思うし。
「はいはーい。スレッド立てたから商売の話はそっちでねー」
『地名ごとのフォルダと店専用スレッド作れるようになってんだが』
『有能か?』
『検索性神』
だってめちゃくちゃ多いでしょ、お店。
そんな事よりだよ。
メインはこっち、ご飯!
ちゃんとジャポニカの白米で匂いもよく知ったあれ。
むしろ濃い?
「いただきます!」
思わずもう一回手を合わせちゃった。
でも仕方ないよね、こんな美味しそうなお米なんだもん。
「ほっ……」
『あ、固まった』
『こんな恍惚としてるハロさんが見られるとは……』
『なんでクリップ機能がないんだ!!』
『せめてスクショ! 画面録画!!』
ハッ!
危ない、ちょっと飛んでた。
いや、なにこれ、美味しすぎるでしょ。
甘みも、香りも、今まで食べたどんなお米よりも良い。
米どころ出身で市場に出たらかなりの高級米を日常的に貰って食べてたような私でも、これ以上は知らない。
え、こんな低階層で?
よくあるパターンだと、下の階層程美味しいのが手に入るよね?
え、なんでうちの迷宮は食材になりそうなのいないの?
いや、蜥蜴ならいける?
『ハロさーん?』
『ハロたんhshs』
『ハロさん帰ってきてー』
『また意識飛んでね?』
「あっ、ごめんごめん。ちょっと思考の海に沈んでたよ」
配信者的には今の沈黙はよろしくないね。
戦闘中でもないのに。
反省反省。
「で、感想、要る?」
『いや、もう十分伝わった』
『プレゼント企画まだですか?』
『ちょっと迷宮行く準備してくる』
『ウツボカズラ飯は?』
『まだ諦めてなかったんかい。』
さすが日本人、美味しい物には目がないみたい。
そういえばヨーロッパの方の研究で、国ごとの最も幸福を感じる時を調査をしたら欧米の多くの国が性欲関連の行為の時だった中で日本は圧倒的に食欲関連の行為をしている時って結果が出たやつがあったっけ。
食い意地が凄まじいというべきか、なんというか。
私も人のこと言えないんだけどね。
龍になった今は猶更。
さてさて。
「ふぅ、美味しかった。名残惜しいけど、そろそろ迷宮攻略に戻ろうかな」
目指せ十階層。
階層守護者の間!
さっさと終わらせてハエトリ擬きの天ぷらで一杯やる!
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