第16話 本格攻略といきますか

『お、やっと攻略か』

『ずっと検証バッカしてたからな』

『前回行ったのって三階までだっけ』

『何回まで行くんですか?』


「そうだね、三階層で、次の階段までは確認してる。どこまで行くかは時間と相談かな」


 とか言いつつ、実は最初の守護者までって決めてるんだよね。

 うちと同じ構造なら、十階層目。


 ダーウィンティーさんの件でちょっと時間使っちゃったけど、まあ昼過ぎには終わるかな。

 だいたい七時間くらい?


「じゃあ迷宮に入りまーす。最初の階段はお喋りでもしながら行こうか」


『はーい』

『雑談タイム』

『うちみたいなド田舎じゃ世間話もなかなか出来ないからな、助かる』

『いくらか歩けば近所の人いるだろ。北海道の外れの方在住か?』

『いや、単に山ン中。隣の家に行くのに山超えないとだから、魔物のうろちょろしてる中行くのはな』


 あー、そっか。

 田舎の度合いによってはそうなるよね。

 私の地元くらいならそれなりに民家が連なってるけど。


「山の方は怖いよねー。平和だった頃、でいいか分からないけど、あの頃でも動物は怖かったし」


『お、ハロさん田舎出身だな!そうなんだよなー』

『夜道のシカとかやばいよな』

『わかる、あいつら、走ってる車見たら突進してくるんだもんな。車べこべこだよ』

『うわ、それどういう扱いになんの?』

『単身事故。自賠責は保険適用外』

『最悪じゃん』


 そうそう。

 私の知り合いで買ったばかりの高級車をそれでおシャカにした人いたなぁ。


「夜の山道走ってる時に森の中に小さな白い光がたくさん見えると思ったら、全部車のライトを跳ね返すシカの目なんだよね。アレは怖い」


 いつ飛び込んでくるかヒヤヒヤだよ。

 事故が起きた時にシカが可哀そうって声が上がるけど、むしろアイツらは当たり屋だから……。


「あと猿。高校の時部活に血まみれできた友達がいてさ、何かと思ったら猿と弁当の奪い合いをしたんだって。当然即保健室に連行。ちなみに弁当は持っていかれたらしいよ」


『うへ』

『田舎の山って熊以外も怖いんだな……』

『そうだぞ、ちっさいイノシシ相手でも人間なんて簡単に死ねるからな』

『だからって殺すのは良くないと思うんだ。銃まで使って、ずるい』

『何言ってんだこいつ』


 おっと、今の世界でまだこんなこと言ってる人いるんだ。

 獣も人間も、どっちにとっても不幸を増やす選択って分からないのかな。


 まあいいや、そういう話は別の所でしてもらおう。


「はいはい、エスカレートしないの。今の子は一旦別スレッドに隔離したから、お話続けたい人はそっちに行ってね」


 不毛な争いを助長する悪い女は私です。


『鬼がいる』

『あーあ、袋叩きにされんじゃね?』

『ハロさんって割といい性格してるよね』


 見えなーい。

 なんか言われてるけど私知らな―い。


 まあ、実例が色々あるからねー。

 今の子がもし子どもだとしたら、コミュニティからはじき出される前に知るチャンスがあっても良いと思っただけ。


『動物で思い出したけど、迷宮の魔物って食えるんかな?』


 たしかに、それは調べてなかったね。

 一応、解体した上で持ち歩けば魔力に分解されない事はこの前確かめたけど。


『そういや、外の魔物は食ったやつがいたな。美味いやつは美味いんだっけ』

『それ俺だな。鳥の魔物が美味かった。デカい鼠は微妙』

『よく鳥に勝てたな。ていうかよく鼠食ったな……』

『元々猟師をしてたからな』

『なるほど猟銃か』


 鳥、美味しいんだ。

 これは後で試さないとだね。

 美味しいは正義!


「まあ、丁度いいのがいたら試してみるよ。いるか分からないけど」


『たしかに ここの魔物 動物頭の人間だもんなぁ。。。」

『あれは食欲わかない』

『マズイ自信がある』


 良かった、食べてみてなんていう人はいない。

 あれはヤダ。

 絶対ヤダ。

 本気でヤダ。


 と、そうだ、食料の交換spが階層で変化するかって検証もしないとだった。


 迷宮の外じゃあ、現在地周辺で手に入りにくいもの程多くのspが必要だった。

 その理屈だと、深い階層ほど交換に必要なspが多い筈なんだよね。


「食べ物ついでに、迷宮入口時点での食料品の交換sp出しとくね。四階までは駆け抜けるつもりだから、見ておいて欲しいな」


『まだ外と同じくらいですね(渋谷駅ちかのカラオケ在住)』

『渋谷、五百ミリの水が五百spもすんの。やば』

『こっち十分の一とかなのに』

『うらやま。いやマジで』


 水は生命線だもんね。

 

 それにしても……。


「こうして見ると、ずいぶん必要なsp増えたね」


『ホントそれ。正直キツイ』

『ですね。生鮮食品は腐ってるのが増えてますし、コンビニとかも粗方消費されてます』


 やっぱり、もう街中には食べ物があまり残ってないんだ。


 これは、食料の入手手段を増やしていかないと本気で辛いね。

 インフラが死んでからもう一週間以上経つもんねぇ。


 多くの人が今日までで貯めたspなんて一瞬で溶けちゃいそう。


 あ、ノドグロの刺身、必要spが十倍近くになってる……。


「さて、一階層だ。まだspに変化なし」


 四階層までで変化が無ければ、他の人的には嬉しいだろうね。


「じゃ、行くよ。よーい、ドン!」


 洞窟みたいな内装だけど、視界は十分。

 

 軽くストレッチをした後、一気に加速する。

 

 魔力での強化は、心肺機能だけかな。

 ココだけはしておかないと、すぐへばっちゃうんだよね。

 龍になっても貧弱は貧弱らしい。龍基準でだけど。


 昔と違って鍛錬出来るだけの体力はあるから、だいぶマシにはなってきたけどさ。

 お陰で、今はこうして風のように走ることが出来る。


『早いなー』

『迷宮の中で……。索敵ナニソレオイシイノ?』

『良い子はマネしちゃいけません』

『これ、魔力使ってる?』

『戦闘中を思いだした感じつかってないんじゃね?』

『大迫力。これだけで見てられるな』


 へぇ、なんか好感触。

 全力機動、は普通の人間じゃ動体視力が追い付かないか。

 じゃあ、今度夜墨の背に乗って飛ぶだけの配信でもしようかな。


「ほい、二階層」


『だいたい五分位か』

『sp変化ナーシ』

『このスピードでってなると、普通に歩いたら十五分?』

『索敵しなきゃですから、三十分くらいで見た方がいいんじゃないですか?』

『たしかに。道が分からないとなると、一時間以上かかる見込みかね』


 まあそれくらいだねー。

 

 交換spに変化が無かったのは朗報。

 三階層でも変わらないなら大きいけれど。


 なんて考えてる間に三階層への階段だ。

 ここは上より近いね。


「三階層下りるよ」


『さっきよりかなり早いな。スピード一緒だったよね』

『たぶん。階層ごとでばらつき大きいのかもな』

『あ、sp動いた。といっても誤差の範囲ですかね。だいたい五前後ずつ』

『積もり積もれば辛いかもな』


 ふーん、そんなものなんだ。

 これが割合増加か固定値かでかなり変わるなぁ。


 ぶっちゃけ、迷宮内だけで悠々自適に暮らせるならそっちが良かったんだけど、期待しない方がいいかもね。

 配信自体は割と楽しいし、別にいいけど。


『ハロさん、しれっとすれ違いざまに魔物切ってるのなんなの』

『考えたら負け』

『ハロさんだから』

『考えるな感じろ』


 扱いが三回目の配信のそれじゃないんだけど。

 ちょっとみんな雑すぎない?


 いや、まあ楽しんでるみたいだし良いか。


「はい、四階着っと」


『今度は十分くらいかかったか?』

『それくらいかな。楽しいジェットコースターだった』

『やっぱ迷宮の中に拠点欲しいな』


 意外と本気で迷宮攻略しようとしてる人いそうだね。

 そうでなくても食い扶持を稼ぐのに迷宮を使いたい人。


 まあ、外はそんなに魔物が多いわけじゃないから、迷宮の方が安定するだろうね。

 spを稼ぐ手段が他にあまり見つかってないのもあるけど。


 その辺研究して配信してくれる人いないかな?

 スレッドの方でちょいちょい情報共有してる人はいるけど、そこまで活発じゃないんだよね。

 私の配信内容が理由かな?


 ん、あれは……。


「ねえ、あれ、美味しいと思う?」


 通路の奥の方を指さしながら、リスナーさんたちに聞いてみる。


『金の食虫植物?』

『なんで洞窟に植物みたいな魔物がいるんだよ』

『壁も天井も蔓で覆われてますね。これは、R指定される展開? Banされちゃう!』

『脳みそピンクか。だが分かる』

『垂れさがってるの、なんか稲っぽい』


 そう、コメント欄でも言っているように洞窟全体を覆うように蔓草が生い茂っている。

 そこから垂れさがっているのは黄金色の穂だ。


 私の視力だと、粒の一つまで見える。

 それがどう見ても米、なんだよねぇ。


『米なら食べられそう』

『れっつとらい』

『人柱任せた』

『ハロさんの犠牲は忘れません』


「ちょっと勝手に殺さないでくれない? まあ、明らかに罠なのは分かるけどさ』


 だって、穂の付け根がハエとり草みたいになってるんだもん。

 迂闊に手を伸ばしたらパクンだよ、きっと。


「でもそっか、食べられる前に穂だけ切ればいいんだよね」


『わんちゃん口みたいなとこもいける。ていうかいってみて欲しい』

『いくしかない』


「えぇ……」


 正直倒し方分からないから貰うもの貰って焼き払うつもりだったんだけど。


「わかった、一つとってみるよ」


 仕方ないなぁ。


 そういう訳で槍を取り出して、軽く素振り。

 この子にも名前付けようかなぁ。


 と、それは後だね。


 んー、よし!

 いきますか!


 今度は全身を魔力で強化して、一気に走る。


 まずは一番手前のひと房。

 槍を一閃して穂を切り離すと、上から捕食部分が下りてきた。


 低い階層なだけあって早くはない。

 自然落下より少し早いくらいかな。

 普通の人間でも十分に避けられそう。


『まずひと房だな』

『槍見えん』


 続けて二房目。

 けっこう奥まで続いてるから、足は極力止めないようにした方がいいかな。


 三、四、五……もうちょっと欲しい。


 八、九――


「これで最後っと」


『口の方!』


 ああそうだった。

 じゃあ今下りてきてるので。


「今度こそ全部だね。ちょうど蔓ゾーンも終わり……だけど追ってくるのね」


 じゃあ、予定通り行きますか。


 魔力を口の辺りに溜めて、一気の放出。

 威力は控えめ。


「よし、おっけー」


『8888』

『ないすー』

『gj』

『美味いといいな』


 さて、それじゃあ調理といこうかな。


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