第18話 あーそびましょー?

 そんなこんなで十階層。


 道中は特筆するようなことも無く順調に進んだ。

 あのハエトリソウ擬き以外は獣頭の魔物ばかりだったから試食会も無し。


 途中から増えたカラス頭が全身カラスだったら試してたかもしれないけど、首から下が人間じゃあね。


 正直もう一種類くらい食べられそうなのがいても良かったと思うんだけど、うまい話ばかりじゃないみたい。


「なーんか、凄くそれっぽい扉だね?」


『ボス部屋感凄いな』

『これ、金属? 外して回収できないかな』

『ここまでの感じからするとボスも余裕そうですね』


 なんか、凄い逞しく生きてる人がいる。


「この扉かー、どうだろ。ボス倒したら試してみよっか」


 金属資源はきっと有難い。


 ぶっちゃけ、感じる気配からしてもボスは余裕だし。

 一応ボスの動きとか見せた方がいいかな?


 聞いてみよっか。


「どうする? 倒すのは楽勝だと思うけど、動き見ておく?」


『んー、どっちでも』

『おなしゃす』

『サクッと倒すのもそう快感合っていいよなぁ。』

『ココいずれ挑戦したいから、見てみたいですね』


 見てみたい人もちょいちょい。

 今日はここで終わって帰るつもりだし、サクッとは次回でいいかな。


 迷宮の守護者はまた召喚されるって話だから。

 まだ皆には言えないけど。


「おっけー。じゃあ、ちょっと動き見ようか」


 じゃあ行きますか。


 厳つい黒鉄みたいな扉に手をかけて、押し開ける。

 けっこう重量あるけど、平均的な男性ならそんなに苦労しないくらいかな。


「さーて、どんなのがいるかな?」


 扉を開けてまず見えたのは、これまでと同じような薄暗い岩の空間。

 そして中央には、人間くらいの大きさの影。


 あれがこの階層の守護者かな。

 私がまだ部屋に入ってないからか、動き出す様子はない。


 そういえば今更だけど、迷宮内の光源ってどうなってるんだろ?

 それらしいものは見当たらないのに、視界には困らないんだよね。


 私が龍だからで他の皆は配信画面越しだからかもしれないけど。

 その辺は他の人からの情報待ちかな。


 まあいいや。

 とりあえず、中に入って挨拶しておこう。


 挨拶、大事。


「しゅーごしゃさん、あっそびーましょ!」


『友達んちか』

『遊びに来てますねこの人、じゃなくて龍』

『えぇ……』


 ちょっとふざけ過ぎた?

 でも、感じる気配、明らかに小物だもんなぁ。


 あ、立ち上がった。

 意外と大きい。

 私の倍くらいだから、三メートル半はないくらい?


『でっかい人型のネズミ?』

『人型っていうか二足歩行なだけじゃね?』

『ハゲ鼠感』

『目イってんじゃん』

『割ときもいな』


「目、確かにやばいね。ていうかあれ、目と手だけ人間じゃない?」


 首から下人間とはまた違った不気味さだね、あれ。

 動き見るの、短めにしようかな……。


 なんて考えていたら、背後でひとりでに扉がしまった。

 終わるまで出られないやつ?


 いや、出ようと思えば出られるみたい。

 意外とやさしい?


「ジュルァアアアアアッ!」


 ん、あちらさんはやる気十分だね。

 それじゃ、始めようか。


 まずは、足元まで踏み込んでみる。


 左腕を大きく引いて、パー!


『掴みに来るのか』

『掴まれたらやばそう。けっこう早いし』

『まだ避けられる範囲だな。予備動作も分かりやすいし、』

『ここまで来られるならそんなに怖くないんじゃないですかね』


 私みたいに自分の間合いから出ずに避けられるなら攻撃チャンスかな?


 このまま距離をキープすると?


 足が飛んでくるのね。

 その辺の素人よりは鋭い。


 けど、片足になる分さっきより攻撃しやすそう。

 軽く小突いてみよう。


「ほっ」


 左手でジャブっぽく打ってみる。


 あ、反応速度早いね。

 身を捻って衝撃を流されちゃった。


『反応は良いな』

『でも早くはないか』

『や、俺らはハロさんの速さに見慣れてるのもあるからな。実際に対峙したらもっと早く感じるんじゃないか?』

『たしカニ』


 実際、多少格闘技の経験がある人くらいの早さはあると思う。

 動物的な速さだけど、一般人ならなす術もなく狩られるだろうね。


「こんな感じでテキトーに戦ってくね。あ、分析スレッドありがと」


 なんか纏めてくれるみたいだし、ゲームの初見ボスに挑むくらいの動きを続けるだけでいいかな。


 そんなこんなで十分くらい戦ってみた。

 なんか、ある程度のパターンはあるみたい。


 最低限の自我はあるって話だったけど、対人戦よりはゲームのMOB相手って印象が強いね。


「だいたいこんな感じ?」


『あとは追い詰められた時の行動が見たいな』

『情報もうほぼ出そろった感』

『そろそろ倒していいんじゃね?』

『あ、確かに。ゲームじゃないけど、追い詰められたら動き変わるって現実でもあるよね』


 追い詰めるのかー。

 力加減難しいかも。

 こいつ、強めに殴ったらそれだけで死にそうなんだよなー。


 クリア後に初期村の辺りの敵を相手にしてる気分。


「頑張って調整してみるねー」


 槍は、一旦しまっておこう。


 狙うのは腕かな。

 一気に踏み込んで、最初に小突いたよりは強く殴る。


 これくらいかな?


「ジュルァッ!?」


 あ、一発で骨砕いちゃった。

 道中の鼠頭よりは硬いけど、誤差の範囲かな。他の人にとっても。


 もうちょっと軽く、軽くっと。


『おー、吹き飛んだ』

『巨体を蹴り飛ばす女の子っていいよね』

『わかる』


 いい感じじゃない?

 うん、いい感じに満身創痍。


 あ、目のキマリ具合が酷くなってる。

 超血走ってるよ、こわー。


 前かがみになった。

 突進かな。ここまででも何回かしてきたやつ。


 でもちょっと早い。

 片腕潰れてこれなら、四肢が無事ならもっと早いね。


 まあ横に避けよう。


「おっと!?」


 通り過ぎる瞬間に足を出してきた。

 反応がさっきまでより更に良くなってる。


 鼠大男と同じ方に飛ばされてしまった。


『ハロさん!?』

『え、まじ!?』


 コメント欄がざわついてるのが見えた。

 心配性だなぁ、みんな。


 夜墨やぼくの時みたいに高速で吹っ飛ばされたわけでもないし、全然ダメージ無いんだけどね。

 体重差があるから、吹き飛ばされるのは仕方ない。


 あ、着地点で大口開けて待ってる。

 噛みつく気かな。


 勝利を確信したような目をしてるね。


 まったく、高が最初の階層守護者の分際で。


「あんまり調子に乗らないの」


 身を捻り、食らいついてきた鼠の顔面へ回し蹴り。

 骨を砕く感触と共に、また三メートル超えの巨体が吹き飛んで壁にぶつかる。


 相当丈夫な壁みたいで、ちょっとしか凹まない。

 その分衝撃が逃げないって事だから、ぶつかった方は溜まったものじゃないだろうね。


 あ、その前に死んでるか。


『首、凄い方向に曲がってんな……』

『やばい音したもんな……』

『空中であれって、体幹凄い』


 ふぅ、討伐完了。


 少し待ってると、鼠男の姿がだんだん崩れていく。

 残ったのは、アレの牙と手のひら大の石ころ。魔石かな。


 このサイズだと、魔石(中)になるのかな?

 要らないなー。牙よりは使えるけど。


 まあ、迷宮の入り口にでも置いておいたら誰かが回収するかな。

 悪用? 知らない。

 言っても十階層の素材だし。


『お、五百sp入った』

『倒した分?』

『いや、それはそれで入ってた。合計六百くらい』


「まあまあ美味しいんじゃない? 楽に倒せるならだけど」


 あれで百spかー。夜墨倒したらどんだけ入るのかな……。

 試す訳ないけど。


 と、そうだ、ショートカット。

 次の部屋かな?


 あった、この魔法陣だ。

 小部屋の中央の床で光ってる。


 コメント欄がなんだこれって言ってるけど、説明は見せるだけでいいか。

 面倒だし。


【十階層への転移が可能になりました】


 久しぶりに聞いたなぁ、このアナウンス音声。

 コメント欄がさらに加速してるけど、知らない知らない。


 手加減って疲れるんだよ。あのレベルになると。


 そんな訳で地上に着。

 転移先は迷宮入口の階段の途中にある隠し部屋だったから、すぐ戻ってこられたよ。


 次からはここで一気に十階層まで飛べるみたい。


「さて、それじゃあ今日の配信はこの辺で終わりかな。さっき出た素材は迷宮の入り口あたりに放置しておくから、欲しかったら取りにおいで」


『お疲れー』

『お疲れ様です』

『切りいいしな』

『まだ昼過ぎか。今日は早いな』


 今日は始めるの早かったから。

 なんだかんだ六時間くらいはしてるんだよね。


「また明日、やるかは分かんないけど。私のやる気次第。またねー」


 よし、配信終了。

 からの帰宅!


「ただいまーっと」


 ふー、もうここに帰って落ち着くくらいには馴染んだなー。


 リザルトはっと……。

 累計視聴時間およそ八千二百八万分、総視聴者数約三千五百万人、総コメント数が二十億弱。

 獲得spは八百三十万くらい。


 前回より配信時間が短かったのと視聴者数が少なくなった分、減ってはいる。

 けどまあ、視聴者数は途中からかなり回復したんだよね。

 ダーウィンティーさんの件から判明したことが広まったのかな。


 ん-、まだ昼過ぎか。

 ご飯にはまだ早い時間だし、スレッドの確認でもしてよう。


 守護者、なんかワーラットって呼ぶことにしたらしいアイツの攻略情報に補足して、検証スレッドに目を通して……。


 情報は大事。


「――ふぅ、もう一時間以上経ったんだ」


 ふと時計を見ると、なかなか良い時間になってた。


 夜墨は丸くなって寝てる。

 けっこう可愛い。


 けどそろそろ起こして晩御飯を選ぼうかな。


『事件発生!』


 お?


『配信始まった! 二人目!』


 ほー。

 この人、色んなスレッドで言ってるね。


 えーっと、他人ひとの配信ってどうやって見るんだろ。

 これかな?

 これだ。


「……へぇ、ダーウィンティーさんかー」


 これは、晩御飯はもう少しお預けかな。


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