第13話 龍と龍の闘い
⑬
戦場に丁度いい島は数分後に見つかった。
東京からずっと東の沖合だ。少し離れたところにもう一つ島がある。
どっちも岩ばかりで植物は見られない。海面の下降か海底火山の噴火か、その辺りで最近出来たのかな。
大きさは大体同じくらいで、野球のグラウンドくらいはありそう。
「ここなら空も自由に使えるよね」
「ああ。私の持ち場より幾分戦いやすい」
よしよし。
さーて、今の私はどれくらい出来るかなぁ?
「夜墨、今だけは私を害する事を許す。存分に戦え。あ、でもお互い死ぬのは無しね」
「ロードが望むなら」
夜墨から飛び降り、槍を出して構える。
同時に彼が戦闘態勢に入ったのが分かった。
普段でも昨日の魔人なんて目じゃないくらいのプレッシャーだったけど、やっぱり戦闘モードってなると段違いだね。
今の私でも緊張しちゃう。
けど、口角はばっちし上がってるんだよねぇ。
私、案外戦闘狂なのかも。
「それじゃあ、始めようか。いつでもどうぞ!」
「ゆくぞ、ロードよ!」
直後、魔力の動きを感じて飛び退く。
響き渡る爆裂音。
目の前に落ちたのは青白い稲妻だ。
生み出された衝撃と放電は、普通の人間ならそれだけで死にかねないもの。
直撃していれば私だってただでは済まない。
けど、当たらなければどうという事はない!
お返しに飛散した
私からすればビルと見間違うような巨大さだけど、夜墨と並ぶと良くて果物ナイフだ。
案の定それはひと噛みで粉砕されて届かない。
「いいね」
今の攻防は、互いからすれば牽制合戦。
そうでなくては困る。
右方から彼の巨大な尾が迫ってきた。
まったく、大きさはそれだけで凶器だね。
三階建ての家の高さよりも太い尾が高速で迫ってくるんだ。
当たったらどこまで吹き飛ばされるか。
思いっきり跳べば避けられる。
けど、そこは死地だね。
飛び方を習ったばかりの私じゃ、夜墨と空中戦は荷が重い。
「だったら、こうっ!」
思いっきり魔力を込めた蹴り上げだ。
真っ黒な巨塊が跳ね上げられて頭上を通り過ぎる。
彼から見たら蟻のようなサイズの私がこんな真似をしたら、多少は驚きそうなものだけど、うん、全く動じてないね。
これは主人への信頼って事にしておこう。
続けて振り下ろされた龍の巨爪は、槍で迎撃。
互いに弾かれてバランスが崩れた。
立て直しは、私の方が早い。
下がってきた頭へ跳び、殴りつける。
「ぬぅっ……!」
苦悶の声を漏らす夜墨に向けて一直線に飛行。
もう一発!
て、やばっ!
慌てて体勢を変え、槍を盾にする。
直後にもの凄い衝撃が槍から伝った。
踏ん張りようの無い私の体が一直線に弾き飛ばされて、世界を線に変える。
ん-、あの距離を真っ直ぐなら行けると思ったけど、ダメか。
やっぱり付け焼刃はだめだね。
先ほどまで足場にしていた島が遠ざかっていくのを眺めながら後ろ向きに回転し、隣の島に足を付ける。
すぐには止まれないから、追撃封じ。
海から伸びた水の柱が夜墨に絡みつき、氷となって妨害する。
当然、こんなの一瞬の時間稼ぎにしかならない。
どうにか止まった私へ巨大なアギトが迫る。
食われたら、負け確定だね。
そんなの、許さない。
「ハハッ!」
前々から思っていたのだ。
この龍器だとかいう私の槍、魂を実体化した物なら、既存の形に囚われなくてもいいんじゃないかと。
形状はダメだった。
でも、サイズなら?
答えは、私の思うまま。
「ちゃんと避けてね!」
「っ!?」
魔力も膂力も身体操作も、全部全力の投擲。
同時に巨大化。
私の
夜墨は辛うじて身を捻ったけれど、無傷とはいかない。
右の角は折れ、胴の同じ側に一直線の紅が刻まれた。
彼は地を抉りながら旋回して私を探す。
でも、もうそこに私はいない。
「上だよ!」
声に反応して弾かれたように私を見上げる金の瞳に、今まさに振り下ろされる
殺しちゃいけないから峰の方だけど、それでもこのサイズ。この重量だ。
絶対強者たる巨龍の身体が大きく波打ち、島に、海面に叩きつけられる。
「グルゥァアア……!」
夜墨でさえ堪らず悲鳴を上げるほどの衝撃は島を沈め、大波を生み出した。
それでも尚、彼の瞳から闘志は消えない。
口内に魔力が集中するのが分かる。
「いいね、撃ち合いか!」
同じ龍として、私も応えない訳にはいかないだろう。
彼に倣い、口の辺りに魔力を集中する。
「グルァアアアアアアッ!!」
「ガァッ!」
黒と白、二つの閃光がぶつかった。
共通する金の光が周囲へ弾け、海を荒らす。
溜めの長さの分、夜墨に有利。
けど、魔力の総量が違う。出力が違う。
初めはやや押されがちだったけど、すぐに押し返し始める。
徐々にしか衝突点が動かないのは、流石という所か。
ああ、楽しい。
この戦いがか?
違うな。
この状況が楽しいのだ。
周囲を鑑みず全力を出せるこの状況が!
これだ、これを望んでいた。
この自由を望んでいたのだ。
今ならわかる。
迷宮コアは私のこの願望を汲み取って今の私を作ったのだ。
自由になれるよう、あらゆる
私の
大丈夫、これくらいじゃ死なない。
彼は私の一部なんだから。
「終わりだよ、私の眷属」
いつものサイズに戻していた
そして、彼の脳天のすぐ横を貫いた。
迷宮が何なのかは知らない。
けど、感謝するよ。
「私の勝ち、だね」
私は今、最高に、楽しい。
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