第11話 繋ぎ止めるもの
⑪
「随分大きいのね、黒龍さん」
「ロードが特別小さいだけだ」
それもそうか。
それにしても、綺麗な瞳。
気が昂った時の私と同じ金色だ。
私が迷宮の主だからだろうか。それっぽいこともさっき言っていたし。
「あなた達は、私の眷属になるの?」
「あなた達、が守護者たちを指すならそうだ。各階層にいる小物たちは己の意思すらないただの現象に過ぎない」
ふーん、やっぱり迷宮の魔物は魔法によって生み出された存在みたいね。
「他にも守護者がいるのね。また会いに行かないと」
「行く必要はない。最下層の守護者である私と違って、あヤツらには最低限の自我しかなく、基本的に持ち場を動けない」
なるほどね。
まあ、その方が気楽でいいか。
「基本的に?」
「ああ。ロードと直接契約を結べば可能だ」
「今は迷宮を介する契約になっているのね」
「話が早いな。その通りだ。厳密には、契約により迷宮がロードの眷属として生み出したのが私たち守護者だが」
なるほど、これは、もしかするのだろうか?
「ねえ、あなた、自分のステータス画面は見られるの?」
「ステータス画面?」
「そう、能力値なんかが書いてあるやつ」
「ああ、慈悲の啓示のことか。見れる」
慈悲の啓示っていうのね、これ。まあ面倒だしステータス画面のままでいいか。
「私が配信をしている時に共同管理をしてほしいんだけど、できそう?」
もし黒龍にできるなら、渡りに船だ。
妙な人間関係も社会的なしがらみもなしにモデレーター問題が解決する。
さて、どうか……。
「無理だ」
だめか……。
世の中、そう上手くはいかないね。
「そう、残念」
「すまない、言い方が悪かった。このままでは、無理だ」
お?
「じゃあどうすれば出来るの?」
「私と契約を結べば良い。迷宮との契約は、いわば私の存在を留める楔だ」
私だけでなく迷宮内の全ての生物に言えることだが、と付け加えてから黒龍は続ける。
「その楔が無ければこの世界から消滅してしまうが、同時に行動を制限する枷でもある。この場を守る以外の行動の全てを禁じられているのだ」
被造者故に可能な強力な縛り、って感じ?
「それで不満を持つことはないが、もしロードがそれ以上を望むのならこの契約が邪魔だ」
「つまり、楔となる新たな契約を結んで上書きすればいいのね」
「そういう事だ」
じゃあ話は簡単だ。
「いいよ。契約しよう。あ、この契約って私以外でもできるの?」
「いや、迷宮との繋がりを通じて上書きする事になる故、ロード以外には不可能だ」
「ふーん、ありがと」
じゃあ安心だ。
うちの子たちがどこの誰とも知れないやつに持って行かれることはないね。
「で、どうしたら良い?」
「名を」
微笑み、魔力を高めると、彼も私に倣った。
地を蹴り、彼の鼻に跳び乗る。
その額に己の額を合わせてイメージするのは、糸。強固でしなやかで、どこまでも伸びるような魂を繋ぐ糸。
「名をあげよう、黒龍。代わりに、私を助けて」
「ロードが望むなら」
互いの魔力が混じり、黒と白の暴風となって渦を巻く。
散りばめられた金が黒と白の空を照らし、灰を彩る。
私たちの魔力が形を成して絡み合い、繋がろうと蠢いて、彼と私を包み込む。
白と黒に塗りつぶられた世界で告げるのは、彼をこの世界に結び留める楔であり、解き放つ鍵。
これを渡す以上、裏切りは許さない。私の自由を制限するなら、解き放ち、世界に消えて貰う。
その意思を込めて、言の葉を紡ごう。
「君の名は、
「拝命した。我が夜墨の名に誓おう。ロードを助け、仕える従者となると」
夜墨が最後の言葉を言い終わるのと同時に、繋がる感じがした。深い、深い所で繋がる感じが。
契約、できたんだろうか?
できたんだろう。深い所に意識を集中したら、確かに彼との繋がりを感じる。
「これで私は、ロード個人の従者となった。よろしく頼む」
「ええ、よろしくね、夜墨」
私は地面に降り立ってもう一度、新しい家族に向けて笑みを浮かべた。
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