第10話 おうちの番犬
⑩
「んー! よく寝たぁ。ふわぁ……」
迷宮の奥の自宅、その寝室に設置した至上のベッドの中で目を覚まして、伸びをする。
外が見えるようにした窓からは天頂近くまで昇ったお日様が見える。
今日の配信はお休み予定だから遅くまで寝ちゃった。
でも何も言われないし、予定もない。最高!
昨日はあの魔人を倒した後も大変だったんだよね。
私もあの若頭みたいに人を殺しまくって種族変化したんじゃないかって言い出した人がいてさ。
まあ、助けた女の子が否定してくれたりあんな気持ち悪い見た目じゃないって擁護してくれる人がいたりであの場は収まったんだけど。
あれだけ人がいたら疑ったままの人もいるだろうなー。
必要なら種族名も明かしていいけど、今それをしたところで潔白の証明にはならないんだよね。
ぶっちゃけそれは別にどうでもいいんだけど。勝手に思ってれば? て感じ。
そんな事よりだ。
問題が二つ。一つは今後生きる上での不安。もう一つは、配信上の不安。
一つ目。
昨日魔人族にした質問への反応からして、アイツは魔人の始祖じゃない。
ということは別で始祖、最初に魔人になったやつがいる筈なんだ。
で、始祖。私の例を考えると、たぶん強いよね?
わざわざ称号って形で区別されてるんだし、可能性としては十分あると思う。
体力に関しては始祖じゃないあいつにも負けてたから、ちょっと怖いんだよねー。
アレと似た様なのが魔人になってる可能性が高いし、これだけ目立ってたら戦う事になっても全然おかしくない。
レベルは上げないとかなー? まだ十レベくらいだし、そんなにかからないはず。
一応能力値は隠しておこうかな。
小物は突っかかってくるかもだけど、頭の回る強者に情報を与えるよりは良い。
二つ目。
昨日戦いながら思ったんだけど、ちゃんと戦いながらじゃコメント欄あんまり見られない。
昨日みたいに立ち止まってよそ見してても問題ない相手ならいいけどさ、そうで無かったら最悪命と天秤にかけないといけない。
でもあんまり変なのは排除していかないと、まともな人たちが寄り付かなくなっちゃうから……。
「やっぱりモデ、必要かなぁ……」
でも人間関係、しがらみ、面倒……。
その辺をクリアできるのがいたらなぁ。AIとか。
おっと、忘れるところだった昨日のリザルト。
累計視聴時間が約一億二千七十四万分、総視聴者数三千八百万、コメント数が二十二億くらい。
つまり、千二百万sp以上の収入だ。
これ、もう暫く配信要らないのでは?
いや、でもなぁ。
最近ますます交換に必要spが増えてるんだよねぇ。
それだけ物が手に入りにくくなってるって事なんだろうけど。
とりあえず、家はもうちょっと拡張するとして、あとどうしよう?
とか考えてたら、ふと迷宮に続く扉が目に入った。
開けっ放しは落ち着かないから扉を付けたんだけど、あの先にいけばこの迷宮の守護者、つまりは私の家の守護者がいるんだよね?
んー、番犬にはちゃんと挨拶しておくべき?
しておくべきかー。
守ってくれてるんだもんなー。
私の迷宮だから、人型の霊体かドラゴンなんだろうけど。
どっちかな? アンデッドはやだなぁ。
完全な姿ならいいんだけど、下の階にいたのはスプラッタなのとかも多かったんだよね。
あ、差し入れとかいるかな?
面倒っちゃ面倒だけど、どこかに買いに行かないといけない訳じゃないし。
んー、霊体でも龍でもどっちでもいけそうなやつ……。
そもそも知性があるかわからなけど。
まあ、このお肉でいいか。霊体でもお供え物的な。A5ランクだってさ。
グラム千spでも気にしなくていいのは嬉しい。五キロあればいいかな。
そんなわけで、滅多に使わない玄関の扉を開け、いざ迷宮へ。
この迷宮自体が家みたいなものだから引き籠ったままとも言えるんだけど、気にしたら負けだ。
初日に見た木の階段を昇り、灰の石の廊下へ。
やっぱりちょっと城の中っぽい。
この先に、私の番犬、迷宮の守護者がいるはず……。
緊張は、特にしてない。
不安もなし。
いつもの調子でいつも通り歩いて、廊下の突き当りに。
そこにはやはり木で出来た階段があって、直ぐ上が天井になっていた。
えっと、この辺にボタンがあったはず……。
これだ。
迷宮のコアから得た知識を元に開閉ボタンを押せば、天井だった部分が静かに開いていく。途端に感じる、強い気配。
これは、なるほど。
迷宮の守護者なだけある。
昨日の魔人なんて目じゃない位に強い。
「ようやくか」
階段の先から聞こえてきたのは、脳に直接響く男性の声。若いとは決して言えないだろう。おじさんの声、とも違う。けど、落ち着いた声音だ。
「なんだか待たせちゃったみたいだね。ごめんよ」
階段を上りきって守護者の間に入る。正面に入口の扉があるかと思ったけれど、なにも無い。真っ黒な壁のみだ。
床は、暗い赤のカーペット。ますます城の中みたい。
「いや、怒ってはいない。そもそも、私はロードに仕えるもの。そのような感情を抱けないように作られている」
ロードね。案外ですんなり受け取れるものね。
「ふーん。それはいいけど、そろそろ姿を見せてくれない?」
「姿なら初めから見せている」
「え?」
そうは言われても、前後左右黒い壁で……まさか。
はっとなって見上げると、金色の瞳で見下ろしてくる、黒く巨大な東洋龍の頭があった。
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