第9話 龍の力

「おーおー早いねぇ。でもそれ位ならどうとでもなるなぁ」


 返事は返さず槍を一閃。二人の首を飛ばす。


「おめぇら、何してんだ応戦しろや!」


 男の発破で強面たちが武器を構えるけど、遅い。


 左手を掲げ、周囲の礫を浮かせ飛ばす。それだけで四人がハチの巣になった。


「んなことも出来んのか、魔法ってのは」

「くそぉ! これでもくらいやがれ!」


 拳銃を持っていた男が自棄っぱちのように銃を乱射してきた。

 でもあれは大丈夫。


 何発かが胸や腹に当たるけど、少し痛いだけ。

 龍になった私には効かない。


 無視をして、別のやつの顔面を貫いた。


「ちっ、役立たずが」


 ボスの男が銃を乱射したやつに近づいていく。

 何をするつもりだ?


「お前は俺の糧になるしか出来なさそうだな」

「ひっ、アニキ、ゆるしっ……」


 嘘でしょ。この状況で味方を殺す?

 レベルアップがあるとはいえ、それで上がる能力なんて微々たるものでしょ。


「またレベルが上がった。どんどんお前の勝ち目は無くなっていくぜ?」


 そう言いながら、アニキと呼ばれた男はまた別の銃もちの味方の方に近づいていく。


「お前、たしかチャカしか持ってなかったよな?」

「え、アニくぃぅあっ……!?」


 銃が効かないからレベル上げに利用するとか、こいつ、本気でやばいやつ?


『思いだした、こいつ、渋谷の駅周辺を取り仕切ってる奴らの中で一番やばいって噂のやつだ』

『あれか、暇つぶしに女子供を殺して食ってるってやつ』

『ただの噂じゃなかったのかよ……」


「ハハッ、またレベルがあ、ガッ……!?」


 コメント欄にドン引きしてたら、アニキとやらが急に苦しみだした。あいつの身体に内包されている魔力が、膨れ上がって暴れている?

 さらには身体が鈍く光りだした。いったい何?


「テメ、ェ、何し、やが、た……!」

「知らないって」


 こっちが聞きたいくらいだ。

 強面たちもどうして良いか分からないみたいで、棒立ち状態。


 丁度良いので画面外でもう数人魔法で氷漬けにしておく。

 こいつらを生かす価値は無いし、生かして力を付けられては危険だ。


 なんてしている間にもアニキの変化は続く。

 ボコボコと彼の体が膨れたと思ったら更に膨張しながら変化していく。


 感じる力も増していくが、迂闊に刺激してはそのまま爆発してしまいそうで手が出せない。


『なんだこれ』

『気色わる』

『やばくね?』

『逃げた方が良くないですか?』

『ふざけんなここ私のとこからそんな離れてないんだよ!』


「これを放置する方が問題でしょ」


『さすがハロさん!』

『お気をつけて!』

『頑張って!』


 幸い、ここで叩く分にはあまり周囲を破壊しなくて済む。

 ちょっと位本気を出しても大丈夫だろう。


 アレの形が定まってきた。

 一言で言えば、異形だ。


 家庭用の車サイズで蜘蛛の足を持っているけど、胴は多分、犬科のそれ。そこから触手のような尾が何本もの伸び、犬なら頭がある位置に鋭い牙が並んだ円形の口が付いている。

 その上には、人間の上半身。腕は毛むくじゃらで、チンパンジーみたい。


 以前の面影と言えば、顔だけかしら。

 左手が刀になっているのも、青龍刀を取り込んだ結果と見れば面影ではある?


「魔人、か……。ハハハハハ! 素晴らしい! 素晴らしいぞ! 力が溢れてくるようだ!」


 魔人……。何が条件か分からないけど、種族変化の条件を満たしてしまったみたい。

 アレの言う通り、人間だった頃とは考えられない位強い気配だ。


 中空を見ているのは、ステータス画面を確認しているんだろう。

 と思ったら、アニキが動いた。


 早い。

 そのまま、生き残っていた強面たちに足を突き立て、或いは尾で絡めとって絞め殺す。


「これが体力Sか。それに魔力B。姿はあまり好みではないが、仕方あるまい」


『体力Sって、ハロさんよりやばくない?』

『たしか体力Aって言ってた』

『魔力のBも相当だぞ』

『やばいやばいやばいyばばい』

『ハロさんいいから逃げて!』


 コメント欄が阿鼻叫喚。

 みんな逃げてって、言ってくれてる。


「ねぇ、一つ聞いていい?」

「なんだ、哀れな獲物よ」


 元々気が大きかったみたいだけど、いよいよ酷いね。


「あなた、始祖?」

「始祖? そうだな、この俺から魔人が始まったという意味では、始祖であろうな」

「ふーん、そっか」


 本当は色々聞き出したいけど、そうはいかないか。

 そろそろ心配コメントが凄い事になってるし、終わらせよう。


「気が変わったか?」

「まさか? 変わるわけないでしょ」


 私の意思は、最初から一つよ。


「いくよ、化物さん」


 槍を消し、ここまで使っていなかった魔力の強化を発動。巨体の下に潜り込んで思いっきり殴り上げる。


「ぐぼぉぁっ!?」


 宙に浮いたところへ更に蹴りを叩きこみ、ビルの高さまで打ちあがった所に再び出した槍を投擲。

 愛槍が一筋の線になって魔人に突き刺さる。


 それでも勢い衰えず、さらに上へ。


「ずっと使ってみたかったのがあるんだよね」


 魔力を高め、最高点に到達して落下を始めた的を真っ直ぐ見据える。


 徐々に近づいてくる黒。

 人の視力ならまだただの点だろう。


 けど、私にははっきり見える、

 恐怖に歪んだ、クズ野郎の顔が。

 

 魔人の口が動くのが見えた。


 化物、か。

 ふふ、正解。

 生憎私は、人間じゃなくて人龍。ドラゴンなんだ。


 僅かに口角を上げ、溜めた力を解き放つ。


 瞬間、渋谷が私の色に染まった。

 金の光が混じった白い奔流が空気を貫き、天を穿つ。


 魔に見入られた人の成れの果てを飲み込んで、ひたすら高く。


『ブレスキターーーーーーーーー!!!』

『ブレス!?』

『ドラゴンブレスかっこよ!』

『やば、めちゃ綺麗』

『眩し!』

『うお、ほんとに渋谷の方に見える!』

『ハロ様まじハロ様』


 衝撃で割れたガラスが周囲に降り注ぎ、キラキラと光を反射する。

 そこに映っていた私の瞳は、魔力に混じったそれのような美しい金色に輝いていた。


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