第8話 お出迎え
⑧
妙に明るい迷宮の階段を昇り切って外に出ると、案の定外はもう薄暗い。人の目にも困らない程度ではあるけど、ちょっとした見落としが増えるくらいの明るさ。
そんな中で、目の前には明らかに堅気ではなさそうなスーツで強面の人たちが二十人くらいで迷宮の入口を囲んでいる。
彼らの足元には、震えた老人たち。何人かは赤ん坊を抱えているね。
『何だこれ』
『こわ』
『どういう状況?』
『ハロさん大丈夫?』
配信付けたままなの、失敗したかな。
「こんにちは。いや、もうこんばんはかな、お兄さんたち。それで、怖そうなお兄さんたちが、私みたいな小娘にいったい何の用かな?」
正面にいた白い小奇麗なスーツを着た男を見て言う。
一人だけどこにでも居そうな、いわゆる
隣にいる目の下に傷跡がある巨漢の方がボスっぽいけど、血の匂いが一番濃いのがあの普通の人なんだよね。
「ちょっとばかし、小耳に挟んでね。このおかしな世界で配信なんてして、馬鹿みたいに稼いでる嬢ちゃんがいるって」
男は肩を竦めて見せるけど、油断はしていない。だからこそのお爺さんたちかな。
「確かにそれは私だけど、だったらどうするの?」
「なに、簡単だ。俺たちに嬢ちゃんのspを分けてくれやしないか? この通り、老人や子どもが多くてね」
「嫌だけど?」
男は当然って顔。想定通りみたい。
「何も全部とは言わねぇよ。この後飲む水代くらいは残してくれていい。でもよ、子は宝って言うだろ?」
自分でspを使えないなら飢え死にするって言いたいのかな。
「残念だけど、あなた達に渡すspは無いなぁ。仮にお爺さんお婆さんに渡しても、どうせ後で全部奪うんでしょ?」
「まあそうだが、残念だ。じゃあ使い方を変えよう」
強面たちが人質に各々武器を向ける。青龍刀だったり拳銃だったり、ドスだったりで色々だけど、ともかくこれで漸く力でサクッと解決できる。
配信しちゃってるから、一応正当防衛ってことにしてから手を出したかったんだよね。
『人質とか最低……』
『ハロさん、助けてあげて!』
『これだからヤツらは』
コメント欄の反応的にも大丈夫だ、ね……?
「ちょ、待っ――」
私が叫ぶより早く、正面にいた男の青龍刀が振り下ろされた。白いスーツに、赤い飛沫が散る。
世界が止まったのかと思った。コメント欄すら動かない。
徐々に時は動き出して、嫌でも私に現実を認識させる。
『嘘だろ……』
『なんで』
『ちょっと俺、無理』
『くそじゃん』
「あー、やっぱいいねぇ、この感触」
赤ばかり鮮明に映る視界の中で、男は笑っている。
「ハロさんよ、さっさと有り金全部置いて行かねぇと、どんどん犠牲が増えるぜ? まあ俺はそれでも構わねぇけどよ」
何言ってるんだ、こいつは。
「いや、有り金全部じゃ足りねえな。ついでにお前も俺の女になれよ。そしたら、こいつらも生かしておいてやるよ」
本当に、何を言ってるんだこいつは?
「見え透いた嘘ね」
「そんな事ねえ。今は、生かしてやるさ」
下卑た笑み。下品で、本当に、クズのような。
『今はって、後で殺すって言ってるようなもんじゃん』
『え、そういうこと?』
『八方ふさがりじゃんやば どうすりゃいいんだよ』
『ハロさん頑張って』
「おーおー、応援されてんぜハロさん。無責任なこいつらの期待に応えてひと暴れするかい? この人数に?」
それしかないと分かって言ってるんだ、こいつは。
「おっとー、手が滑っちまったぜ。あーあー、また一人死んじまったぞ? ちげーわ、二人だ。ガキもいた」
くっ……。
いいよ、分かった。お望みどおりに、暴れてやろう。
「後悔して」
まずは人質を解放する。
魔法で地面から壁を生やし、お爺さんお婆さんを囲う。距離があるから時間がかかったけど、不意を打ったお陰で間に合った。
『ナイス!』
『ぎりぎりセーフ!!!』
『こいつら、躊躇なく殺しにいったぞ、なんでだ』
『あれか、レベルアップ狙いか?』
「コメント欄のお前、正解だよ。人間ってけっこういい経験値になるんだぜ?」
やっぱり、それも考えていたか。
私はあの女の子を助けた時に知った事だ。
「この女がそれなりに強いのは知ってるからよ、ちょっとでも確実にやらないとだろ?」
こいつ、まだ何か隠してる?
いや、関係ない。もう容赦しない。
「だから、こういうもんも仕掛けてたんだ」
爆発音が響き、空気が揺れる。
音の出どころは、私の作った壁の内側。男が腕時計の横を摘まむのと同時だ。
「知ってたか? こういう形でもレベルは上がる。ついでにspもな」
『下種野郎!』
『死ねカス!』
『てめぇらなんか生きてる価値ない!』
『最悪だ……』
『怖すぎだろ』
『ハロさん逃げて!』
「コメント欄でわーわー喚くんじゃねぇよ。もうちょっと我慢してたらこの女のいい所が見られるんだからよ。感謝しろよ?」
男の暗い色を湛えた瞳に悪寒が走る。
気持ち悪い。ただただ気持ち悪い。
一応配信内では殺さないようにしようと考えてたけど、知らない。
無言で地面を蹴り、一番手近にいた男を真っ二つにする。
続けて尾で隣の男の足を取って転ばせ、顔面を踏みつぶした。地面が割れ、再びコメント欄が止まるけど気にしない。
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