第6話 検証は大事

 そんなこんなでやって来ました、某有名ショッピングモール、があった場所!

 龍になった影響なのか、人間四人をコロコロしちゃっても精神的には特に問題なし。これはいよいよ、社会のしがらみに囚われる訳にはいかないかもしれない、のかもしれない。知らないけど。


 しかし、けっこう広い範囲で建物が消えているみたい。ペンギンみたいなマスコットが目印のディスカウントストアも見当たらない。

 

 代わりに空白地帯の中央に鎮座しているのは、白木造のパルテノン神殿、のような何か。ここは屋根がなくて、中央あたりに地下への階段だけがぽっかり口を開いている。少し前から小雨が降り出したけど、不思議な事に、その内側が濡れている様子はない。


 配信するならここからかな。ここを秘匿する必要は無いし。

 前回の迷宮が違う場所だったって繋げる人もいるとはお思うけれど、それは別に問題ない。


 仮面は、また同じの交換すればいいから燃やしてっと。


 それじゃあ、配信開始っと。

 ん、設定は引き継がれるみたいだね。良かった。


「あーあーあー。おはよう皆。八雲ハロだよ」


 『待ってた』

 『やっぱ可愛い』

 『うpおつ』

 『こんにちは』

 『ハロハロー』

 『渋谷か?』


 視聴者数、同接は昨日と同じような動き。よしよし。


「今日の配信はここ、分かる? そうそう、渋谷。渋谷でやっていくよ」


 渋谷初めて見た、か。次に旅行できるようになるのはどれくらい先になるかな。

 まあ、今考えても仕方ないか。


 『ここ、渋谷の迷宮って噂のとこじゃん』

 『どこだここ』

 『え。渋谷の迷宮探索?』


「ん、勘づいた人もいるみたいね。迷宮スレを見てた人かな?」


 同接百十五万と少し。多いなぁ。元経済学徒としては面白い状況だね。

 コンテンツが社会に浸透した状態で環境を完全にリセットしてからの先行者利益。

 うわぁ、何に生かすんだろ? そんな研究。


「そう、迷宮だよ。この渋谷の迷宮を探索しつつ検証とかしていこうと思ってるから、何か試してほしい事があったらこのスレッドに書き込んでいってね。考察は、検証を始める前にその項目用のスレッドを立てるからそっちでお願い。それ以外のコメントはそのままコメント欄にどうぞ!」


 コメント欄で全部処理するにはちょっと人が多すぎるからね。

 これで問題ないなら、モデレーターを選んで手伝ってもらう必要はない。上手くいくといいなぁ。


「ちなみにこれが迷宮の入口。配信で見えてるか分からないけど、今雨降ってるのに階段より下は濡れてないんだよね。空間が断絶してるのかな? 不思議」


 試しに槍の柄を突っ込んでみるけど、抵抗は無し。


 『マジで迷宮ってなんなんだ』

 『ほー、凄いですね』

 『これ、周りの柱とかも不思議物資うだったりするのかな?』

 『確かに。検証スレに書き込んでくる』


「お、早速検証。迷宮を囲む建物は壊せるのか? いいね、やってみよう」


 ん-、あの柱でいいかな。

 槍をしっかり握り、思いっきり魔力の強化もして……。


「ふっ!」


 遠心力も利用して全力で叩きつける。

 凄まじい音が周囲に響いて、衝撃だけで周囲の建物の窓ガラスが割れた。耳をつんざく様な音が辺りに響く。


 うわぁ、割と距離あるのに。全力だとこんな感じなんだ。

 ていうか手が痺れた。痛い。


 『やば』

 『バカじからじゃん』

 『え、ハロさん体力何です?』

 『うるさ!』

 『今金色になってなかった?』


「いやー、私もびっくりだよ。体力はAだけど、魔力を使って強化したからね」


 お、【魔力こそパワー】ってスレッドが出来た。センスがネット民。

 やっぱりこういうの直ぐ使いこなすのはネットで慣れてる人なのかな。


 で、柱の方はっと。


「うわ、傷一つ付いてないよ。見える、これ」


 『あれで無傷矢羽』

 『木みたいだけど違う?』

 『これ、いざという時に避難所になんないかな』

 『↑天才現る。避難所か』

 『迷宮から魔物出てこないのか?』


 避難所ねー。確かに魔物が出てこないなら使えるよね。

 よし、後で試そう。


「誰か、検証のとこに魔物が出てこないかっていうの書いておいてくれない?」


 『もう書きました』

 『自分で書け』


「お、ありがと! それと、絶影さん? 暴言多すぎるからタイムアウトね。次はブロックするよ」


 『タイムアウトとブロックもあるんだな』

 『主、モデ機能とかないの?』

 『まあ自業自得』


「タイムアウトは伝えるようにするけど、ブロックは無言でしちゃうから。タイムアウトを警告だと思って」


 『はーい』

 『りょ』

 『横暴だろ』

 『ツーアウト制優しい』

 『なんかもう一人タイムアタックされそうなのいるな』


 うん、相手してたら話が進まない。こんなものかな。


「それじゃ、入るよ。グロいのダメな人は一応モザイク機能あったから使ってみて」


 よし、行こう。


 コメントを視界に入れながら、迷宮の入口に入る。槍の時と同じで抵抗は感じない。

 石の階段を一歩一歩慎重に降りていく。


 今のところ物音一つしない。感覚も鋭くなってある程度気配が分かるようになったから、たぶん、何も階段には何もいないと考えていいかな。


 『けっこう長いな』

 『これ、地下鉄とかにぶつからないのか?』


 魔力もある程度は感じられるようになったけど、それにも何も引っかからない。

 結局、下りきるまでの五分間で魔物に出くわすことは無く、そのまま一番下に着いた。


 五、六人は寛げそうな小部屋だ。魔物の姿は無し。

 正面には洞窟が続いている。


 『そういえば迷宮に入るだけでspがもらえたりしないのかな』


「残念。今のところ増えてないよ。長時間いたら分からないから、確認しておくね」


 『アーカイブで検証する用にsp映しておいてもらえたら助かるが、流石にダメか?』

 『ダメだろ。銀行口座額を常に配信画面に映しておくようなもんだぞ』


 sp、か。どうしよう。

 

 機能としてはあるし、メリットが無いわけじゃないんだよ。

 もし私のspを見て配信を始める人が増えたら、それだけ沢山の人に検証してもらえるから。


 現状、私を襲ってどうにか出来るような人はいないと思うし。かなりイレギュラーな変化だったと思うから。

 でも、可能性はゼロじゃないんだよね。

 嫉妬で誹謗中傷? どうぞご勝手に。


 ん-、配信者が増えても、問題ないコンテンツだとは思う。見た目的にも、戦闘力的にも、ニーズ的にも。

 一番大変な、まず見てもらう、は先行者利益でクリアしてるし、人が増えるまではまだ時間があると思う。

 そもそも、人間関係を築かずにある程度以上快適な生活が出来たら、それでいいんだよね。


 よし、決めた。


「まあ、いいよ。配信できる人が増えて検証が進んだら私も助かるし」


 『まじか』

 『ハロちゃん神』

 『ハロたんhshs』


 このコメントは、ただのノリって事にしておこう。

 えっと、こうかな。


 『お、出は??』

 『四万?』

 『チート?』

 『バグ技? 改造コード?』

 『配信王に、俺はなる!』


 まあ、大体予想通りの反応。

 あ、配信機能解放スレが加速してる。いい感じ。


「よし、それじゃあ検証を始めてくよ」


 そんな訳で一番近い気配にダッシュ。とっ捕まえる。


 『鼠頭の人間?』

 『尻尾もある。てかハロさんよく普通に掴めるな』

 『分かる。木も過ぎて私触りたくない』


 キモすぎて、かな。


 まあ、もう慣れたから。

 この種類しかいないって事は無いだろうし、ここの魔物は獣と人間のキメラとかかな?


「それじゃ、こいつ連れて入口に戻るよ」


 魔物が出て来るかの検証だ。


 まずは入り口近くに放り出して、私だけ外に出る。

 ふむ、こちらを警戒してるけど、襲い掛かってこないね。


 あ、逃げた。

 再捕獲っと。


 『おー、鮮やかな手並み』

 『無言で捕まえ直す美女。草生えるw』

 『だから草に草を生やすなと、、、」


 なんかコメント欄が楽しそう。


 『でもこれじゃあ検証にならんな』

 『渋谷にいる弱そうなやつ! 現場直行!』


「私だけで全部検証は無理だから、皆もやってくれたら助かるよ。でも無理はしちゃダメ。ゲームじゃなくて、本当に死んじゃう現実だからね」


 『はーい』

 『ハロママ分かった!』

 『うい』


「なんでママ? まあいいけど」


 『よっしゃ公認!』

 『あーあ……』


 全然関係ない事で盛り上がり始めちゃった。

 まあ、こんな非日常だ。こういう癒しがあってもいいだろう。

 配信の中の虚像だけどね、彼らの見ている私は。


「さ、続きやってくよ」


 この鼠男を迷宮の外に向けて、ほいっと。お?


 『なんかぶつかったな』

 『あの不思議バリアー、魔物も通さないのか』

 『理屈が気になるね』

 『よっしゃ近くの迷宮下見に行くぜ!』


 避難所ゲット、かな?


「まだ魔物が出てくるパターンがあるかもしれないし、ココだけかもしれないから、早合点は気を付けて」


 これで何かあって私に責任転嫁されちゃ叶わない。先手は打っておく。


 さ、次つぎ。

 どんどん行こう。

 時間は有限だ。


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