ミダスの館 1日目・到着
迎えはちょうど到着したところだった。
「遺産探偵どのとお見受けします」
霊柩車めいた車に、首が取れているところまで写真通りの運転手。いくらその微笑みが柔らかだろうと、腰丈の位置から声をかけられたなら、あなたも一瞬たじろぐかもしれない。
それでも肯定を返せば、彼女は片手で手際よくあなたの荷物を積み込んでくれる。
後部座席はあなたを座らせ、間もなく車が走り始めた。みるみる内に窓の外の景色が郊外のそれに変わっていく。
道すがら、迎えの彼女はウェンディと名乗った。暇つぶしにと話してくれたことによれば、サーカスの曲馬芸人だったそうだ。芸人を辞し、いまは食客として"ガスパール・ホール"に住み込んでいるという。
「相棒が亡くなりまして。バイク芸に転向を勧められたのですが、気が向かなくて辞めたんですよ」
今は運転手も兼任ですけど、と彼女は笑った。
運転中は彼女の首も一般的な位置に落ち着いている。曲がり角や坂で落ちやしないかと心配する必要はないから、あなたはだんだん車内を見回す余裕もでてくるだろう。もしかすると、隣の席に置いてある藤蔓のバスケットが目につくだろう。運転手ウェンディが思い出したように言う。
「もしよければ召し上がってください。コンソメスープとミックスサンド……だったかな。探偵どのがどっち派か存じ上げないので、コーヒーと紅茶もついてますよ」
曰く、家令スミス氏からの差し入れだそうだ。
まだ到着まで時間はある。腹具合によっては、スープジャーやサンドイッチの包みに手を伸ばしながら車に揺られるとしよう。
「そうそう、伺わなきゃなんですが……」
思い出したように彼女が訊ねたのは、今日の夕飯についてだった。
どこで食べるか、それから何を食べたいのかを知りたいそうだ。長旅で疲れているだろうから、無理のないようにもてなしたいのだと言う。
「居間付きのお部屋にご逗留いただこうと思ってるんですよ。だからお部屋に夕食をお持ちすることもできますし、食堂で召し上がっていただくのも大歓迎です。どっちで食べても大丈夫ですよ。……大丈夫っていうのは」
この国の食の悪評は知ってますよ、とバックミラー越しにウェンディが笑う。
「"ガスパール・ホール"には色んな場所から人が集まってますから、そのぶん、ご飯が洗練されてるんです。スミスさんはスイス、クリゾンテーム卿はルーマニア、エヴェレットはフランスで……香港やアメリカ大陸出身もいたと思うなあ」
美味しいものを用意しているから、と念を押すウェンディを信じるとしよう。
あなたは思うまま、お腹の様子と相談しながら決めるといい。夜中にお腹が空かない程度に軽く作ってもらうのもいいし、明日からの冒険に備えてしっかり食べるのも構わない。
あなたの答えは……。
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※X(旧Twitter)では、以下の選択肢がありました。
・食堂でしっかり食べたい。空腹!
・食堂で軽く食べたい。バスケットのサンドイッチもまだ食べきれていないから。
・自室でしっかり食べたい。静かな所で過ごしたい。
・自室で軽く食べたい。疲れちゃったかも。
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