参加の準備 第二夜・帳面の確認(前編)

あなたは「館の噂について調べる」を選択した。


あなたはパラパラと帳面をめくってみた。建築家のものとの話の通り、中身としては見取り図や館の外観らしきスケッチが大半を占めている。アルファベット表記のメモ書きが添えられているところもあるが、どうやらあなたの知る言語ではないようだ。馴染みのない綴りであるから、外国語にしても専門用語か何かのようだ。一見しただけでは分からない部分も多いことだろう。

腰を据えて、1ページ目から読み始めることにしよう。幸い最初はあなたに分かる言語で書かれている。


「地の底に富がある。

求めるなら高みを目指さねばならない。

昼でも月を臨む掛け橋で、盾を取り、槍を高く掲げよ。

富の館はその意思を知り、万聖節に日が沈むまで思案する。

館が認めれば錠は落ちる。

誰が拒んでも、富の道が叫んでお前を呼ぶだろう。

橋を渡り、地の底を目指せ。

最も暖かく最も小さな部屋に番人が座り、扉の錠前を指差している。


地底の富を見極めるためには、かたちを整え、ふさわしい言葉を扱わねばならない。

1を2に、2を3に、けれど5は1とせよ

Riebe zagel」


「Riebe zagel」とは帳面の持ち主の署名だろうか。字面から見るに英名ではなさそうだが、どこの国の人物だろう。あなたは字面に違和感や既視感を感じるかもしれないが、それは一旦横に置いておいてほしい。今は判断材料に乏しいのだから。


さて、この件は一旦置いておくとして、あなたは帳面の解読に戻ることにした。


「地の底に富がある」

これは帳面の冒頭に記されていたのだから、この文言は謎かけのようなものだろう。遺産のありかを示しているに違いない。

とすれば、遺産は地下階にあるようだ。

そこに行くまでに、規定の順序で決まった操作をするように、ということなのかもしれない。

上へ行ってあれをして、下へ降りてこれをして……ホラーハウスのどの部分が解放されるかはまだ分からないが、どうやらかなり動き回ることになりそうだ。


「1を2に、2を3に」

これもまた、今はまだ未知数な部分が多い内容だ。館での探索に関わるのかもしれないし、あるいは帳面のこの後の解読に必要なのかもしれない。今は読むだけにして、頭の隅に留め置いておこう。


さて、次のページからは建築家のメモやスケッチが書き込まれていた。ここからは本当に帳面として使われていたらしい。癖のあるアルファベットの文字列を読もうとして、あなたは首を傾げるかもしれない。

これは何語だろうか。少なくとも、英語やドイツ語、フランス語ではないようだ。

例えば、屋敷の見取り図の右に添えられた文章。

「ataeta ta hinisoti

kiro hi kana uo kiri doreroniu

koroda dore ku ma niu yaedi

ekorogitiu gi sukitiniu

saroniri wotisu hi sekasu doma

tukiri n kisae」

それから同じページの左隅、屋敷の俯瞰図に並ぶ文章。

「・ataeta ho

 ・temimugee

 ・maehe

 ・ikiru te hawa

 ・mida

 ・karori zowabe kikese bisuxya」

こちらは単語……「・」から始まる形で羅列されているのを見るに、名詞だろうか。

ここから解読するといいかもしれない。

きっと「1を2に、2を3に、けれど5は1」が手がかりになるはずだ。


次のページもまた、スケッチが続く。

目を引くのはページ右上の異形の獣だ。

牛に似た顔にはぎょろつくどんぐり眼が大きく開き、その目線と前足の蹄でもってページの左側を指している。その先に描かれているものはといえば、タイル装飾のスケッチだ。大半のタイルは白い枠組みだけで表されているようだが、一部だけ斜線で網掛けに色が付けられているものがある。スケッチの一部には特徴的な唐草模様が描かれているから、探索の折に似たものを見つけたなら気にかけてみるといいだろう。

このページ、タイルのスケッチの下にもまた、どこの言葉ともしれないアルファベットが記されている。

「timiga guxyonuxyoe toutote sotekiku」

それからアルファベットの横には、あなたに分かる言語での謎かけも。いくつか覚えのある言葉が出てくるから、憶えておいて損はなさそうだ。

「槍には妬み虫がついている。自分を選ばないものを許さない。

盾は怠け者でへそ曲がり。逆立ちしないと動かない。

富の道は寂しがり。仲間と群れているけれど、声を出すのは一人だけ。

番人は腕が好き。暗闇で口を開けている。」


そのあとのページはといえば、部屋の見取り図や何かの仕掛けの設計図が続いた。謎かけもアルファベットの文章もなく、ただスケッチばかり。そうして何枚か捲った先で、あなたは唐突にページが途切れているのを見つけるだろう。

破り取られているのだ。力任せに千切られたのだろう、背に近い部分は紙片が残っているところもある。紙片には見取り図の一部と思しきものが記されているが、あまりに断片的だ。何を指すか推察するのは難しいだろう。

アルファベットの謎を解いたなら、ページが破られた理由も分かるかもしれない。

果たして破ったのは誰か書き手である建築家か、はたまたガスパール・ホールの亡き主人か、あるいはもしかして依頼人の家令スミスか。想像を逞しくするのは構わないけれど、とうぞほどほどに。

今はまだ、残されたページに残るものを見ていくだけにしよう。なにせ、破られたページの間に一枚だけ、きれいに残されたものがある。

そこに描かれているのは鳥と野菜と猫のスケッチと、"Heino"・"Aurel"という人名らしい単語だ。"Heino"それから"Aurel"についてはお手本らしい整った文字の下に、筆致の違うものがいくつか書かれている。またページを捲るときにでも触れたなら、たくさん書いてある方が随分強い筆圧で書かれたことを知るだろう。最初の文字の"H"あるいは"A"など、ペンを置いたまま悩んでしまったのか、インク染みが広がっているところまである。

この帳面の持ち主が、小さな子どもに文字を教えている。あなたはそんな光景を思い浮かべるかもしれない。その幻視が実際にあったなら、その子は当時のガスパール・ホールの住人だろうか。と、妄想はそこまでにして、このページの裏を見て、一旦調査を終えるとしよう。裏面にあるのは目に馴染んできたアルファベットの文言ばかりだ。

「hisegu do niriniu

ataeta hi daesuto wotisu ta

kaniu naki

kiro hi taru gi seku di

nahiri gi seku di

atubi gi seku do

siko gi seku di

aegawa ta tu ta nuke ta hano

saro yaru kuteta seku di

kana uo n nikesutiri kutokeroreki」



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