ミダスの館

@fax_Aoki

参加の準備 第一夜・参加のお誘い

あなたの家に小包が届いた。

中身は手紙と、小さな黒い革のノート。

覚えのない郵便物だ。あなたは警戒しながら手に取るかもしれない。

革のノートのタイトルを読んだなら、あるいは手紙を開いたのなら、届け物の意味を知るだろう。

『サナトリウム・ホラーハウス

 十月の特別アトラクション

    ミダスの館     』

その通り、十月が来た。

サナトリウム・ホラーハウスにもハロウィンが来る。

そして、あなたはその招待状を受け取ったのだ。


さて、あなたは帳面が気になるかもしれないが、まずは手紙を開こう。

大ぶりな桃色の封筒を開き、あなたが取り出したのは三枚一組の手紙と、ひとまわり小さな黒い封筒が一つ。

手紙はというと、こんな文言が綴られている。


「親愛なる歴戦のお客様


このたびは、我らがサナトリウム・ホラーハウス特別公演へ名乗りを挙げていただき、誠に嬉しく思います。

我らホラーハウス案内人一同は待ちわびるあまり、十月のこの佳き日をもってご招待のお便りを出させていただきました。

さて、あなた様におかれましては壮健にお過ごしでしょうか。

いかに心の広いあなた様といえど、まさか季節の病とも仲良くしてはおりませんことを願っております。


前置きはこのくらいに、公演の話を致しましょうか。

さて、この度あなた様には、トレジャーハンターとして公演に参加していただきます。

トレジャーハンターというと帽子に鞭のあの男が思い浮かぶところですが、いいえ、とんでもない。

あなた様が大きな岩石に追い回されたり、怪力自慢の暗殺者と戦ったり、人食い鮫の棲む難破船を探検するようなことはございません。

あなた様の異名は"遺産探偵"。

偏屈な故人の残した謎かけで守られた金庫や、顔すら知らない先祖が広大な領地に隠した埋蔵金。

遺産の継承者たちから依頼を受けて、それらを探し当てるのがあなた様のお仕事です。


今回あなた様が挑むのは、『ミダスの館』。

ガスパール・ホロウのこのマナーハウスにはかつて富貴を極めた一族が住んでおりました。

今はそれも衰えて、先日最後の館主が息を引き取ったところ。

その遺言の履行を任された使用人たちが、他ならぬあなた様を雇ったのです。

詳しくは、同封した黒い手紙と黒い帳面をご覧ください。

こちらは依頼人たちが、他ならぬあなた様こと"遺産探偵"に宛てた手紙なのですから。


では、来る10月28日。

サナトリウム・ホラーハウス改め『ミダスの館』にて、あなた様をお待ちしております。


サナトリウム・ホラーハウス 案内人一同」


どうだろう。あなたがホラーハウスに通い慣れたひとであるなら、案内人の誰かの呼び声が聞こえたのではないだろうか。

そうでなかったとしても、あなたは早々にもう一つのの封筒を開いてくれることだろう。

こちらには先ほどとは別の筆致で、"遺産探偵"たるあなたに対する依頼について記してある。


「遺産探偵どの


突然このようなお手紙を送りましたご無礼、深くお詫び申し上げます。

あなた様のご高名を聞き及んでのことと、どうかご容赦下さい。

私はガスパール・ホールにて家令を務めますスミスと申します。

先日当館の主人が亡くなり、私が遺言の履行を任されました。

今回ご連絡差し上げましたのは、お察しの通り、この遺言についてあなた様に依頼したいと思ってのことです。

遺言は大きく分けて三つございました。

一つは、財産分与について。

一つは、旦那様の甥御様にあたる遺産の継承者を探すこと。

この二つはつつがなく進んでおりますが、もう一つ、何とも悩ましい命令があるのです。

主人は当館の本当の遺産を探せとお命じになりました。探し出し、甥御様に継がせるべきか見極めるようにと仰せなのです。


当館、ガスパール・ホールには秘密があると聞いています。館の主だけに受け継がれる秘密であり、それでもって当家は栄えてきたのだと、先代の家令からも伺いました。

その秘密ゆえ『ミダスの館』などと陰で呼ぶ輩もいるほどで。

けれど、それが何で、どこにあるのか……。

我々には皆目見当もつかないのです。

同封した黒い帳面は、手がかりとして旦那様から引き継いだものでございます。

ガスパール・ホールの増改築に携わった建築家のものと伺いましたが、果たしてどう用立てるべきなのかも我々では首を捻るばかり。

遺産探偵様。

どうかそのお力を、我々にお貸しくださいませんか。建築家の帳面については、無期限にお手元に置いていただいて構いません。加えて必要なものがあれば用立てましょう。

ですからどうか、当館にお出でいただき、その目と手足でもって、ガスパール・ホールの遺産なるものを探し出していただけないでしょうか。

どうかご一考のほど、宜しくお願いいたします。


ガスパール・ホール家令 

シアバーン・スミス」


あなたは手紙を封筒に戻そうとする。その時、桃色の……大きい方の封筒にまだ何か入っていることに気付いた。小さな一筆箋だ。

追伸、と書かれている。


「親愛なるお客様


同封のお手紙はお読みいただけたでしょうか。

この依頼を受け、あなた様は『ミダスの館』あるいは"ガスパール・ホールの遺産"に挑むことになるわけです。

さて、今回のあなた様には"遺産探偵"として築いた情報源と交友関係がございます。 

もし、ガスパール・ホールについて何かお知りになりたいのであれば、追加情報を一つだけお送りすることが可能です。

とはいえ、ご自分の力だけで建築家の帳面を調べるのもよろしいでしょう。その場合も一つだけ、今後のために役立つものをお送りさせていただきます。

弊社ホームページにアクセスし、下記の選択肢から必要なものを教えてください。

(期限まで無回答だった場合は"今後のためのもの"になります)


⑴館の歴史について

⑵館の構造について

⑶館の歴代の住人について

⑷館の最後の主について

いかなるものであれ、あなた様の回答をお待ちしております。


サナトリウム・ホラーハウス」


追伸の裏面にはQRコードが印刷されている。

あなたはサナトリウム・エンターテイメントのホームページにアクセスした。


並んだ選択肢のどれを選ぼうか。

あるいは選ばないという選択肢もある。

回答期限は10/11(火)の夜21時。

帳面を読んで選ぶも、いま選ぶも、あなたの自由だ。


__________________________

※作者注記

すでにこちらの投票は終了しています

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る