第6話

 四月一日。

 全ての人にとって重要な始まりの日である。

 この日、スカイブリッジ社の社員は、郡山市の開成山公園・開成山大神宮を訪れていた。

「いやー、今年も見事な桜だな」

 桜並木の中を歩きながら、宗像は感嘆の声を漏らす。航平も「ああ」と同じく桜に見惚れながら同意。

 開成山公園・開成山大神宮は福島県内でも有数の桜の名所と言われている。毎年千本以上の桜が咲き誇り、中には明治時代に植えられた桜も存在するそうだ。市民から愛される場所であり、春になると桜を見に多くの市民が訪れる。

 スカイブリッジ社は午前中で業務を終え、全社員で公園を訪れた。本日の天気は晴天であり、花見に最高の日和である。

「吉野、これ」

 航平は吉野に一万札を手渡す。

「お小遣いっすか?」

「違うよ。屋台で団子買ってきて。あと何か酒のつまみを適当に」

「はい。いってきまーす」

 航平達は適当な場所を陣取り、ブルーシートを広げる。平日のの昼間なので、花見客はまだ少ない。そのため結構いい場所を取ることができた。

「皆さん、これ親戚からもらったの。遠慮なく飲んで」

 事務を担当する伊丹奈緒いたみなおは日本酒を注いだ紙コップを社員に渡していく。伊丹は五十代の女性であり、航平が事務を募集した時に唯一応募してくれた。会社では最年長であり、社員の母親役となっている。

「お待たせしましたー」

 吉野は両手に団子とたこ焼きを抱えてきた。吉野が戻ったことで花見を開始。

「じゃあ、社長、挨拶!」

 宗像に振られ、航平は紙コップを片手に立ち上がる。

「ごほん。えー、まず前年度はご苦労さん。取引先が倒産するっていう事件はあったけど、後から単発の小さな仕事が入ってきてなんとか黒字にできた。新しい年度を問題なく迎えることができた。これも皆のがんばりのおかげだ。新入社員は入ってこなかったけど、仕事もいくつかすでに受注しているし、いいスタートをきれたと思う」

「給料とボーナス上げて!」

「宗像、うるさい。……まあ、儲かったら、皆にきちんと還元するから。今年も一緒に頑張ろう。今日は英気を養う日。皆、楽しんでほしい。では、乾杯!」

「「乾杯!」」

 社員達は酒を飲みながら、舞い散る桜を愛でる。酔っ払い大笑いする彼らを眺めて、航平は自然と頬を緩めた。

 今年度も皆と楽しく仕事をできそうだ。宇宙の仕事もするし、今年は会社が大きく飛躍するだろう。

 航平は社員達の笑顔を見て、会社の明るい未来を思い描く。



 市場には多くの会社が参加しており、それぞれが利益を得ようと野心を抱く。彼らはありとあらゆる手を使い、自身の野望を実現させるべく、陰日向に活動している。会社は他社の思惑に否応なく影響を受け、巻き込まれるのだ。自身の思い通りに事が進むことの方が少ない。

 その当たり前のことに、経験浅い若き経営者はまだ気づいていなかった。

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